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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
42/82

42.

 帝都は、夕飯時の慌ただしさを燻し出していた。


 腹が減ったな……。


 例のお方のせいで、常に飯テロをされているこちらの身としては、三度の飯では満足できない胃袋になってしまっている。パブロフの犬の様に、条件反射で胃酸が濃くなっているのだろう。空腹感のない見立てでは血糖値は下がっておらず、別段腹が減っている訳でもないのに、何故かそろそろ飯を食べなくてはならない空腹と思えてしまって、我の脳はエラーを排出している。


 ギュルルルル。


 しかし先に音を上げたのは我の胃袋ではなく、母エミリアの胃袋であった。母エミリアは恥ずかしそうに我を腹に据え、我にその恥ずかしさを擦り付けようとした。我は母の名誉を守る為、隣にいたロフノスト家本家様の七大選帝侯公爵軍元帥プリエクエス伯ルキウス閣下へグダりながら言った。


「閣下、おなかがすきました」

「俺は旅の終始すきっぱなしの様な気がするぞ。一体誰のせいだろうな?」

「閣下もですか。しかし、腹が減っては戦はできませぬ」

「それには同意だ。そしてさすが、この帝都は非常に美食な街だ。が、当たり外れが非常に激しい。我々のような情弱の田舎者が食べ歩きすると、生死に関わる」

「生死ですか?」

「そうだ。帝都の飯は信用できない。陛下の宮殿で食事を出されるまで我慢すべきだろう」

「そうなのですか?」

「帝都では、宮廷で毒を盛られて死ぬ確率よりも、街の食あたりで死ぬ確率の方が数千倍高いと言う話を聞いた事がある」

「それは一体なんの皮肉ですか……」


 母エミリアは空腹感を誤魔化すため、我の頭を“ん~~~”と、こねくり回す。


 うわぁ……。


 すると、馬車から満面の笑みで顔を出す我が兄アルネスが言った。


「ルキウス閣下! 今日はもう遅いので、今晩はブルクハルト閣下のお屋敷で!」

「──承知したアルネス!」


 ルキウス閣下は御者と部下の護衛騎士達に目的地の変更を伝える。


 なるほど。七大選帝侯ともなると、帝都に屋敷を持つのは当たり前であったか。そしてその晩その屋敷で、ローテツダッハ美食家黄金の舌褒めればちょろい公ブルクハルト閣下は、部下へその異名に恥じぬ威信を示す為、到着を予想して予め拵えて置いたのであろう超豪華な晩飯を我等に提供してくれる事となった。


 これは有難い。だがまず、地元で雇われたプロのフードポイズニングテスターが優雅に毒見をし、安全を確保してから、我はまさに腹が破裂する程その豪華な飯を食った。


 我は呪われし荒野の泥水をすすっても腹を壊さない体質であるのは知っているので、食中毒に関しては殆ど恐れる必要はなさそうだ。その話は食事中にはすべきではないが、ローテツダッハ美食家黄金の舌褒めればちょろい公ブルクハルト閣下が執拗に尋ねられるので、ルキウス閣下の指示もありさったと洗いざらい白状した。するとプロのフードポイズニングテスターのウンチクと経営方針の信念話に付き合う事になった。


「──なので我が社では、エルフのテスターは雇わない事にしております」

「ムシャムシャ。ファルマは羨ましいのう。ムシャムシャ。ワシも気兼ねなく飯を食ってみたい。ムシャムシャ」


 その口が言うのか? ブルクハルト閣下よ……。


 とまれ、かつて芋虫を食っていた時を考えると、何たる贅沢だろうか。しかし彼といると、彼の封臣達と同様、このままでは確実に太ってしまうだろう……。これは憂慮すべき問題である。思えば我はもう、背が伸びないのであるのだから……。


 そして翌朝。酷い胃もたれの中、豪華な衣装に着替えて皇帝陛下への謁見に臨む。


 どんな礼儀作法があるのかと内心ビクビクしつつ、どうやって無礼を働いてやろうかと悪巧みに武者震いする我。しかし意外や意外、七大選帝侯に伴うと言うのは、イコールある程度ラフな感じで皇帝陛下に会えると言う事を意味してしまっていた。


 とにかく我等は付いて行くしかない。


 道中、帝都ユーヴェレンヒューゲルブルグ中央やや奥にそびえる帝国一の高さを誇る城、と言うより宮殿は、あまりにも巨大で豪華で荘厳で、その途轍もないエピックさに見上げる者の首の骨が折れる程にヤバかった。これは如何なる来客者もたじろがずには入れらない程、その施工労力は尋常成らざると予想できる。


 ヒアルロン酸の足りない年寄りには、ひたすらに拷問でしかないだろう。


「ファルマ? このお城はね、“天昇の(いただき)”って言うのよ」


 母エミリアはここの名称を教えてくれる。するとルキウス閣下が宮殿のタペストリーを見ながらその説明をしてくれる。


「後にエラグラウム帝国始皇帝となられる神君カエサリオン皇帝陛下が幼少のころ、神の住まうタレダル山脈の頂に臨まれた古事に因むらしい」

「あの山を幼少で? 何ともファンターだ」


 雪冠る山脈のさらに北に位置する超山岳地帯は、タレダル山脈と言われ、聖丁字教が普及する前から()が、()()が住まう場所だとか言われている。そこに住むとされるタレド人は、背に翼が生えており空を自由自在に飛べる天使でその神の世話係なのだとか言われている。さらに、そのタレダル山脈の最も標高の高い山は、神の山と呼ばれており、推定標高12000メートルもあるのだとか。


 そこを幼少で? 人間の肺では酸欠で死亡してしまうだろう……。何ともファンタジーらしい。


「ファルマ。お前が言うのか?」

「あ、いや……」


 母エミリアは嬉しそうに笑う。


 だがしかし、ローテツダッハ美食家黄金の舌褒めればちょろい公ブルクハルト公爵閣下はそんなのどうでもいいと意に介さず邪魔な贅肉も何のその、鼻につく目線の宮廷封臣の視線も何のその、全くもってなりふり構わずズカズカと宮殿内を我が庭の様に進んだ。


 広い……広すぎる……。兄アルネスは言う。


「宮殿内を馬で移動していいのは皇帝陛下だけなんだって。馬で駆けると珍走罪で打ち首らしい……」


 珍走罪……。はぁ~皇帝ってのは偉いんだなぁ~……。


 そうしてようやくついた謁見の間の前の門。屋内なのに城門かよと思わせるその門は、門番兵士数人かかりで開けるアホな門であったが、ローテツダッハ美食家黄金の舌褒めればちょろい公ブルクハルト閣下は、その隣にある丁度良い大きさの隠し戸を開けさせて中へ入った。

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