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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
50/82

50.

 そして、城に籠っていたリラティヴィステットラント軍は包囲解除に沸き立って、南と東西の城門を開いては自ら出て来て我等を歓迎した。しかし彼らの本音は食の確保であったのだろう。ある兵は我が軍の兵糧をおねだりし、ある兵は賊軍の残した砦から食えるものを片っ端から拾い集めていた。


 それ程までに飢えていたのである。


 遅れたのは申し訳ない。だが、解放者である我等に遅参を責める城兵は一人もいなかった。それどころかオークであるボンガーにも救世主と認め、解放の喜びを踊りで表現しだす者までいた程に、我等を絶望的な状況から救ってくれた大切な仲間として迎えてくれた。


 だが、その笑顔に水を差す奴が現れた。


「──遅い! 遅すぎる! 援軍を要請してからどのくらい経つと思うのか!?」


 そう言うリラティヴィステットラントの王キャッツェガング陛下は、兵糧攻めをされていたのに似つかわしくない体格をゆさゆさ揺らしながら入場したルキウス卿をどやしつけて来た。ルキウス卿の顔から笑顔が消える。そして馬を降りてから、首を垂れて跪き、然る後に反論した。


「──恐れながら陛下、言上(ごんじょう)仕りますが、普通に戦っては賊の大半を逃してしまい、今後の戦況に差し支えます」

「は? そんなの知らん! 世が助かればそれでよいのだ!」

「陛下は、国を救ってくれとおっしゃりました」

「国とは世の事じゃ! 世無くしてこの国あらず! 覚えておけ愚か者!」


 おいおいマジかよコイツ……。


 我と同様か、はたまたそれ以上にか、ルキウス卿の目がこの発言のせいで泳いでしまっている。だが、周りにいた城兵の士気もだだ下がりかと思ったが“ほら、まただ!”と言わんばかりに失笑してどっか行ってしまった。


 そしてキャッツェガング陛下を警護する者は一人もいなかった。


 住人達の噂通りか? いや、それ以上かもしれないこの嫌われよう。我はすぐにこいつが原因でこの国は乱れているんだなと直感した。もしかしたら今度の混沌のアーティファクトはこいつ自身なんじゃないのだろうか? とさえ思えてしまって我は心の中で爆笑した。


 すると茶番侍の二人がそれとはつい知らずに談笑しながらこちらに向かってきた。


「ハッハッハ! 某は兜首を五つも上げたぞ! お主はどうだった? ん?」

「いやいや、拙者は兜首を六つほどで御座る。おや? 一つ勝ちましたな?」

「待て待て! 嘘をつくでない。某は知っておるぞ? 最初の小便小僧を一つと数えられては困る!」

「何々、最初の小便小僧は十分兜首じゃが?」

「なぜそうなる!?」

「解らぬのか? そうか、解らぬのかぁ~! なら教えて進ぜよう」

「おうおう、言ったな!? じゃあ言ってみろ!」

「つまりは、だ? 奴がちゃんと我等を見張っておれば、ああはならなかったので御座る。故に、結果を鑑みるに奴は、兜首並みの仕事をしていたのにも拘らず、その仕事を怠ったという訳にて候。で、あるから? 奴は兜首並み、にて御座そうらばず也!」

「そんな馬鹿な! それは詭弁に御座る!」

「詭弁とはしたり──」


「──うるせぇっ! 俺は敵大将を討ち取ったぞ!」


 “おおっ!”と、ボンガーのどやしにたじろぐ茶番侍二人は、その功績に頭を下げた。ボンガーはフフンッと自慢げだ。そしてボンガーは大将首をキャッツェガング陛下の前に投げ転がした。


「──ひっ、ひぃぃぃ!?」


 キャッツェガング陛下はそれを見てビビり散らかした。


 我は馬上から、世話好きの美女騎士に抱っこされながら、そんな王に上から目線で言う。


「話にならんな。──おいそこの侍二人!」

「──ハハッ! これはファルマ様! 何なりと!」

「このロクデナシ陛下を世話せよ」

「──ええっ!?」

「“ええっ!?”じゃない。いいな? 失礼のない様にな?」

「え、あ、ハハッ! ぎょ、御意にござりまするっ……!」

(えぇ……やだなぁ……)


 聞こえてるぞ?


 するとキャッツェガング陛下は我を指差し怒鳴った。


「おい! なんだこの(わらべ)は! 無礼であろう! 世を誰だとわかっての事か!」

「お前が、リラティヴィステットラントの王、キャッツェガング陛下だろ?」

「なっ!? 何たる無礼な物言いか!? 誰か! この(わらべ)をひっとらえよ!」


 しかし誰も動かなかった。


「な、なぜ捕らえぬ!? 世はリラティヴィステットラントの王なるぞ!? 時の権力者なるぞ!?」


 哀れな王である。権力者とは一言で、幾千幾万を動かせる者の事を言うのだ。しかし今のお前には、その一人も動かせない。それは権力者ではなく、只の哀れな嫌われ者でしかないのだ。


 時折自身の身分に心得違いをし、権力に溺れる阿呆が現れるが、それでも従う忠臣はそれなりに居た。しかしこいつには誰の一人も居ない様である。色々な意味で、こいつは裸の王様なのであった……。


 ルキウス卿はそれを哀れに思ってご助言なされる。


「キャッツェガング国王陛下。この子はエラグラウム帝国宮廷伯爵中将にしてティトゥス皇帝陛下の名代、帝国軍第十軍の軍団長ファルマ閣下にて御座います」

「──っ!」


 この話を聞いていた城兵は皆驚いた。無理もないな。いつものだ。だがキャッツェガング陛下は……


「──はぁぁぁ!? この無礼な(わらべ)が軍団長じゃとぉぉ!? バカバカしい!」

「しかし敵軍の半分を破り、包囲を解除せしめたのはこの方、ファルマ閣下の御采配あってこそに御座います!」

「知らん! どうでも良い! ──おいそこの女騎士! そんな(わらべ)なんぞ捨てて、世の世話をせい! 世は腹が減った! 何か美味しい物を用意せよ! フンッ!」


 溜息をつくルキウス卿。そしてこれは呆れたと、我の抱っこ係。


「と、申されておりますが、ファルマ様? いかがなさいましょうか?」

「ん? ──捨て置けばよい。卿は我の抱っこ係である」

「は、はい! 畏まりました……!」


 キャッツェガング王はそれを聞いて顔真っ赤にして怒り出した。


「ムキィィィィィィイイイイイ!!」

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