17.
焼かれる敵将の首。伝統の焼首。
それを見てパーティーメンバー最後のニンゲンはギョッとしている。しかしそいつは我が視線に気づくとすぐさま謙虚に自身の首を垂れた。
こいつには見覚えがある。
我がロフノスト家の封臣で、つまり我が家に仕える騎士である。至る所すべてクソマジメな出で立ちで特にそれ以上語ることも無い者であるが、我が家族の代わりにと派遣されたのであろう忠臣という訳である。
我はそいつを手招きする。
「ファルマ様。何か?」
「見よ。猪肉である。これは希少部位でな。例えるなら“カメノコ”とでも言っておくか」
カメノコとは、牛肉の希少部位であるが、我は応用してそれをいってみる。そしてこの騎士にそのカメノコを薦めた。さすがに焼首を見た直後である。騎士は少し疑う感を出すが、しかし我が命である為、一思いにそれを口に入れた。で、感想は?
「これは──!」
「であろう? 意外と美味なのだ」
初めは焼首の伝統に嫌悪するパーティーではあったが、我と騎士とのやり取りに少し和んだ様だ。目の前の肉が猪の肉と知ってやっと空かした腹を満たせる。見てくれは澄ましているが、長旅の疲れは隠しきれない様である。少ししたところで我はウィザードとの話を続ける。
「急ぎか?」
我がそう尋ねるとウィザードは答える。
「できれば早い方が良いでの。しかし、準備はどう考えたって必要だろう」
なるほど。
我には特別なスタンドプレイスキルは無い。三歳で体も小さく脆弱である我に戦闘スキルは皆無である。ウィザードの様に魔法を扱えるわけでもない。
そもそもこの世界は強力な魔法と言うモノはかなり希少だ。
我の調べた限りの伝承では、過去にとんでもない魔法が戦場を支配していた様だが、禁忌に封印と相次いでその姿を消し、今では火をおこすのがやっと程度までしかできない様である。そもそも魔法それ自体の存在を疑うモノさえいるほどだ。
その為、魔法を扱える者はその流れに相対して非常に希少価値があり、今も昔も絶大な権力を有するに至っている。しかしどうにもここ数世紀のウィザードはその権力をふるうどころか、むしろ謙虚で政治の世界を忌諱している。
とまれ、我は弱い。しかしそんな我を救い出すわけでもなく、頼る気を見せるのは明らかに我が支配下にあるこのオーク部族の戦力欲しさだろう。目的は何であろうか? 我は思いを巡らせつつもウィザードに言う。
「武器は何とか間に合っている。しかし防具はもうしばらくかかる。もし攻城戦が想定されるなら、攻城兵器のエンジニアが必要だろう。だが何処を、誰を攻める? 何の為に?」
我を救い出すどころか頼らねばならない。その為か少々バツの悪そうなウィザードは我の理解に少し黙ってしまう。しかし我の叔父ドワーフはバカスカ手当たり次第に肉を食いながら言う。
「ハッ! 俺は伝統あるドワーフ王国のエンジニアだぞ? 俺なら100ポンドの石を、1000フィート先の1帝国銅貨へ命中させられる! ──余裕だね!」
散々無礼を働きながらも図々しい名も分からないドワーフの叔父は、妙に自慢げだ。そして父がわが軍の弓を持ち出し静かに言う。
「これでは城壁の上の敵は射貫けない……」
そしてウィザードは開き直って我に言う。
「──実は儂等は、最近ばら撒かれた混沌のアーティファクトを回収封印、もしくは破壊を目指して活動している」
「ほう?」
ウィザードは語りだす。
「かつての魔王は姑息でありながらも堂々と我等の前に立ちはだかった。そしてそれを勇者が打倒してきた。よくあるパターンだでの。実にわかりやすい。じゃが、最近の魔王は姿を隠しては見えない所で混沌の種子をばら撒いている……。しかも今の時代、そういった魔王はいるのに、こちらには残念ながらそれを倒す勇者などがいないのがとても無念だ。むしろ世の中にはその魔王に理解をしめす様な輩ばかり……。そもそも魔王だ勇者などと言うのは何だったのかと最近の儂は苦悩しておる……。しかし、今世界は平和な時代から混沌の時代へと突入しつつあると儂は断言する。その証拠が混沌のアーティファクトだ。だからそれを何とかせねばならないと思うて、我等は行動に移し旅をしている、というわけじゃでの」
「ふむ」
叔父ドワーフはウィザードの言に異議を申し立てた。
「勇者はいるね! ──それは俺だ! ブァッハッハ!」
ウィザードと父はため息をついたが、我はそのノリに乗る。
「こちらにも勇者はいるぞ?」
焼首の脳をかっ喰らい、雄叫びを上げ、他のオークの歓声を浴びるゴッズフィストを我は見た。
「うっ……」
叔父ドワーフの肉食う手が止まる。
しかし話がそれた。我は話題の一点突破にかかる。
「──つまり手伝えと言うのだな? しかしその前に、混沌のアーティファクトとはなんだ?」




