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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
41/82

41.

 ゴブリンコボルトの移送は結局ボンガーが道案内を務め、一部の騎士とローテツダッハ軍が担うことになった。


 移送に伴うローテツダッハ軍の兵力は、移送するゴブリンコボルトの総数の三分の一に設定した。何故か? 人間はどうしたって何かを差別せずにはいられない生き物である。ゴブリンコボルトに対して数の上で優位とあったら、人間はますます差別し暴虐をする可能性がある。その為、下手するとギリギリ逆襲される可能性を残してこの数としたのだ。


 この数の差では、滅多な事に気を抜けないだろう。


 せっかくの労力を台無しにされたくはない。それは、身体的にも、精神的にもだ。数を減らされるのは元より、やっぱり嘘つかれた裏切られたと思われてしまっては、素直に王ゴッズフィストの勢力下に入ってくれなくなるだろう。


 それを懸念したのだ。


 本来であれば、帝都にはボンガーも連れて行きたかった。が、奴らの扱いに長けた者は他にはいない。と言って、我が移送しては皇帝陛下を余計に待たせることになってしまう。これはやむを得ない。だがボンガーは我に任務を任される事を大変名誉に思っているらしく、何でも喜んで言う事を聞くので非常に助かる。


 ローテツダッハ公爵領の道中、ローテツダッハ公の厨房付き馬車を守る様に軍馬に乗って移動する我等。


 兄アルネスは我に触発されている。そんな彼は、先日我のやった“褒め殺し外交戦術”を極める為、ローテツダッハ美食家黄金の舌公ブルクハルト閣下の厨房付き馬車に乗って同行している。


 馬車は、厨房長、給仕、執事、外交長官、教区司教にブルクハルト閣下と兄と、超満員でなかなか賑やかだ。そして兄は、すぐに褒め殺しのコツを得たのか、ある事無い事一行を褒めまくって、異常なブルクハルト閣下の自己承認欲求を存分に満たし始めていた。ガヤガヤ。


 それを外から見ながら“七大選帝侯ローテツダッハ公爵軍元帥”プリエクエス伯ルキウス閣下は、相変わらず母エミリアに抱っこされて無愛想にしている我に語り掛ける。


「ところで、ファルマの部下のボンガーは粗暴な性格だが、しかしなかなかの忠臣だな」

「オークシャーマンであり、ウシシボゴバンガの巫女にして予言者であるブァブァ様が、我を戦神ウガウガオの申し子、救世主イエア様と崇め奉って“ヘヘェ~”とした為、ボンガーも含む王ゴッズフィストのオークとゴブリン共は皆、そんな感じでございます」

「羨ましいな。俺達人間も、そう単純であれば楽なのだがな……」

「心中お察し申し上げます」

「そういえば、ゴブリンとコボルトの血は、大地を汚すとか言っていたが、あれは本当か? 初耳なのだが?」


「──ああ、あれは嘘です」


「──嘘だと!? ブハッ! そ、そうだったのか! アハハ! なるほどそうか、納得した! エミリア! お前の子は誠にトリックスターだな! こりゃ~一本取られた! アハハ!」


 我の嘘で事無きを得て、あろうことか空席であった“七大選帝侯ローテツダッハ公爵軍元帥”に異例出世したルキウス閣下は、腹を抱えて笑いが止まらない。


 彼はつまり、我の嘘と煽てで、公爵に噛み付いた犬から逆転の異例出世を果たしたのだ。そしてそれに何か含みがあって愉快なのだろう。母エミリアも嬉しそうに一緒になって笑っている。笑顔はいつだって光栄である。


 我は相変わらず無愛想だったが、心中はしてやったりであった。


 ローテツダッハ美食家黄金の舌“褒めればちょろい”公ブルクハルト閣下は、我の中でさらに異名を増やし、その権勢を轟かせている。


 そして国境へ到達し、相変わらず物騒な間所を越える。


 入れば、さすがは帝国の直轄領であった。


 どこもかしこも拓けており、整備の行き届いた森にのどかな田園風景と、点在する街と城の絵画的なコントラスト、道中短いスパンでの宿舎に飲み屋の活気、そして適当に石を投げれば行商人に当たる程の通行量の多さに、その帝国の富国強兵を感じずにはいられない。


「いてっ! ああん……? 誰だ俺に石投げた奴は!」

(プププ!)

「クソっ! 今日中にこの武器を納めなくちゃいけないのに……! 全くノルマがキツイよ、ブツブツ……」


 無論、良く観察すればその下地に不穏な空気があるのも否めないが、それがかえって黄昏前の斜陽の様に、良い隠し味となって一層この風景を感慨深くしていた。


 どうあれ、また何かに巻き込まれるのは直感としては確信である。


「ルキウス閣下」

「どうしたファルマ」

「近いうちにまた戦が始まりそうです」

「お、お前もそう思うか?」

「また巻き込まれるでしょうか?」

「流れからして違いないだろうな……」


 母エミリアはまた機嫌を悪くする。


「またですか? どうして我が子ばかりが戦に巻き込まれるのですか?」

「エミリア。ファルマばかりが戦に巻き込まれてるんじゃない。密偵長の話では、この国、いや今世界はどんどん戦塗れになっていると言っている。つまり、我等だけが巻き込まれているのではなく、世界中皆が戦に巻き込まれているんだよ」

「私、戦争なんて、──大っ嫌い!」

「ふぅ……。世の母親は皆、そう思っているだろうな……」


 しかし、降りかかる火の粉は払わねばならない。


 いつからか、生き物は食うか食われるかの弱肉強食の食物連鎖を作り上げた。それ以来、人も動物も変わらず、戦争、食うか食われるか、生きるか死ぬかの縄張り争いは終わりを見ない。せっかく築き上げた平和な文明社会も、いつかそれをぶち壊す輩が必ず現れる。


 次の混沌のアーティファクトは何処にある……?


 我はそんな事を考えながら川の様に広い水堀を渡河すれば、ドーンと聳える帝都ユーヴェレンヒューゲルブルグの玉石大門を潜る。

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