明るい室内
今日は肌寒い
頭がカチ勝ち割れるほど痛い。痛み感じるということは失敗したということだろう。結局自殺もやりきれなかったわけだ。人がコロコロ死ぬ中で、私はなんて丈夫なんだろう。それほど価値のあるものでもあるまいに。
「お、起きたみたいだね。どうだい?自殺に成功した気分は。」
包帯のせいで首もウが課せなければ、左目は見えないがおそらく医者だろう。バカに明るい声で入室時から億劫な気持ちにさせてくる。それに失敗したからここにいるんだ、という常識は医者であるはずの彼なら分かるのではないか。
「医者だからって助けなくてもよかったのでは?ほっといてくれたらそれで構わなっかったのですが。」
医者はニコニコしながら私のベッドの右側に歩いてきた。声から分かるようにかなり若い男性だ。来客に備えた椅子は彼が座らなかったらおそらく役目を失っていただろう。
「べつに死ねたんだからよかったじゃないか。それに医者なんかじゃないよ。ほら、僕が天使だ。」
天使の輪っかを指さす彼はとても自信にあふれていた。いまどきコスプレでももっとましなものがある。私が言うのも変な話だが、おそらくこの人はちょっとおかしな人なんだろう。
「今僕のこと変な奴だって思ったでしょ。天使は心を読めるんだから。」
出会い頭にこんなこと言われたら心を読むまでもなくそう思うと分かるだろう。
「頭がとても痛いです。腕は動かそうとするだけで激痛です。死んだとしたら痛覚なんてなうでしょう?私は助かったみたいです。あなたのせいで。」
彼はカルテを書きながら私の返答をする。口調はいつまでたってもふざけたままだ。
「あれ、死後の世界に痛覚なんてないと思った?死ねば苦しみから解放されると思った?ざーんねん。死後の世界は地獄でも天国でもなく全く同じ世界だよ。」
「なら老いたらどうなんです?老いて死んでも永遠と死を繰り返すんですか?そもそも苦しみなんてありません。死は一つの手段です。やることないから死んだだけです。」
書いていた紙から顔を上げ、私の顔を神妙にみる。さっきまでのふざけた笑い顔から変わり、ポカンとした顔だ。
「あれ、思ったより的確だね。まぁ死んだことないから的確かどうかなんて知らないけどね。でもそう、君は助かった。通りかかった僕がここに運んだからね。安心してくれたまえ、誰にも見られてないからけがが治ったら日常に戻れるよ。」
それはとても最高に最低な提案だ。何が嫌で飛び降りたのかがこの人には全く分かっていないみたいだ。人の気持ちが分からないサイコパスは人を助ける側にも存在しているようだ。そもそも人気のないところを選んで私は飛び降りたのだ。それも深夜に。そこに偶然人が通りかかることなんてあり得るのか。しかもよりによって医者が。
「勝手に飛び降りたんです。そっとしておいてくださいよ。」
「あれ、そうなの?じゃあ勝手に助けたんだよ」
「迷惑です。」
「僕も血を見て迷惑したなぁ。そういえば。」
もう私を見ずにカルテ作成を続けていた。おそらくどんな恨み口をたたいても適当に返されるだけだろう。私はあきらめて目を閉じた。頭の痛みはまだとれない。
そういえば私の苦手な消毒液のにおいはしなかった。
週一ペースの予定にします。やる気が出たらもうちょい書きます。逆もまた然りなので気長にどうぞ。