4.最初の戦い
対陣する我等。
丘陵と言えるのか? 我等は浅い高低差しかないだだっ広い荒野のど真ん中にいる。周囲に遮蔽物等はなく、身を隠す草もほんの僅かしか無い。敵さんはどうやらこいつらの言う伝統的な、ボアファイターを前面に、あとはそれに従えな烏合の衆の陣形を形作っている。数はほぼ互角に見える。
我は神輿の様に担がれる。
これは部族間の争いなのだろうか? まずはボス同士が対陣のド真ん中の、異様な狭間にて対面する。しかしそれは外交とは言えない“何それ美味しいの?”と、言わんばかりのとんでもなくずさんな内容だった。
「──ぶっ殺すっ!」
「ハンッ!!」
いきなり口からとんでも発言をブッパする敵ボス。そしてそれに中指を立てる我等のボス。──以上外交終わりである。そしてそれぞれ陣に戻る……。飾り立てられた回りくどい外交儀礼など一切ない。むしろ非常に簡素で分かりやすい意志表明である。
そして敵は一呼吸おいて前進を開始した。まもなく最前列のボアファイターは突撃を開始するだろう。我々はこれに対応し撃退しなければならない。
「敵の突撃に備えろ! 最前列は守ることに集中し、槍持ちは突破してくるであろう猪を相手にせよ!」
「イエアッイエアッ!」
我には時間がない。装備を整える準備も情報も無い。“時間と情報”は、武器防具を作るのに必要な金属や、それを製錬製造等する労力と技術、労力を養う飯と金、それを支える十分な領土と経済、そして戦線で戦う兵士達の腕力や精神力に並ぶかそれ以上の“戦略資源”である。
しかし我にはそれが無い。
故に歩兵は敵の突撃に正面から対応する肉壁となってもらうしかない。本来であれば突撃反射や躱す方法を用いるべきだが、今はそれを行える戦略資源がない。拙い戦術であるが、最も基本的な戦術を我は意図する。
「オークのエリートたちよ! ボアファイターよ! 大きく戦場を迂回して、敵の後方を突け! 回れ回れ回れ!」
「イエアッ! 仰せのままに!」
両軍が、筋肉野郎共がこれからぶつかる……。我は、それを生で見て、しかもその当事者となるのか……。
かつて古代ペルシアや、ギリシアで使い古された戦術。カルタゴのハンニバルは、この応用で古代ローマをボコボコにした。
ぶつかり合う両軍。きしめき合う両軍。
案の定、跨がれるほど巨大な猪は、盾やオークの巨躯をもってしても止められない。我等の持つ槍は、言う程そう長くは無く、それを持つ者は見るからに戦闘練度が低そうであった為、最前列でそれを止められるほどの能力は無かったであろう。
であっても、槍は騎兵に対して相性が良い。乱戦にする必要がある。
故に短い獲物を持つ重装歩兵に、猪の突撃を肉壁となって勢いを殺してもらう必要があった。指揮官とは非情な生き物である。オーク共よ! 我を神の子イエアの命と知り、死して戦神と崇めるウガウガオへ召されるがよい!
「猪の勢いは死んだ! 槍持ちは猪を仕留めよ! 狩りだ!」
「ブブブブブ!」
そして我の言う事を忠実に守って回る、我等のボアファイター。そうだ。それでよい! 我は貴様らに勝利をもたらそう!
──そして成る! 鉄床戦術!
かつて、アメリカ陸軍の猛将、ジョージ・スミス・パットン・ジュニアは、後のノルマンディー上陸作戦を控える兵士達に言った。
“──戦術とは簡単だ! 敵の鼻柱をとっ捕まえて、その股間を蹴り上げろ!”
敵の主力を機動力の低い歩兵で捕まえ、敵の弱点となる側背、つまりその股間を機動力の高い騎兵で補って迂回し蹴り上げる。動静補うこれが古代の諸兵科連合戦術、鉄床戦術である!
──勝った。
「ウヲガオヲウォォォオオアオオアアアアオオアアエ!」
難は逃れた。
まぁいずれ準備が整い次第、我の最も得意とする伝説の“車懸りの陣”をお披露目しよう。