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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
55/82

55.

 ボンガーは持ち前の何言ってるか分からない罵声で群衆を黙らせた。“キョエー”なのか“ゴガー”なのか名状しがたい。


 だがそれは兎も角、我はまず、こんなどうしようもない王に権力を持たせ、好き放題させてしまったリラティヴィステットラントの臣民の目を覚めさせなくてはならない。我はティトゥス皇帝陛下の国を救えと言う命を全うすべく、その布石を予め敷いておかねばならない。ついでに士気も上げに行く。


 我は、静かになった隙をついて呼びかける。


「北の親玉」

「なんだよ」

「もし、この王を鞭打てと言ったら、お前はやるか?」

「はぁ!?」


 我は兵士に命令する。


「北の親玉の縄を解いて、鞭を持たせよ。そしてキャッツェガング王を吊るせ」

「──え!?」


 我が罪人の縄を解き、容疑者を鞭打てと要求するのである。キャッツェガング王は勿論騒いだし、リラティヴィステット王国軍と民は動揺した。だが、王は吊るされるべきと考える第十軍兵士は素早く処刑の準備を整えた。しかし、北の親玉の縄はどうするか、最後の最後で“本当にいいのですね?”と、確認の一瞥を兵士は送って来た。我は再度命令する。


「構わん。解け」


 北の親玉は意味が分からないと我に問いかける。


「だって、こんな奴でもこの国の王……だぜ?」

「お前はこいつを、まだこの国の王と認めるのか?」

「いや、それは……」

「お前は賊を代表して、戦死した大将の代わりにこの王を鞭打て」

「マジかよ……」

「マジだ。回数は敢えて決めない。何発でもいい。百回でも一万回でも、一回だけでもいい。──打て」


 そして我は群衆に言い放つ。


「──お前達はこの王に何か幻想を抱いていないか? お前達が言うこの王の罪が本当だとするのならば、何故この王は生かされている? 本来であれば、とうの昔に逆心にあって殺されていても可笑しくは無いのではないか? なのになぜ生かした?」


 リラティヴィステット王国軍の兵士は、“そ、それは……”と言うような顔になった。


「そうだ。こいつがどんなにクズでもこの国の王だからだ。だから皆どこか恐れ多くて手を出せないでいるのではないか? 全くもって見上げた忠義心である。そう、お前達の根底にはこの国への忠義心が厳然としてあるのだ。──この賊であってもな!」


 因みに我は、だから賊は許されるべきと言っている訳ではない。本題はこれからである。


「お前たちは、王や政治家は生まれながらの聖人君主で、立派な善政をしてくれると何か勘違いしているのではないか? だが実際は違う! こいつもお前達と同様、同じ人間であり、同じように罪を犯すのだ! 目を覚ませ! そんな者にお前達は忠義を誓うのか? 専横を許すのか!?」

「──違う!」


 リラティヴィステット王国軍の兵士の一人が叫んだ。


「そうだ。断じて違う! お前達リラティヴィステットの兵士は、この美しい国、婚姻の歴史が刻まれた国、則ちお前達とその配偶者、家族を愛していて、それに忠義心を抱いているのであろう!」


 すると、ちらほらと“そうだ!”と合いの手を入れる兵士が現れた。我はそれを聞いて続ける。


「そうだ! 目を覚ませ! そして歯を食いしばって考えよ! 怠けるな! 酷い目に会った事を思い出せ! それを原動力に、どうしたら自分でこの滅茶苦茶になった国を救えるかを自分で考えるんだ! こんな王に頼る事なく、自分で考え、自分で行動し、自分でこの国を救う努力をするのだ!」


 では最後に


「──この王がこの国なのではない! お前達がこの国なのだ!」


 すると、ルキウス卿が空気を読んで合いの手の拍手を入れてくれたのを皮切りに、そうだそうだと賞賛の嵐が我を迎えてくれた。正直うまくいくか分からなかったが、この場は我に味方してくれた様で助かった。ルキウス卿様様である。つくづく我は運が良い。


 そして士気高揚とした群衆は、遂に賊に王を鞭打てと言いだした。


──キャッツェガング王はそれに絶望した。


 北の親玉は群衆に押されているが、それでもまだ我を見て、どことなく指示を仰いでいる。やれやれ、まだ我に頼るか? 我は言い放った。


「──打て!」


 すると北の親玉は少し間を置いて一時感慨に耽り、そして決心がついたのか、王を試しに一発鞭打った。バチンと背中の皮膚を打つ音が、その場を(つんざ)く。


「ぎゃぁぁああぁぁあああっ!」


 キャッツェガング王は、今までに体験したことも無いのであろう痛みに悶えた。すると北の親玉は、それによって心の奥底から噴き出してきたのだろう怒りの様な物に、凄い憎しみの形相となって、次は本気の一撃を溜めてからお見舞いした。


 バチンッ!


「うぎゃあぁっぁぁぁっぁぁあ!!」


 群衆は大歓声である。今まで隠れていた恨みつらみが噴き出してくる。想像も絶する殺す勢いの罵詈雑言に、キャッツェガング王は二重に鞭打たれた。これはもはやスケープゴードである。大炎上中である。


 そして北の親玉は、今までの全てを、眠っていた思いの丈全てを、三発目に託して全力で打ち込んだ。


 ドバチンッ!


「くぁwせdrftgyふじこlp──……」


 ……おや? 絶命したか? 第十軍兵士が確認してから言う。


「──気絶しました」


 気絶だったか。すると北の親玉は鞭を捨て、呆れて我に言ってきた。


「もういいだろう! もういいから、俺をさっさと処刑してくれ……!」


 罪の意識が芽生えたのか? 無益だと悟ったのか? 北の親玉は、今度は何を思ったのか自身の処刑を我に要求してきた。群衆はその事に次第に静かになっていって、我の沙汰に耳を傾けた。


「お前は認めるんだな?」

「さっさと殺してくれ! 俺はそれだけの事をしてきた!」

「わかった、いいだろう。だが、ただで死ねると思ったか?」


 我は賊共に沙汰を下す。


「お前たちのした事も断じて許せる事ではない。──よって全員、呪われし荒野に流罪とする!」


 ボンガーは、大笑いした。

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