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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
呪われし荒野戦記(粗暴なオーク達の戦い)
16/82

16.

 エルフは言う。


「貴様がファルマか?」


 我は言う。


「で、あるが?」


 エルフは言う。


「ならばお前は俺の息子だ」


 我はその男を鷹視狼歩(ようしろうほ)の相で睨みつけては至って平静であった。が、我等がオーク軍団は度肝を抜かれたかの様に声を失った。それを見たブァブァ様は少々バツが悪いのを巧妙に隠そうとニヤけている。


 なるほどなるほど。物語の流れからしてこいつは我の父に違い無さそうであるが、かといって“はいそうですか”と言うのも少し素直過ぎる。第一我は父の顔を知らない。そして父も、我の顔を知らないはずである。


 父は、我が産まれてから三年以上、母が寂しがる中、結局一度たりとも我が家にその姿を現さなかったのだ。何だっけか? 大事な仕事があるとかなんとか。とはいえ別段我は父を恨んでいるわけでもないが、しかし我は直感する。


 この男は我を救いに来たのではない。


 この男は我に、その大事な仕事とやらを押し付けに来たのではないだろうか? しかし我は妙に寛大な気分である。父とやらとの初体面だからだろうか? いや違うな。帰れるからだろうか? それも違う。


 我はどちらかと言えばワクワクしているのだ。妙だ。これから降りかかるであろう未知の何かに何故か気分が良いのだ。


 ……いいだろう。だがまず我は確認しなければならない。


「──貴様が我が父である根拠は?」


 すると、そのエルフの男は左掌を見せつけてきた。


 その掌には、一筆書きに書きなぐった様な五芒星と、その中心の目の様なシワがあった。これは驚いた。我のと同じである。そしてエルフの男は言う。


「気は済んだか?」


 我は即答する。


「要件を聞こう」


 我はさっさと本題に入るよう促す。しかし、我が父のパーティーメンバーだったチビデブ剛毛髭面オッサンが、つまり恐らくはドワーフが、若干取り乱し気味に我等の間に入って言う。


「──ちょっと待てよ! オイオイなんだよなんだよ!? 本当にこいつ三歳なのか?」


 懐かしい反応だ。


「いや、話には聞いてるけどよ、やっぱ信じられねぇ! こんな小さいガキが!? オークを? 勝利に? おいおい、マジかよ!? てか本当にお前の息子なのか? それこそ根拠は? てか何でお前全然平気なんだ!? 親子初体面だろ? なのになんでそんな淡々としてんだ!?」


 詰め寄るドワーフに父は澄まし顔である。うむ。まぁ。確かにそうだな。


「はぁ? 三歳でクソオーク共の親玉とか意味わかんね~し! ──やっぱ信用できねぇ! もしかしてこいつが混沌の魔王なんじゃないのか!?」


──混沌の魔王?


 ゴッズフィストはいい加減ブチギレれて得物を握りしめ叫ぶ。


「──ウガァァァァアアア!!」

「お? なんだなんだ? やんのかコラァ!」


 ドワーフも両手斧を構えてメンチを切る。


 するとウィザードらしきがこれはマズいとすかさず割って入る。


「──ああまて!  我等は喧嘩しに来たのではない!」


 我もゴッズフィストに下がるよう手を上げ目配せをする。ゴッズフィストは我を二度見して一応言う事を聞くが、フンガッと、不服そうだ。そしてドワーフは我を疑いの目で睨みつけた後、ベロベロバーしてきた。


「…………」


 我は、いつも通りの無愛想なしかめっ面で、そのドワーフのアホ面の目の前に、父から遺伝したのであろう左掌のシワを見せつけてやった。すると、一体この左掌のシワにどんな意味があるのかは全く分からないが、それを見たドワーフは驚いて凍り付いた様に動かなくなってしまった。


 ウィザードはやれやれと固まったドワーフをどかしては、我等に畏まる。


「──ほんに、申し訳ない。こいつは少し、どかしておくとする……」


 ウィザードは手に持っていた杖の石突きで、固まったドワーフのケツを叩いた。ドワーフはアッ! とか言っている。そして我が父は、やれやれとしかめっ面でそれを嘲笑しフッとした後、我に語りかける。


「このシワを継いだ子はファルマ、お前だけだ。我が師、明星の戦士ギリスマエソールの長が言うには、これは我が血族の中で、何らかの役割を帯びている証拠なのだと言う。だが、その詳しい役割はその時になってみなければわからないらしい。それは俺もだ。俺はそれを探る為に世界中を旅し、ギリスマエソールの意思を独自の解釈にて実行している。これが俺の仕事だ。お前も、その定めにあるのかもしれないな」

「ほう。役割、仕事……」


 我は自身の手のシワを眺める……。


 するとウィザードはため息交じりで意味深な咳をわざとして注目を集めると、話題を切り替えた。


「──イエア殿。こと、ファルマ殿。拉致られながらもオーク部族を掌握し、勝利をもたらすこと幾回。なるほどその手腕、噂通りで感服した次第。しかし、ご家族殿が国を挙げて大騒ぎでしたぞ?」


 ウィザードは我を拉致って利用したブァブァ様を睨みつける。ブァブァ様はその睨みつけに、遂に顔を手で覆ってうはぁ~とした。女オーク戦士はブァブァ様を心配する。


 確かに当人に許可なく拉致して利用は良くないな。そしてもしかしたら我は、その為にストックホルム症候群だったのかもわからない。だが悪い気はしなかったし悪い待遇でもなかった。


 ロフノスト家での平和な日々はそれは悪くなかった。だが、であるからこそ反動的にデンジャラスな日々に、我の特技を存分に発揮できた戦闘の数々に、我は最高の気分であった。そして、まったくもって敵の虐殺を楽しめたとか……冷静に思えば我は、このブァブァ様を攻めれる立場には無いのではとさえ思えてきてならない。


 我はため息と同時に“大丈夫気にしていない”と、ブァブァ様に無言で手を振ってその罪を許した。ブァブァ様は畏まって我に平伏する。


「ハハァァァァァ……」


 そして我は父を見て言う。


「我が家族の愛は、疑う余地も無いな」


 父は澄まし顔をそむけた。……なるほど。我が父は少々ツンデレさんらしい。なんだか笑えてきた。


 それを見て少し“おや?”とした表情を見せるウィザードであったが、何かを察してフフフと鼻で笑うと会話を続けた。


「ご家族殿の方には私から言っておいたでの。ファルマ殿のご活躍は目覚ましいと。ファルマ殿の兄上には少々手こずりましたが、今は恐らく何とかご公務に専念なされておられるかと。ご心配なさらずに」

「うむ……ところで」


 するとさっきまで固まっていたドワーフが、今度は打って変わって親戚にでも話しかけるかの様に、強引に我に話しかけてきた。


「おいファルマ! おめぇ~の兄貴、ありゃひで~ポンコツだな!」


 そるとウィザードがドワーフを睨みつける。するとドワーフは


「おい何だよ! って事は、だってこいつは俺の甥ってわけだろ!? いいじゃねぇか!」


 ウィザードはいい加減怒鳴り散らす。


「──お前は黙っとれ!」

「な、なんだよクソ……!」


 挙句には我が父に首根っこ掴まれ引きずられるドワーフ。


「おい放せ従兄!」

「フンッ」


 そのやり取りを見たゴッズフィストは何故かちょっと機嫌を直した。


 つまりそういう訳か。


「ハッハッハ」


 我は笑う。


 オーク共はチンプンカンプンな顔をしているが、ブァブァ様は結局全部お見通しのヘラヘラ顔となった。しかしだがまだ疑問は残る。なぜウィザードや故郷が我の活躍を知るに至ったのか? 我はウィザードを見て返す。


「国の落ち着き、それはなにより。だがしかしなぜ──」


「──風は、噂好きでの」


 チチチッと鳴く声。ウィザードの肩に小鳥が止まる。ウィザードは何やらポケットから摘まみ出すと、小鳥にそれを啄ませて、そして小鳥は去っていった。我は察して言う。


「なるほど。それは羨ましい……」


 ウィザードは自慢げな笑顔になった。そして我はオーク共に号令する。


「──来客だ。宴の準備を」

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