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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
呪われし荒野戦記(粗暴なオーク達の戦い)
15/82

15.第二次雪冠る山脈の戦い

「──イエア様! 敵が迫っております!」


 遂に来たか。


 坑道の先の、花崗岩に挟まれる様に剥き出しとなった金脈を見つけては、そう急報を告げられる我。しかしながら我は、至って平静である。あまりにも都合の良すぎる我等の拠点。その噂を聞きつけ奪いに来る他のオーク共。全くもって想定内である。


──むしろ兵科・戦術を試す時が来たと我はニヤける。


 それを見たオークやゴブリン共は、やはり我を戦神の子だと奮えたった。


 飛び道具兵科が間に合わなかったが、まぁいいだろう。試し斬りである。


挿絵(By みてみん)


 今回は最重要拠点の防衛である。


 故に我が部族の盛衰この一戦にありなのである。よって、女オーク戦士共も武者震いで我慢ができず、戦線にこれでもかと合流する。我はフェミニストである。故に、老若男女全員平等に訓練を施して国民皆兵の全軍招集なのである。その為か、女オーク戦士共は妙に士気が高い。


「イエアァァァァァァアアアアアアア!!」


 負ければ部族は滅亡吸収され、我は焼首となるだろう。──しかし、負ける気が全くしない。たとえ敵が三部族で連合を組んで、その兵力三倍近くであっても、だ。


 我はフッとなる。


 故に、故にだ。一部族当たりの数がやや少ない事に我はつい笑ってしまった。


「──ハッハッハ!」


 それを見ていたゴッズフィストも、他のオーク達も、その笑いに何が何だかわららないまま、何かを察してつられ笑いを始めた。


「ぐふふ……ぐふふふふ……グワッハッハッハ!」


 そして全員訳も分からず大笑いで楽しそうである。


 ふふふ。そうかそうか。敵には新兵科の弓隊がいるのか。惜しいな。今回の戦いは我等が高台。飛び道具の威力はそれで下がる上に、我等にはその対策が既にあるのである。


 敵三将は自陣の前へ雁首揃える。


 例の如くゴッズフィストが稚拙な外交をおこなう為に前へ出た。そして敵三将は声をそろえて先手の罵声を浴びせてきた。


「俺のモノは俺のモノ! お前のモノは俺のモノ!」


 しかしゴッズフィストが何食わぬ顔で即答する。


「そしてそれらは、俺のモノ!」


──以上、外交終わりである。


 相も変わらずで、何よりである。


 さて、我が笑ってしまった理由であるが。まず、両脇に森がある。敵は想定よりその数が少ない。少ない分何処に行ったのか? もうお分かりだろう。この森に敵の伏兵が隠れているのである。


 野戦経験者にはもう、アルアルな状況なのである。その証拠に、森で翼を休めていたのであろう鳥共が、慌ただしく木々の上を旋回している。つまり、敵はその森を隠れ蓑に迂回し、我等の側面後方を脅かそうとしているのである。


「グッハッハ!」


 ゴッズフィストは言ってやったとばかりに帰還する。そして我の脇に笑いながら戻ってきた。すると敵が遂に動き出す。


 敵はまず、迂回する伏兵を悟らせまいという意図もあるだろう、自分らの弓隊を前に出し、一斉射撃を行ってきた。


──亀甲隊形(テストゥード)


 と、言いたい所だがまだそこまでの練度に我等は達していない。故に、ゴッズフィストは代替え案であり、今まで訓練してきた隊形戦術の指示を出す。


「──シールドウォォォォォル!!」


 オークレギオンの大隊歩兵達は、大きな盾を前面、及び頭上に隙間なく掲げて守りを固める。


 やや頭上から迫る矢は思った以上にヘロヘロで弱々しかった。一本当たりの大きさも重量もさほどない。空はちっとも暗くならなかった。それらは、盾の表面さえ貫通できない。大半が盾に弾かれ、刺さっても虚しくすぐに抜け落ちたのである。


「きかねぇよ!」

「ハハハハハ!」


 大隊のオーク共は雑魚矢に大爆笑である。


 せっかくの筋骨隆々オークであるのに、どうして引きの軽い雑魚弓矢を使うのか。実にもったいない。しかし理由はいくつか考えられるが……しかし単純に、工作スキルがヘタレだっただけかもわからない。


 とまれ、側背警戒用の杖剣部隊を伏兵の伏兵として両脇の森へ潜伏させよう。


挿絵(By みてみん)


 そして敵は、矢筒にある十数本の矢を全部一斉射で打ち尽くした。こちらの被害は軽症者数名程度である。ああ……こんなのバーで自慢しても誰も信じてもらえないだろう。敵の弓隊は、勝手に撃ってきて、勝手にプライドズダズダになり、そして涙をこらえて悔しそうに後方へ後退していった。


 新設弓隊の威力見せてやるとか言ってタンカを切っていた敵将のメンツは丸潰れである。この事実に逆上した敵三将は、今までのオーク文化よろしくいつもの戦術で強引に突破を図ろうと準備を始めている。


 やれやれ、まだやるのかその戦術。


 結果雑魚ではあったが、弓隊新設と少しは捻ってきたかと思っていた矢先だけあって、非常に残念なのである。しかしながら、一応の警戒は緩めない。様々な可能性を脳裏に回しながら敵の動きを注視して対策を考える。


 が、やはり我は第一戦列のオークレギオンと、第二戦列のオークファランクスとを戦列ごと前後交代させ、敵の突撃に対応するべきファランクスを、我が右腕のゴッズフィストに指示する。


 ゴッズフィストは、流石は部族の親玉だけあって、他のオークと比べて理解が早くて助かる。そして彼は勝つ信念の為なら、今までの古い信念をきっぱり捨て去る事が出来る程の玉の持ち主でもある。一々我が声に出さずとも、短い間の訓練ではあったが、その成果を見せんとばかりに我の意図を組んで戦列へ指示をだす。


「ファ~ランクス! ファランクスだ急げ!」

「イエアッイエアッ!」


 我等は新戦術を行使する。であれば、普通敵さんは警戒するはずである。しかし敵にそれは関係なかったようで拍子抜けである。敵はボアファイターを先頭に、いつも宜しくの突撃を開始した。


──無益な。


挿絵(By みてみん)


 我は、拠点生活向上の為に出た土砂を、この時の為にと砂袋に詰め、土嚢としてこの戦場にあらかじめ並べて置いといた。大した量ではなかったので、積みあがった土嚢は膝下程度の高さでしが無いが、この隆起は坂を駆け上がって来た敵にとっては手痛い障害物となるだろう。


 しかし、その土嚢の効果が出る前に、長さ5メートルにもなる長槍(サリッサ)によって、突っ込んできた敵は勢い余って串刺しになる。馬なら怯んでいたであろう。しかしそこは猪であった。余談だが


──猪の狩りは槍を使って行われる。


 我等ファランクスの最前列は、その長槍の石突きを地面に押さえつけ、強烈な運動エネルギーを敵へ跳ね返した。バッタバッタと倒れる敵ボアファイターの群れ。そして、敵の突撃は止まった。


「なっ!? ま、まずい! 後退! こうた~い!!」


 思わぬ突撃反射に壊滅したボアファイターの悲劇を見て、敵将は主力の歩兵を急いで後退させた。その間、我等のファランクスは、手負いで動けなくなったボアファイター共へトドメの一突きを加えた。


挿絵(By みてみん)


 この時、我等が陣両脇の森がざわつく。


──ああ。やはりか。


 敵も少しは学習するようだ。我が散々鉄床戦術を行ったので、包囲の脅威は彼ら自身が知る所だろう。それを真似して使わない手は無い訳で、うまく森を利用して迂回、正面の戦いで意識誘導(ミスディレクト)し、その後方を突こうとの算段だった……と、言うのは間違いなかった様だ。


──バレバレである。


“奇襲しようと思ったら奇襲された”


 普通に奇襲されるより、こちらの方がデカいダメージとなる。


 奇襲は、心理効果にも期待する戦術である。心の準備不足は、実践の準備不足であり、そこに付け入るのである。そうして奇襲された者は、その焦りでまともに剣を鞘から引き抜けずに倒される、という始末なのである。


 だが、奇襲する側はその優位性にこれでもかと慢心する。


 猟銃を持っているから、罠にかけるのは此方だからと慢心した猟師は、突然のヒグマに張り倒されるの法、なのである。逆奇襲の心理効果は奇襲に倍する所である。敵迂回の奇襲兵共は、一斉に混乱して逃げる間もなく、後方迂回警戒用に新設された杖剣隊によって張り倒された……。


 伝令が我等に駆け寄る。


「イエア様! イエア様の言った通りとなりました! 我等の伏兵が敵の伏兵を一網打尽に!」

「うむ。報告大儀である」

「ハッ!」

「グワッハッハ!」


 ゴッズフィストは醜い笑顔を浮かべて敵陣を馬鹿にしている面である。楽しそうで何よりである。我は、良いエンターテイメントを提供できては、さてさて光栄なのである。


 では、そろそろ中央も動く時か。


 敵に残されたのは歩兵と後方に下がった矢尽き弓隊だけである。


 しかし敵も負けてばかりはいられない。敵だって必死なのだ。焼首にならないようガチで必死なのだ。故に敵は我等の戦術を即座に真似して、我等の逆襲に備えるべくシールドウォールを展開し、ガッチガチに防衛の布陣をしてきた。見た目からも練度の差が浮き彫りではあるのだが、それでもやらないよりかはましであろう。


 だが、そうして貰えると我は逆に助かるのである。


挿絵(By みてみん)


 オークファランクス戦列は一旦待機で、オークレギオン戦列を再び最前列へ配置転換させる。そして敵陣の手前100メートル程までドスッドスッと足並み揃えて威嚇の前進をしてから一旦停止する。少し間を置いてから


──突撃開始である。


「突げーき!」

「ウガァァァァァァアアアアア!」


 この突撃は只の突撃ではない。“投槍(ピルム)”を一斉に投げながらの突撃である。


 “ピルム”とは古代ローマの武器で、意図的に軟鉄で出来た細長い返し付きの槍先を持つ重い投げ槍である。これを盾でガッチガチの敵陣に投げると、盾に刺さった槍先が折れたり曲がったりして盾は重くなったり、並べられた盾同士で数珠つなぎとなって盾を使い物にならなくさせてしまうのだ。


 アウグストゥス・ユリウス・カエサル、英語読みではジュリアス・シーザーの著書で有名なガリア戦記には、そんな記述があったりする。


 そんな数珠つなぎとなった盾で汗々(あせあせ)する敵オークは実に可愛らしいが、焦っている暇などないぞ。そこへ突撃を仕掛ける我がオークレギオンの大隊戦列は敵陣最前列の歩兵を一思いに薙ぎ倒した。


 敵は一旦怯むが、まだまだ数はある。すぐさま反撃で群れる敵。


 第一撃を加えた大隊戦列は、すぐさま隊列を組み直して盾の防壁を作りそれを押し返す。


 重い質量同士が相撲を取りだす頃、いくつかの敵が我が大隊戦列の盾と盾の隙間から侵入を果たす。が、しかし、それはこちらの意図する所であり、密集乱戦に特化したショートソード・グラディウスがその重量による無慈悲な斬撃と、鋭利な現実と言う名の刺突で瞬く間にその侵入者へ、これでもかと土の味を叩き込む。


 敵がいい加減相撲に疲れだす頃、我がオークレギオン大隊戦列は、驚異の再前進を開始する。


 盾に弾かれる者、盾の合間から斬り付けられる者、そして盾と盾の合間に消えて行く者……。死の防壁……。その姿はまるで、空き缶等はいとも簡単に擂り潰してしまう鬼歯ロールクラッシャーの様である。


挿絵(By みてみん)


 敵は降伏し、我等は勝利した。


 敵は、その残す数三分の一位で、敵三将の最後の生き残りが戦死した。すると、瞬く間に降伏してしまったのである。むしろそれは英断である。我はその為に、捕虜の虐殺は行わず、味方にしてきたのである。彼らはそれを知ってか、味方にしてくれ言わんばかりに降伏するのである。


 暇だった我等のボアファイター共は出番がなかった事にブゥブゥ言っている……。


 ふぅ……。これにより我の軍制改革は成功と言える。歩兵だけでこれなのだから、これにボアファイターの機動力を活かした鉄床戦術を行えば、もっとヤバい軍団になったというのは想像するに簡単だろう。しかも、敵の新設した弓隊が丸々手に入った。


 あとはあの雑魚弓矢をもっと強力なものにすればよい。


 我等は、全軍出陣でもぬけの殻となった仮説拠点へと凱旋する。その凱旋を祝ってくれるのは、たった一人で残っていたブァブァ様だけだった。


 我は決心する。


 よし、ここにどっしり居を構えよう。この拠点をがっちり発展させれば、この部族安住の地になるに違いない。我は我を抱っこする女オーク戦士の腕の中、相変わらず無愛想なしかめっ面で、内心ウキウキした。久々の猪肉である。我等はさっそく戦勝の焼首大会の準備を始めた。


 ……だが。


 鉱山側から何やら弄されて道案内するゴブリンに、見慣れる姿のパーティーが現れる……。


 国民皆兵の筋骨隆々、戦勝に戦勝を重ねて自信満々の我等がオーク軍団の睨みを前にしても堂々とするそのパーティーは、ニンゲンにドワーフにウィザードに、そして男のエルフがいた……。

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