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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
52/82

52.池ポチャ亭の戦い

 さて、お馴染みの陣容確認である。


挿絵(By みてみん)


 ゴブリンもコボルトも、人間も、落ちる所まで落ちればその様相に大差はない。人間は、何かに付けて他者を差別し侮辱し人の名誉や生きる誇り、その信念を鞭で叩いては優越に浸る癖があるが、こうして見ればその人間も被差別者と変わりなく、全くもって目糞鼻糞笑うであった。


 キャッツェガング王は何をやって、この様な者達をこれだけ集めさせ、横暴させるに至ったのか? 是非とも彼らにじっくり話を聞いてみたい所だ。とまれ、我の目の前に居る敵軍は、かつてローテツダッハで戦ったゴブリンコボルト連合軍に毛が生えた程度の奴等であった。


 敵の剣、斧、槍。それらに統一感は全く無く種々雑多で、兵科分けせずに一括りにまとまっている。どれも使い古しの中古品と言った感じであるが、それぞれ得意な装備を持ち、あれこれ複雑に命令しなくても良いメリットはあって、これを侮る事は出来ない。ある種、万能な混成部隊と言う所である。


 そんな敵は、右翼に騎兵を集中し、広く空いた北側の丘を守らせている。だがその数はそう多いわけではなく脅威度は低そうである。よって、敵の主力となるのは南の川から中央へ(ひし)めいている歩兵である。その数は此方の歩兵の数より多く危険である。


 また、敵の数が多いのは歩兵だけではない。弓隊もである。元は猟師だろうか? それとも密猟者だろうか? その装備は、軍用のはそう多いわけではなく、基本的に狩猟用の物が殆どの様に見える。あれなら此方の盾で十分防げる。


 次に、此方の陣である。


 中央は、大きな盾と重めの片手剣を標準装備した帝国軍軍団兵で、鉄床戦術の鉄床となれるようガッチリ戦列を整えた。その左端には今回我が指揮下に入ったリラティヴィステット王国軍の歩兵も参加していて士気も高い。我が軍は緊張と恐怖を払拭する為、剣で盾を叩き敵を威嚇する鬨の声を上げている。


 その後方に配置した弓隊は、上級者向けの複合弓やロングボウに和弓ほどの威力のある弓を装備していないが、コストが安く訓練のしやすい中程度の軍用単弓を装備している。


 エルグラウム帝国では、狩猟や怪物狩はもっぱら貴族の軍事訓練の代わりとして奨励されているが、怠ける貴族も多く、代わりに獣肉や素材を取る為の猟師を雇う事が多いらしい。なので、大量にとは言えないが、人材の確保はまぁまぁ出来る様である。もしその人材の確保が出来ないとなったら、弓から誰でも威力の出せるクロスボウに取って代わるだろう。


 次に、中央最後尾を守るのは槍と盾で武装した兵科である。これは、我の得意とする車懸り陣を完成させる為の、歩兵単独方円陣的な意味で配置している。槍は騎乗兵に有効で、この配置ならばその回り込みにも対応させやすい。


 また、戦列にほころびが、もしくは突破されたり消耗したりした時の補強用にすぐ援軍を送れるよう多層防御的な意味もあってここに配置されている。もし彼らが暇なら、戦況は有利とも言い換えられるだろう。


 そして、本日の要である我が軍左翼である。


 敵右翼騎兵に正面きって突っ込む一番槍騎兵隊は、荒ぶるボンガーに任せた。ボンガーは人間社会に於いては粗暴で無作法で危険な荒くれ者扱いだが、我が配下の将としては素直で非常に扱いやすい取って置きの猛将となった。


 そしてその騎兵同士の正面戦闘を迂回して敵騎兵側背を取り、車懸りして援護する次鋒の騎兵隊は、ルキウス卿に任せた。彼は我の複雑な戦闘戦術をよく学び、よく理解してくれる最高の元上司であり適任である。


 更に、騎兵による車懸りだけでなく、リラティヴィステット王国軍の歩兵弓兵本隊をその騎兵に追従させ、戦闘が激化する中央歩兵戦闘の北側面を車懸りしてもらう。


 地形は北が高台となっており、戦闘がおこる北に弓を配置できれば、敵歩兵の側面から矢の雨を降らせれるし、歩兵は敵歩兵が中央戦列北側から溢れ出てくるのを抑え込む事が出来る。


挿絵(By みてみん)


 と、解説が済んだ所で、敵はまず大量の弓兵を、最初の一撃を加えるべく前進させてきた。


 存分に矢の雨を降らせればよい。だが、我等の軍団兵は余裕でそれを凌いで見せるだろう。大きく肉厚な帝国軍軍団歩兵の盾でそれを凌げるのだから、わざわざ弓隊を出して無駄な消耗射撃戦をさせる必要はない。


「──テストゥード!」


 別名“亀甲隊形”。それは最前列は前を盾で守り、側面は側面を、そして残りは頭上を隙間なく盾を掲げて守るシールドウォールの防御系上位互換の隊形戦術である。その様が、亀の甲羅に似ている事から亀甲隊形を意味するテストゥードと言う名を与えられた。


 かつてローマ帝国はこの隊形で数多の射撃を凌いできた。一見一方的に見えるが、矢は剣や槍と違いその弾数は有限である。本来出せたはずであろう矢の殺傷を無駄にさせ、弓隊を弾切れさせて殆ど使い物にならない軽歩兵にするための我慢戦術なのである。


 敵の弓隊はおよそ千五百は居そうである。それから放たれた大量の矢は遠目から見ても分かる程、まるで蜂の大群が放物線を描く様に宙を舞った。


挿絵(By みてみん)


 だがその俄雨(にわかあめ)は、頑丈な屋根をノックしただけに留まった。


 その音は“ガガガガガガッ!”と我には聞こえたが、しかし守る当事者からしたら“トトンッ!” と、言う感じの音である。


 その音の元凶に当たれば負傷するか死ぬ訳だが、盾に当たるだけなら、むしろそれは粋な音である。例えるならば、竹で出来た“鹿威(ししおど)し”の如しである。まぁ、当事者でそう思える奴はネジが飛んでいそうだが……。


挿絵(By みてみん)


 敵千以上の弓兵は、その後二・三斉射した後にこれでもかと撃ちまくってきたが、こちらの損害は両手と足の指で数えれる程度であった。士気の高い軍と元民間の兵とではその差は歴然である。圧倒的な訓練と規律の行き届いた装備の差はそうそう埋められる物ではない。敵弓兵はいい加減諦めて奥へ引っ込んでいってしまった。


 そして敵はいよいよ歩兵と騎兵を前に出し、総掛かりの準備を始め、弓で攻撃する距離百五十メートル位から敵方のバトルホルンが戦場に響き渡った。そして、敵軍が鬨の声を上げて突撃してきた。


 それに合わせてボンガーが叫ぶ。


「ボボボボボ!! 来たなっ!? ──突撃ッ! きぇぁlsだlせ;z!!」


 いつもだが、ボンガーはオーク特有の時おり何言ってるか分からない叫び方をする。それはまるで薩摩示現流の叫び声に通ずるものがある気がするが、これ以上の言及は避けておく。


 これに合わせて、事前に打ち合わせておいた作戦を、ビューグル(ラッパ)手に合図を吹かせる事によって我は発動させた。


 中央歩兵戦列は亀甲隊形を維持しながらどっしりと前進し敵の突撃を迎え撃つ。


 そして我等左翼はボンガーの突撃に合わせて騎兵・歩兵・弓兵による“総車懸り”を開始した。


挿絵(By みてみん)


 この作戦は、“エパメイノンダスの斜線陣”に“車懸りの陣”を足して二で割った様な戦術である。この作戦の最終目標は“鉄床戦術”であるのはいつも通りである。


 小車懸りを行い小鉄床戦術を騎兵と歩兵でそれぞれ行う。そしてそれが合わさって大車懸りとなり、最終的に大鉄床戦術を完成させる。我はこれを


──“相槌鉄床車懸り戦術”と命名する。


 この相槌とは、会話のそれではなくて、語源となった鍛冶師の師匠と弟子が交互に熱した鉄を打つ事を言い、その様から命名したのである。


挿絵(By みてみん)


 騎兵同士の正面衝突はいつも息を呑む。


 ガッチリスクラムを組んで突撃を迎え撃つ歩兵と違い、馬の運動と質量が、騎手の持つ槍先に乗っかってド突き合いするのだから、当事者は並々ならぬ度胸が試される。馬同士の正面衝突も多発し、落馬は後を絶たない。故に騎士は人馬共に重装化し、馬上槍(ランス)は長大化していったのは自然の成り行きだろう。


 しかしそんな中、ボンガーとそれを乗せる巨大猪は、敵騎兵を馬ごとぶっ飛ばして突入。手に持つ禍々しく黒い巨大な薙刀のような刃広の太刀を、存分に振り回して人馬を脅かし無双している。流石はボンガー。戦えば戦う程、確実に強くなっている。そろそろ王ゴッズフィストに並ぶのではないか?


 我は抱っこ係に自慢する。


「見よ。あれがボンガーの戦い方だ。呪われし荒野が懐かしい。かの地では、あんな奴がゴロゴロいて、我はそれを指揮して戦わせていたのだ」

「凄く強いですね。私は彼が羨ましいです。私もあのくらい強かったら……」

「オークは女もめちゃくちゃ強いぞ」

「そうなのですか?」

「初めて女オークを見た時、その女オークはあんな屈強なダンナオークを間髪入れずに殴り倒していた」

「ふふ、あやかりたいですね」

「あやかりたい、か……。しかし卿も十分強いと思うがまだ足りないのか?」

「私なんてまだまだです」

「そうか。ならば精進あるのみだな」

「はい」

「因みに初代抱っこ係はそんな屈強な女オークであった」

「そうなのですか。ならば余計、光栄の至りにございます」

「ふふん」


 我は美女騎士に甘えた。ムムムムム~。


 とまれ、左翼の騎兵同士の戦闘はボンガーが奮戦するも一時拮抗した。いずれボンガーが敵騎兵を粉砕し突破を果たすだろうが、もっと犠牲者を抑えて早く効率よく粉砕する方法はやはり鉄床戦術である。


 左翼は歩兵も弓兵も作戦通り車懸り、そして拮抗する騎兵戦闘に決着を付けるべく、ルキウス卿の指揮する次鋒騎兵隊も車懸って敵右翼騎兵の側背を取った。


挿絵(By みてみん)


 敵右翼騎兵は包囲された。絶体絶命である。この状況を打破する方法をむしろ知りたい。


 マキビシ、落とし穴、背後の森から援護の奇襲……。色々あっただろうがどれも敵には無かった。


挿絵(By みてみん)


 ルキウス卿は突撃する。そして一瞬にして騎兵同士の勝敗が決した。


 騎乗は機動力や突進力の増強などメリットも多いが、デメリットも多い。それは、小回りが利かない事だ。真後ろには相当訓練された弓騎兵でもない限り超無防備なのである。そこから馬上槍で一方的にド突かれるのである。


 敵騎兵フルボッコで、我が騎兵隊は敵右翼を突破した。こうして小車懸りは完成である。そして最終目標へ向けて大車懸りに入った。休む暇なんてない。


挿絵(By みてみん)


 また、左翼歩兵も車懸りを完了した。


 味方騎兵が敵騎兵を突破したことにより、敵歩兵の右側面が晒される事になった。もし騎兵の突破が遅れても、後詰の歩兵がその戦闘に参加して更に有利にできただろう。だが、その必要もなく晒された敵歩兵の右側面を車懸って強襲した。それにより敵右翼の歩兵は二正面戦闘を強いられる事となって苦戦は必至である。


 弓隊も同様に車懸りを完了である。


 盾を装備した敵を正面から射かけても盾で防がれ効果は薄い。だが、目の前の歩兵と戦いつつ横から矢を射られると、これを防ぐのは至難の業となる。


 第一次世界大戦で登場した機関銃。当初これは衝撃的であった。騎兵突撃を無意味化し、塹壕戦へ突入する原因を作った。しかし正面から突撃する敵歩兵を撃ってもその効果は制圧的ではあったが絶対的ではなかった。だが、その機関銃の射界を九十度近くに交差させて撃つと、遮蔽物に隠れた敵を脇から一網打尽に出来て、まるで絶対的な防御能力を発揮した。


 これを“十字砲火(クロスファイア)戦術”という。


 現代戦でも十分通用するこの戦術を、我は弓で行うのである。


 意識しない方向から矢が飛んでくる。盾を構えていない方向から矢が飛んでくる。そしてそれに対応するべく側面へ盾を構えれば、今度は正面から味方歩兵の頭を超えて、山なりに放たれた弾幕射撃に晒されるのである。


挿絵(By みてみん)


 この十字砲火で敵軍は背後に回った騎兵への防御体勢が遅れ、それなりの被害を被った。そして我等がボンガーとルキウス卿の騎兵隊は完全に敵軍の六時(はいご)を取り、完全包囲は完成した。あとは敵のプリケツに騎兵突撃の槍をド突き込むだけである。


挿絵(By みてみん)


 敵は完全包囲され殲滅の宴が模様された。


 パニックになった敵は絶体絶命である。中には、川に併設された宿屋の桟橋から川を泳いで渡るべく飛び込む者も現れたが、鎧を装備したまま足のつかない川へ飛び込むのは自殺行為と変わらなかった。


 本来であればこの戦術、南側は敵の撤退路になったのだが、今回はそんな川に阻まれている。こうなると敵は窮鼠猫を噛むしてくる懸念があった。だが、背水の陣で最後まで戦う可能性のあった敵賊軍は、その数四分の一位になってから手に持った得物を地面に捨てて、遂には降伏するに至った。


──我等の勝利である。

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