表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
51/82

51.

 せっせと陛下のご機嫌取りに必死になる茶番侍二人。まぁいずれ取り立てて報いてやろう……。


 しかし、人柄にガッカリするのは前世で飽き飽きである。


 そもそもそれに期待するのもバカバカしい。我は荀子派で、人間は一様に弱者である性悪説を支持する。故に、世の中はクズが居て当たり前と思って然るべきである。だからこそ、人格者たれと努力する者には、疑いはしても、その努力に見合った賛辞を送って然るべきであるとも思う。父カラドクーに言わせれば“それも善悪にあらず埒も無い”と言いそうだ。が、しかしそんな事、今はどうでも良い。


 重要なのはそこではない。


 実際、敵はまだ半分残っているのだ。あれを排除しない事には、この戦いは勝った事にはならないのである。現実的に注力しなければならないのはロクデナシの機嫌取りや非難ではなく、これでもかと警戒し散らかすあの賊軍の方である。


 面倒事の功績は茶番侍二人に押し付けて、我は北の城壁に登り敵軍を眺めた。


 すると敵はせっせと天幕をたたみ、陣払いの支度を始めていた。


──これはしめた!


 北の川を隔てて、浮橋が二基流れた今、渡る方法は街の石橋か、小舟しかない。石橋を叩いて渡っても、出れば周囲を包囲され、不利な戦いになるのは必定であった。それに小舟を沢山用意して渡河しようにも、敵は先の奇襲で警戒し腐ってる為、丁度良い頃合いで阻止されるリスクがかなり高くなっていたのだ。どうしたものか……。


 だが、そこで敵は撤退を始めた。此れはしたりである。


 そんな事を、無表情で内心ニヤける我に、とある疑問をルキウス卿は我にぶつけてきた。


「ファルマ卿。いつの間にそんな美しい抱っこ係を見つけたんだ?」

「ん? ああ、暴行されていた哀れな淑女達を救う為、暴漢をこれでもかとバッタバッタ切り伏せた女傑をたまたま我は見てだな。その凄まじい功績に、従士をすっ飛ばして騎士に叙勲してやったのだ」

「有難き幸せに御座います」

「正式な叙勲は後日行う」

「はい」


 しかしルキウス卿の顔色は優れず、女騎士に問う。


「……彼女たちはその後どうなった?」

「予後は芳しくなく……」

「そうか……」


 ルキウス卿は心配した。ルキウス卿は良民の幸せを得て守る為なら、修羅となって賊を皆殺しにできる豪傑である。その信念は並々ならぬと、賊を憎み、睨み付けるその眼力は凄まじかった。


 まるで妻を寝取られた夫の様である。


「ルキウス卿。彼女たちの様な犠牲者を今後出さない為に、我等はここに派遣されたのである」

「──そうだな。ティトゥス皇帝陛下は“国を救え”と仰られた!」

「そこでだが、賊は今、陣払いをしている」

「なるほど……。北に我が帝国、南に我等とあって、その挟み撃ちを嫌ったか。しかしこのままだと逃げられてしまうぞ?」

「いや、これはむしろ好機である」

「好機?」

「我等はこれよりそれを追跡して討ち果たす!」

「──野戦か! しかしどうやってその気にさせる?」

「我に思い当たる節がある」

「思い当たる節? それは楽しみだな」

「──よし! 昼飯は腹八分にして然る後、打って出るぞ!」


 我の号令に城兵や第十軍は沸き立った。


 僅かな衛兵と負傷者、輜重隊や医療班などは街に留まらせ、残りは全軍出撃準備である。リラティヴィステット王国軍も我等の指揮下に入ると言って、王に無断で書面を用意した。我は快くそれを受理した。


 そして賊軍が陣を引き払い、山賊が山に向かう習性に倣って雪冠る山脈のある東へ移動を始めた頃、我等は北の城門から打って出てその追跡を開始した。


 賊軍は未だその数、我が軍より上である。しかし士気の差は歴然である。敵もそれを自覚しているのか、我等との交戦を避ける為に撤退の足を速めて距離を維持してきた。


 しかし我には引っ掛かる事があった。


 賊軍が何故リラティヴィステットラントの王に興味があったのか? 長期包囲してまで拘ったのか? 街を略奪する為か? やはりその権勢を傀儡とし、酒池肉林のゲヘヘ乱交に目が眩んでいたからだろうか?


 ならば我は試しに、街で侍二人に軟禁されるキャッツェガング王からパクって来た、リラティヴィステットラントの王旗を目立つ場所で棚引かせてみた。様々な婚姻の歴史を持つこの王国の旗は、婚約指輪二つを象っているのだと言う。どちらが男性用か女性用かは言及がない所がミソらしい。


 とまれ、すると賊軍の行軍が止まった。そしてなんと踵を返して我等に向かって対陣してきたのだった。


 我はつい口ずさむ。


「そんなにこれが欲しいらしい」


 ルキウス卿は嘲る。


「なるほどな。奴らはこの婚約指輪を是が非でも寝取りたいのか。この旗と、その血筋を制すれば、何でも出来ると勘違いしているのだろうか? だからあそこまで拘ったのか? まったく、暴漢の色欲は凄まじいな……ネジがマジでぶっ飛んでいる……」


 我から言わせれば、人は翼も無いのに飛びやすい生き物だ。とにかく、我が策に乗ってくれて助かったのである。あとは勝てばよい。


 我は行軍を停止させ、素早く陣形展開するよう馬の鞍に立って手を挙げた。


「──布陣せよ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ