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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
秘密の金柑(人間世界の陰り)
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37.

 ローテツダッハ公ブルクハルト閣下との会話はその後、呆気なくすぐに終わった。予め作っておいたのであろう何かの染みが付いている命令書を我等に渡すと、すぐ追い出されたのだ。


 それは一方的であったが、それよりあいつの抱っこは気持ち悪かった。


 口の周りには食いカスや得体の知れない汁などが付いており、すこぶる嫌な気分になった。果物でベタベタになった手で頭を撫でられ、エプロンから納豆の様なネバネバが我の体にこびり付いてきた。


──正直我は泣きそうである。


 騎士マテウスが不平なく清め作業を手伝ってくれる。


 とまれ、臭いローテツダッハ公ブルクハルト閣下は指揮官をプリエクエス伯ルキウス閣下に、我は軍師(コンサル)として、ゴブリンコボルト討伐の任を命令してきたのだ。軍はローテツダッハ正規軍を使う様にとの事。と言っても、城の最精鋭は殆ど出してもらえず、急ごしらえの賦役徴兵軍を使えと……。


 つまり、あの現場にいた地元兵士の指揮を任されたという訳だ。


 彼の目的は恐らく人にやらせた功績を自分の物にして、皇帝陛下への手土産にする魂胆だろう。失敗すれば責任はプリエクエス伯ルキウス閣下に取らせる。下心丸出しだ。パワハラだ。だが、立場上やらざる負えない。


 人間の世の中なんて、いつでもこんなもんである。前世の父は、こう言うのが嫌いだから経営者になったと言っていたのを思い出す。しかしここの貴族社会は生まれながらして血で縛られ、不条理の世界観を一層作り出している。


 我はまだ救いがある。我は、皇帝陛下の召喚がある為、あくまで逃げ道のある軍師(コンサル)な訳だが、ルキウス閣下にはそれが無い。ローテツダッハ公ブルクハルト閣下の部下として、損な命令でもやらねばならないのだ。そんな彼に、我は、我等は税収の件で多大な借りがある。だからこの件、気は抜けない。


 だが母エミリアは静かに怒っている。また巻き込まれたと。自分の息子を戦地に送りだすのかと。そして巡って来た初志を試す好機として、兄アルネスは最良の方法は何かを頑張って考え頭を悩ませている。


 我個人としては、コボルトは知らないが、ゴブリンは王ゴッズフィストの所へ送って労働力としたい所である。そうすれば、いざって時の戦力を強化できるし、金山の開発も一層進むと言う一石二鳥なのである。


 統合して考えたならば、今回の作戦目標は“M&A(買収統合)”である。


 ローテツダッハ公爵軍元帥を任されたルキウス閣下は公爵の戦略作戦室にある地図を眺めると、一目散に我へと助言を求める。


「敵がいる場所は、この入り組んだ渓谷あたりらしい……。俺はゴブリンを知らないし、雑種犬人間みたいなコボルトは数回しか見たことがない。しかも、どれもまともな会話もせずに一方的に殺しただけだった。コボルトとの戦いで気を付けるべきだと聞いたのは、噛まれた時の感染症らしいのだが、ファルマ、どう戦うべきか?」


 余り機嫌のよくない母エミリアの傍ら、清め作業に忙しい我はそのまま答える。


「今回は、出来るだけ戦わずに買収したい」

「──買収!? そんなこと出来るのか!?」

「恐らく。と、申しますに、以前呪われし荒野で制圧した土地のゴブリンを雇用した事がありまして」


 ボンガーは笑いながら言う。


「ハッハー! ゴブリンは軟弱! 圧倒的力示せばやむなく従う雑魚共だ! だがファルマ様はその奴隷を解放して、賃金を支払い対等に扱った! そしたらゴブリン共は馬鹿だから喜んで一緒に戦った! あいつらは器用だ! だから攻城兵器を扱った!」

「そんな話があったのか!」


 ルキウス閣下は右拳を左掌へ打ち付ける。


 ウィザードフレグルの話では、オークの祖先はエルフ、ゴブリンの祖先はドワーフらしい。呪われたり色々あって背の高さくらいしか共通点のないあんな姿になったらしいと、いつぞやの行軍中に言っていたのを思い出す。


 兄アルネスは我に質問する。


「じゃあなぜ、前の山賊は買収しなかったんだ?」

「隣国の脱走兵である野武士は、その時点で使い物にならない。しかもあいつらは容赦なく、略奪狼藉に相当地元民の敵愾心(ヘイト)を買っていた。買収統合は、被害者感情が許さないだろうし、扱いも難しいので皆殺しにした」

「……」


 我の容赦ない物言いに皆、一時黙ってしまう。しかし兄アルネスは更に質問してくる。


「じゃあ、あのゴブリンも、被害者感情が許さないんじゃないか?」

「あいつらは得体の知れない異種族(モンスター)だし、統合先は扱いに長けた王ゴッズフィストの所だから何とかなるだろう。怒りや悲しみに暮れる被害者には申し訳ないが、現状これ以上の被害を出さないのが最良だ」

「ん~。俺としては穏便に済ませられるのなら、とも思うが……」

「兄上は優しい。被害者の事もちゃんと配慮してあげたいと思っている。しかし二頭追う者は一頭も得ない。現地点では、前の様にうまくいく保証がない。買収できる保証もないが、もし可能なら、さらなる犠牲者を出さずに済む」


 母エミリアが我をヨシヨシしながら質問する。


「でも、買収するのはいいけど、そんなお金なんかないわよ? どうするの?」


 現実的な事を言ってくれる。だが我は地図上の、被害にあった村々を指差しながら説明する。


「ゴブリンの移動経路を辿るに、やはり原因は呪われし荒野での戦乱にあると思われる。ここ、ここ、ここと過去の経路を予測するとやはり、雪冠る山脈を超えて来ているのがわかる。ドワーフとオークの遺恨の戦乱はもとより、オークのゴブリンに対するそもそもの扱い、そして我が倒したオークの独裁者ブラックレフトアッパーの排他的な暴政が、この大移動の根底にあると思われる」


 ルキウス閣下は要約を求める。


「つまり?」

「つまり、あのゴブリン共は所謂難民。難民の求める物は安全と安心、安定した生活だ。ドワーフ王国と和平を帰結する事に成功した王ゴッズフィストの所には、──それがある」


 戦略作戦室にいる面々は感嘆した。


「おお! なるほどな。それを使って買収するのか。……しかし、コボルトはどうする?」

「最近聞いて来た話や過去に学んだ伝承をまとめると、コボルトは帝国北西部の黒い森に土着した異種族(モンスター)。それがどういう訳か最近になって大移動してゴブリンと合流した」


 ルキウス閣下は閃く。


「ああ、そうか! 喧嘩する訳でもなくゴブリンと合流して行動できていると言う事は、コボルトも何らかの難民で、目的はゴブリンと同じかもしれない!」

「であれば」

「──買収できるかもしれないな!」

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