54.
我はまず、賊共に沙汰をする上でその責任者を引き摺り出させた。
賊の最初の数は二万近くいた。つまり、二万近く集めるカリスマ性や統率力、組織構成力を持った者が善悪はどうあれこの賊の中にいる事は確かであった。しかし、その可能性が最も高かった賊の親玉は最初の戦闘で戦死している。
そもそも強奪、強姦、虐殺を平気でする賊が、二万も集まって組織を構成するとか、それはとんでもなく並々ならぬ事で異常である。何か途轍もない外圧が加わっているのではと疑わざる負えない。あの、頭の可笑しいキャッツェガング陛下一人の影響で、ここまでなるだろうか?
もしかしたら背景に混沌のアーティファクトがあるのかもしれない。
とまれ、包囲北の賊と避難してきた南の賊を纏め、我が帝国正規軍に見事対陣をして挑んで来た北の親玉はまだ生きていた。我はそいつとじっくり話をする事にした。
「まず、名を名乗ってもらおうか」
「──はぁ!? ガキはすっこんでろ! どいつが大将だ!」
“ボカッ!”ボンガーは北の親玉をぶん殴った。そして北の親玉は少し間を置いて、まさかと察した。
「……まさか!? こんなガキに俺達は負けたのか!?」
“ボカッ!”北の親玉はまたボンガーに殴られ“ぐ、ぐふっ……”している。
「ボンガーもういい。あまり殴りすぎると話せなくなる」
「わかった」
我は自己紹介する。
「我はエラグラウム帝国、宮廷伯爵中将、帝国軍第十軍指揮官のファルマである」
「おいおいマジかよ……」
我の周りの者は皆堂々と賊共を見下す。すると嘘ではないと察した賊共は騒然とし、ショックのあまり俯いた。
「けっ……」
「我は、貴様に聞きたい事が山ほどある」
「う、うるせぇ! さっさと殺せやクソガキが!」
ボンガーはまた北の親玉をぶん殴ろうとしたが、我はそれを止めた。
「我には、お前等賊軍二万が、全員生まれながらにして性根の腐ったクズとは思っていない」
「いいや、俺達はクズだねっ! お前馬鹿なのか!? さっさと煮るなり焼くなりしやがれっ!」
「じゃあ何故降伏した? 最後まで戦えば望み通り皆殺しにしたのだが?」
「は? しらね~よクソが!」
「降伏すれば、ワンチャンあるかもと思ったんじゃないのか?」
「うぜ~よっ! 黙れ!」
「ままぁいい……。しかし、なぜお前達は罪もない人達に暴虐をした?」
「はっ! そんな知れた事……!」
「やはり、あの国王のせいか?」
「うはは! あの国王は俺達のスターだぜ! うははは!」
「──スター?」
「どう考えてもスーパースターだろ? 最高の暴虐を、最高の自己中を俺達に示して、手本になってくれた暴虐非道のスーパースターだ!」
「なるほど。あの国王がした事、詳しく教えてくれないか?」
「は、はは! お前一体何なんだよ!?」
「いいから、早く」
「その前に、南に居た俺達の大将はどうなった?」
「戦死した」
北の親玉は、え? と言う顔になった。ボンガーが自慢げに言う。
「ニンゲンとしては、アイツはまぁまぁ強かったぞ! ガハハ!」
北の親玉は少し腰を抜かして、そして徐々に涙目になっていった。ボンガーはそんな北の親玉をディスる。
「お? 泣いてるのかお前? ガハハ!」
「なっ! 泣いてねーよクソが!」
「ほら、ほらほら! 泣いてるぞこいつ! ガハハ!」
「くっ……ぐぐぐぐっ……」
ボンガーに煽られながらも歯を食いしばって涙を堪える北の親玉。賊共はショックのあまり俯いている。そうか、やはり相当賊の大将はカリスマ性を持っていた様だな。しかし死んでしまってもういない。我は淡々と再び質問する。
「──キャッツェガング王は何をした?」
すると、いい加減北の親玉は白状し始めた。
「あいつは……あいつは……俺たちの大将の娘と妻と、母を無理やりレイプして孕ませ、都合が悪くなると母子共に適当な罪をでっちあげて処刑した!」
おおっと? まさか親子丼三代を食い殺したのか? あいつが……? これは本当なら凄まじいのである。その為ルキウス卿は“本当か?”と疑う程驚き、我の抱っこ係は眉間にシワを寄せ、我が軍は顔を見合わせた。するとキャッツェガング王はすぐさま叫んだ。
「──嘘じゃ! コイツの言う事は嘘じゃ! ファルマ! こいつは賊ぞ!? 賊の言う事を信じるのか!?」
しかしそんな自己弁護も、リラティヴィステット王国軍の兵士は冷ややかに見下す。そしてその一人が我に意見する許可を求めてきた。
「ファルマ様、よろしいでしょうか?」
「よい。申して見よ」
「ハッ。その話は、国中が知る所であります」
「──っ!?」
我が軍は驚いた。道すがら評判が悪いとは聞いていたが……。疑うルキウス卿は他の王国軍兵士に問う。
「──それは本当なのか!?」
王国軍兵士の大半が無言で頷いた。我は言う。
「なら、逮捕して正解だったな」
賊はおろか王国軍兵士でさえも、何人か、我のこの発言に噴出し笑いをした。
その後はもう賊に兵士と関係なく、止まらなくなった鼻血の様にキャッツェガング王の悪行が噴き出してきた。その度にキャッツェガング王は相槌する様に“嘘じゃ!”と叫んだが、誰も信じなくなった。
かなりざっくり計算しても、キャッツェガング王の懲役は、地獄で三百万年位が相当だろうと我は思った。だが噂には尾ひれはひれ付く訳だから、中には本当に嘘もあるかもしれない。それに物的証拠の提示がないし我が勝手に異国の王を処断してはならない。が、あまりにも証言が多過ぎる。
もはや我やルキウス卿と言った軍幹部そっちのけで、群衆はガヤガヤとキャッツェガング王の悪行の数々を幾つ言えるか言い争う始末となってしまった。ルキウス卿はうるさい中、我に問う。
「どうする? ファルマ卿」
「皇帝陛下は国を救えと言ったが」
「勝手にやるか? 内政干渉になるぞ?」
「我が軍は“窮状に悩むこの国を救う為”援軍として入った」
「ならやっちまうのか?」
「援軍として入り、守るべきを悩ませる原因が、守るべきを統べるはずの守るべき王であったなら、ルキウス卿はどうする?」
「んんん……。判断が難しいな……」
「どっちにせよ、既に我が帝国はこの国へ軍事的に内政干渉している」
我は激情ぶっちゃけ裁判に笑うボンガーに命令した。
「群衆を少し静かにさせろ」
「──御意!」