25.
そして翌朝はすぐ出陣である。
行き場所は風に頼らずとも、オーク共が知っている。
また話が長くなりそうだが、今度は戦神ウガウガオこと邪神ダゴールネド・エルオンタリエとやらについて知りたくなった。とはいえ兵は神速を貴ぶ。立ち話では時間が勿体ないので、行軍中にウィザードフレグルへ問う事とした。因みにブァブァ様は拠点防衛の兵と共に残っているので今は聞く事が出来ない。
「ウィザードフレグル」
「なにかな?」
「戦神ウガウガオと、邪神ダゴールネド・エルオンタリエについて詳しく知りたい」
「う~ん。困ったでの……」
「ん? 知らんのか?」
「戦神ウガウガオはオークが信仰する戦って勝つことを是とする神だが、ダゴールネド・エルオンタリエは良くわかっておらん……」
「よくわからない? てか違う神なのか?」
「うむ。違うのかもわからんし、というか、その名は知られておるが、中身がまるでわかっておらん」
「ふぅむ……」
「儂の知り合いには考古学専攻のウィザードもおるのじゃが、そいつも頭を抱えておってのう。とある修道院の地下にその名があるらしいのだが、あくまで名を知られるまでにしかわかっておらんだでの」
「そうか……」
すると父がポツリと言う。
「ダゴールネド・エルオンタリエはエルフ語で、直訳すると“戦う母なる神”と言う意味になる。残念だが俺にもわかるのはそこまでだ。しかしギリスマエソールの長が何か知っているかもわからん。保証は出来んがな」
「ふぅむ……」
神々だ信仰だアーティファクトだ等と言う普通に考えたら眉唾物のウンザリする話にやたらノリノリの我であるが、現地点で異世界にいるのも我である。我は、我に課せられた謎の役目と言うのも非常に気になる所であったが、しかし今は前に進むしかなさそうだ。
水をろ過する装置と魔法について講義をお願いしながら、我は軍を進ませる。
新鮮な水の何たる美味な事か。蛇口を捻れば当たり前の様に出て来た水。今思えば贅沢であった……。とか考えていると、ウィザードフレグルの肩に小鳥が止まる。
「ほう。なんと……」
「どうした?」
「ドワーフ王国軍がブラックレフトアッパーの居城を包囲したらしい」
「援軍か?」
するとローニおじさんのテンションが上がる。
「お! おお!? やっとやる気になったかあいつら! 陛下が死んでしょ気きっていたくせによ! よしよし!」
「──いや、どうだろうな」
父カラドクーは懸念を示す。我は問う。
「というと?」
ウィザードフレグルは言う。
「ドワーフとオークの怨恨の歴史は、人間の全史より長いでの……」
「ああそうか、それは困った……」
これは三つ巴もあり得る。非常に厄介だ。我は野戦術は得意かもしれないが、外交など話し合いと言うのが非常に不得意なのだ。元はコミュ障のニートだったからな。これは非常にまずい……。それに仮に我が交渉するにしても、我の見てくれは所詮3ちゃいなのである。我を知る者ならいざ知らず、ほぼほぼ馬鹿にされることは間違いないのである。故に我はウィザードフレグルに頼む。
「交渉、頼めるか?」
「ぬぅ。やれるだけはやってみるでの」
ローニおじさんは笑顔で言う。
「──大丈夫だ! だって俺の兄弟たちだぜ?」
不安しかない……。
川沿いに進む我等。そして岩山だらけの険しい道なき道を進むと渓谷に挟まれる様に現れる巨大な壁。
──ドンッ! ドンッ!
我等は遂にブラックレフトアッパーの居城へ辿り着く。すると聞こえてくる火砲の音。これは間違いない。火砲だ……!
「へっへ~! 驚いたか? 我がドワーフ王国最新鋭兵器、射石砲だ!」
「──射石砲!」
「お? さすがのファルマもこれには驚くか!」
と言うより、この世界に火薬がある事に驚いた。
「ぬぅ……」
ウィザードフレグルはあまり気分が良くない様だ。魔法が衰えたなら科学が台頭する。いや、そういうのは違うな。──魔法がこの世に存在し得るならば、それを探求する事もまた科学である。
とはいえ、魔法に頼らない技術革新は、ウィザードの居場所を奪い、世界のパワーバランスを根底から覆す可能性のある大問題だろう。それは戦場でも同じ。だが……
ボフッ。
──それはもう少し後の様だ。
石弾が思う様に飛ばない。火薬の性能が低くて不発が乱発。挙句には従来の投石機に切り替えて城壁を攻撃しはじめる……。
「あ、あれ……?」
ローニおじさんは自慢した手前、冷や汗をかいている。ウィザードフレグルはパイプを加えて上機嫌になった。
「ドワーフの錬金術はまだまだじゃのう」
「くそ……」
なるほど。異世界では化学を錬金術と言うのか。確かにそうだったな。だがしかし、そんなドワーフ王国軍は我等の存在に気付いてはすぐに迎撃の布陣を開始した。まずい。
──やれやれ、外交開始である。