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幼児に転生し三歳になった誕生日、ゴリゴリに軍団を指揮する事になった話。  作者: 怒筆丸 暇乙政
呪われし荒野戦記(粗暴なオーク達の戦い)
10/82

10.

 オーク共に金の価値は分からない。


 実際に、


「金!? 金は軟弱! ふにゃふにゃで重くて役に立たない!」


 と、ゴッズフィストはボンガーを睨みつける始末。


 確かに。人間社会において、通貨となる程価値のある金も、オーク共には錘くらいにしかならない。そんなオーク社会で金が手に入ったところで何だというのか。しかし我には、それは希望の砂粒に見えてならない。もしかしたら、もしかするかもと、この川の上流に希望を見てしまう。


「この川を昇るぞ」


 ボンガーはしたり顔で、ゴッズフィストはそれに若干不服そうであるが、結局皆ひっくるめて我に従う。このオークコミュニティーは、ならばと大移動を開始した。


 立ち昇る砂埃。道なき道は長い。水があるのが唯一の救いである。


 我は道中あれこれ考える。もしこの川の上流に森があったなら、なぜこの荒野は肥沃でないのか? あるのはぽつりぽつりと乾いた草ばかり。猪はその草をむしって穴を掘り、何やら地中の物を貪り食っている。虫に芋。それはオーク共にとっても意外と主食であるようだ。食うものが無いので仕方がない。日差しは確かに強い。砂漠化はあると思う。そういえば呪われた荒野と言っていたな。


 砂漠化の原因は、堪え性の無いオーク共が、この猪と一緒に若い草木をむしってしまうからではないのか? だが、内陸に進んで数日、草が少し増えてきたかなと思うあたりで大自然を目の当たりにする。それは水牛の様な動物の群れだ。見渡す限り、地平の先まで群れるその動物は、地上に生えた若草を一網打尽にしている。そして足元にはイナゴの死体。


 なるほど。蝗害もあるのか……これは相当厄介である。


 肉食動物は危険だからと殺しつくした結果、今度は数を増やした草食動物が大地をえぐってゆく。狼を追い払った北アメリカでは、そのせいで環境破壊が進んだとの見方があり、狼を戻したらむしろ森が増えたという研究もある。草食動物は一見無害に見えるが、増えすぎると大変危険である様だ。あとは肉食が増えると困る牧場主との折り合いが問題だ。やれやれ。我はどちらの立場にもないが、思うのは、きっとこの世界にもそんな話があるに違いないと政治の難しさを想像する。


 とか、長く退屈な道中を、そんな事を考えて暇つぶしした。


 オーク共は久々の獲物に喜んで狩りを嗜む。この草食獣を食う獣はどこに行ったのだろうか? とまれ、今晩の飯はステーキに焼きバッタとなるだろう……。虫は、考えようによっては優良なタンパク源ではあるが……たまには瑞々しいサラダや果物が食べたいのである……。


 そしてやっと森へ到達する。


 オーク共は槍の柄を作ったり盾を作ったり、様々な道具を作ったりとせっせと道中の樹木を切り倒す。荒野の寒暖の差と打って変わって、森は夜間でもやや暑く保温されていた。砂は土となり、赤茶げ色から茶褐色、そしてだんだんと暗い肥沃な色へと変わってゆく。上流の水は清い。思えばどこで黄土色の水から白い透明な水になったのか思い出せない。崖も増えて滝も増える。道中まっすぐだった道のりも、今となってはイロハ坂である。


 気付けば南の太陽は、我の背ではなく左からさしていた。我等は西へ向かっている。そこである程度の幅がある広い谷へと差し掛かった。そろそろか? そう思ったその先には、不穏な緑色が行く先を遮っていた……。


 ゴッズフィストは得物の柄を握りしめる。そしてボンガーは言った。


「──敵だ」

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