29.
さて、混沌のアーティファクトは何処にあるのやら。
オーク共は新たなる王に夢中でアーティファクトには興味が無い。まだ生き残っていたブラックレフトアッパーの部下共は全員降伏した。ゴッズフィストは降伏したオーク共を軍門に下らせると、その寛大な王の器を示した。
今晩は間違いなく宴だ。猪肉が楽しみである。
とまれ、決闘のあった広場は所謂玉座の間であった。オークらしい暴力的な装飾が禍々しいが、その玉座の裏あたりには通路があって、その先にプライベートな部屋があった。ここにあるのではないか? 我のRPG脳がそう言っている。
──あった。
部屋のど真ん中にあった。絵のキャンバスを置く台のようなものに黄金の円盤のそれが立て掛けてあった。これが混沌のアーティファクトですよと言わんばかりの自己主張が激しいそれ。我はこれを知っている……いや、実物は初めてだが、知識として知っている。……かもしれない。
「あれは──」
我が指さすと、ウィザードフレグルはそれを見るなり目を背けて両手で我等を止めた。
「──いかん! 見てはならん! 恐らくあれが混沌のアーティファクトだでの」
ウィザードフレグルはそういうと、ゴーグルのようなものを取り出して装備した。父カラドクーもローニおじさんもそれを装備する。騎士マテウスさえも。いつの間にそんなモノがあったのか……。そして予備があったのか、我にもそれをよこして装備させてくれる。少しブカブカだ。すると父カラドクーが気遣って後ろの紐を締めてくれる。今度はきつく少し痛い……。
しかし何だろうか? 危険な精神攻撃光線でも放たれているのだろうか? だとしたらこのゴーグルにどんな仕掛けが……? そういえばアーティファクトは正気を奪うと言っていたな。異様なまでの慎重さに皆、警戒心MAXとなった。
ウィザードフレグルは恐る恐る近づいては、ゴーグルのレンズ越しにその模様を確認する。誤って触らないよう手を後ろにしているほどに慎重だ。──だが我はズカズカと近づいてそれを持ち上げては描かれた幾何学っぽい絵を眺めた。
「──あっ!」
ウィザードフレグルは非常に焦る。が、我は左手で彼を制する。我は極めて落ち着いている。一応SAN値チェックでもするか? しかし何も問題は無い。全然平気である。いや、こんなことをしているのだから平気じゃないのかもしれないが大丈夫である。とまれ、我は裏面も見る。──やはりな。我は至って平静にそれが何であるか、確信に至った。
「だ、大丈夫なのかな?」
「──問題ない。我はこれを知っている。これは“宇宙探査機ボイジャーに搭載されたゴールデンレコード”のモノとかなりそっくりである」
「な、なんだ!? 巨乳感謝期ボインジャーとはなんだ!?」
「──宇宙探査機ボイジャーである」
どうやったらそんな聞き間違いをするのか?
とまれ、ウィザードフレグルは我を心配してくれる。だが我は周囲を確認する。するとすぐに目につくそれ。なんて用意周到なんだ……。なぜニーイ王は自殺したのか? ブラックレフトアッパーは最強になれると思ったのかは知れぬが、そこにあったのは古めかしいアンティークな蓄音機があった。
「こんなものまで……」
我がそう言うとウィザードフレグルは質問攻めをしてくる。
「──それは一体何だ? ゴールデンレコードとはなんだ? ボインジャー? それは地図ではないのか? 宝の地図かとも思っていたが、ブラックレフトアッパーは神族の地図と言っていたでの……それの一体何が神族の地図なのか?」
「神族の地図……か。ハハハ!」
「──っ!?」
我は思わず吹いてしまう。我の前世の人間が神族とはっ! 確かにある意味神族かもしれん。しかし一体何の神族だ? 我はわらけて来た。そして我はレコードの模様をウィザードフレグルに見せて言う。
「これは神族の地図ではない。宇宙人の地図だ!」
「な、なんじゃと!? 宇宙人じゃとぉ!? 馬鹿な! やはりこれは正気を奪う! 破壊せねば! こっちに渡すのだ!」
我々異世界人からしたら、地球人は宇宙人で間違いないよな?
「まぁまて。因みにこれは暗号だな。だが、恐らくこれを我等が読み解けるようになるには、もっと科学的進歩が必要だろうし、我はそれを説明できるほど記憶が定かではない」
「科学的進歩? ま、魔法か! 封印された魔法が無ければ読み解けぬのか!?」
「少し落ち着いてほしい」
「落ち着けと言う方が無理だでのっ!」
確かに。
「う~む……科学と言っても、その科学じゃない。魔法の科学ではない」
「ほかに何の科学がある?」
「それを説明したら日が暮れてしまう。が……」
我は人差し指を立てると、蓄音機にゴールデンレコードを置き、バネを巻くクランクを回した。そしてゆっくり回る円盤の真ん中あたりの溝に、そっと針を置いた。するとなんだろう、物凄く、非常に陽気な曲が流れだした!
「──ッ!」
一同、急に流れるロックンロールに目がまん丸だ。これは……これは確かチャック・ベリーのジョニー・B・グッド……だろうか? ああ……何とも懐かしい響きである。名曲だ。ノリノリである。楽しすぎる。三年ぶりに聞く故郷のリズム……。──ああ確かに! 確かにこれは危険だ!
「──ハハ! ──ジョニBグゥ~!」
我は笑いながら歌うと、我に似つかわしくない踊りを踊って見せる。リズムに合わせてそれはもうノリノリである。それを見た一同はドン引きであるが、そんなの我はお構いなしである。イェ~イ!
すると流石ローニおじさんは分かってる。彼も次第にノリノリになって肩で踊りだす。それを見た父カラドクーはため息をついてヤレヤレとして、騎士マテウスは未だに驚いていて微動だにしない。ウィザードフレグルは曲を聞いてなんだかちょっとずつノリノリになってきた様だ。
僅か二分の名曲。
曲が終わってしまうと何と悲しいかな。我はいい加減針をどかした。そして断言する。
「──これは混沌のアーティファクトで間違いない」




