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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
46/82

46.

 しかし、三歳児の我がいきなり皇帝陛下直臣の宮廷伯爵帝国軍中将第十軍軍団長になっても戸惑う事ばかりである。我は、士官学校さえも出ていないのだ。


「どうしたものか……」

「その為に俺があてがわれた訳だろ? ファルマ卿」

「ルキウス閣下……」

「閣下? 俺はもうお前の君主ではないぞ」

「──ル、ルキウス卿」

「まずはそこからだな。ハッハッハ! しかし上洛して早々、伯爵か。いきなり並ばれたな。しかも軍団長で俺はその補佐役。何だか主従が逆転してしまった。だが、俺からするとファルマ卿は更に出世すると俺は思うね。だから今のうちに媚びを売っておかないとな! ハッハッハ!」

「お戯れを。る、ルキウス卿。我はまだ三歳にてござる」

「だからこそ、俺が補佐役に御座候(ござそうろ)はず()?」

「御座候はず也? 御座候はず也とは?」

「俺も分からんっ! が、補佐に関してはご心配ご無用! ハッハッハ!」


 やれやれ、いかんいかん。勇ましく振る舞って一個軍団の長となったのだから、ナヨナヨしている暇はないな。こうなれば我が思う存分この軍団を鍛え上げて、手となり足となってもらおう。なので、


──まずは抱っこ係の女騎士からである!


「──ファルマ?」

「あ、母上……」

「“あ、母上”、じゃないでしょ! しっかりしなさい!」

「え? あ、はい!」

「宮廷で格は少し下がるけれども、あなたはもう立派な伯爵なのよ?」

「母上も伯爵に叙任された儀、祝着至極に御座います。ただ、大きなお世話かもしれませんが、ゆめゆめアッサンビル公オーティス閣下を軽んじなさらぬよう。あれは、どうも臭います……」

「それぐらいわかっているわ。舐めないで頂戴? 私だって当主なのよ?」

「失礼しました。母上」

「──マテウス?」

「ハッ! 此れに!」

「ファルマを絶対に守ってね? 絶対よ? 何かあったら絶対に許さないからね!」

「ハッ! 元よりそのつもりで御座います!」

「よろしくね? あとファルマ?」

「はい」

「まさか三歳で軍に取り上げられるなんて思ってもみなかったけど……。でもたまには帰って来なさいね? レヴィアやエルマが寂しがるから……」

「──あと、兄である俺も寂しいから頼むぞ? 俺たちはお前のオークの事など全然知らないんだからな? 本当に頼むぞ!? ファルマ!」

「遠くない内に必ず。もし何かあったら“イエア様の聖母”だ何だと言って雪冠る山脈を越えた王ゴッズフィストの所へ行って匿ってもらえばよい」

「おいおい頼むから、そうなる前に帰ってきてくれ! グ、グスッ……お、俺はなぁぁぁ! うううっ……!」

「アルネス! しっかりしなさい!」

「う、うわぁぁぁぁん!」


 母より先に泣き出す兄アルネス。あ~もう、参ったな。ルキウス卿が笑っておられる。


 とまれ、母エミリアと兄アルネスは別れを忍んで引っ越し支度に早々帰途へ着いた。しかし我とルキウス卿はそうは行かない。帝国軍第十軍を見て、必要に応じて人事、訓練、再編、改革に出陣準備の支度をしなければならない。


 厳しいがこれから戦争である。


 第十軍に舐めた奴が居たら、ルキウス卿の騎士が粛清する手筈になったがそれに至る者は幸いいなかった。いなかったが、我が軍団長と見聞きして、第十軍は頗る動揺した。我はクソガキなのだから、当然だろう。挙句には我でなく、ルキウス卿がファルマではと勘違いする始末であった。“ああ、貴族の道楽だ”と落胆する兵士もいた。今は仕方ない。実証して見せなくてはならない。やれやれ、また一からである。


 だが、ルキウス卿の騎士達が、実際見た我の指揮と、我の噂の数々を織り交ぜ叙事詩にして語り散らかしてくれたおかげで、命令系統と士気は何とか取り持った。これも、ルキウス卿のご配慮の賜物である。助かった。


 因みに第十軍は、数百年前に解散して以来の再編で、殆どが最近雇った志願兵である。


 帝国臣民はさることながら、元農奴、元乞食、没落した貴族から、流浪の民と異国の奴隷までもが、老若男女問わず軍役を通じて一旗揚げようと集まって形成されている。なので、上官の能力には頗る敏感だったのだ。そりゃそうだ。自身の将来を預けなきゃいけないのだから。


 再編に伴い一通り兵士としての訓練は終了している様だが、士官やその器にある者はまだ頭角を現しておらず、各ユニットの統率はまちまちであった。人事には骨が折れそうだ。


 この第十軍は、色合い的には古代ローマ的でありながら中世ヨーロッパ的でもある。兵科割合は、剣盾兵二千、槍盾兵千、弓兵千、軽騎兵五百に中装騎兵五百。そしてルキウス閣下の従士騎士二百と輜重炊飯雑務兵千を合わせて総勢六千二百名である。


 我も宮廷伯爵。これから皇帝陛下に金子で禄を受け賜わる訳だから、我も無論、我に禄を食む従士騎士達を雇っていかねばならない。そう言えば居たのかと影の薄いマテウスは、母エミリアの命により我専属の護衛騎士となった。これから功績のあった優れた使える者達を、マテウスの様に、従士から始まり騎士へと昇格していって増やさなきゃいけない。


 直ぐにでも出陣しなきゃいけないのに、あっという間に数日が過ぎてしまった。


 すると帝都城外野営地に騒ぎが起こる。


「──オ、オークだ! オークが現れたぞ! めっぽう強いオークが現れたぁぁぁ!」

「ファルマ様! ルキウス様! 野営の門外にオークが現れ、ファルマ様にお目通りをと暴れておりまするっ!」


 ──あ、来た!

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