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第8話:行方不明

何とか2話投稿できました。


来週もがんばります。

 奴隷商団「イル・ウルス」の情報はあったものの、その後、特に事件らしいものは発生せず、不自然な行方不明者も出ることはなかった。


 この件は、街中にある掲示板によって市民に知らされ、注意喚起が為されることとなった。


―――――


「そういうわけなので、夜間の外出はくれぐれも控えた方がいいと思います。」

「そうですね。わざわざありがとうございます。」

 いま私は、孤児院にある応接間で院長と世間話をしている。


 レイラとメイと出会ってから、定期的に孤児院を訪れるようになった。子供を見ていると心が洗われる気分になる。前世の記憶を思い出したこともあり、自身の精神年齢だけ年をとったみたいで、孫を見るおじいちゃんの気持ち感が否めない。


 お菓子だけではなく、パンや肉などの食料品を差し入れに持ってくることもあったため、子供たちからは「お菓子の人」改め「ごはんの人」という呼び方に変わった。それを聞いた院長や副院長、レイラは苦笑いをしながら、「ちゃんと、ライナスお兄ちゃんと呼ぶように」と子供たちを注意していた。


 ただ、さっきもメイに「ごはんの人きたよー!」と元気に言われ、レイラとアンナに「すみません…。」と謝られたところだ。アンナはレイラと同年齢の女性で、彼女と同じように子供たちの世話をしている。ちなみにもう一人の年長者はクロエといい、彼女たちと同年齢の女性だ。


 院長のジルドさんとも仲良くなり、こうしてお茶をする間柄となっている。奴隷商団のことが気がかりだったので、改めて注意喚起をしたところだった。当然、ジルドさんもそのことは気にしているようで、小さい子供たちの外出を控え、買い物も院長もしくは副院長で奥さんのミランダさんと一緒にするようになったとのことだ。只今、ミランダさんはクロエと一緒に買い物に出かけていて留守だった。


「ライナスさんが、こうやって差し入れをしてくれるおかげで、子供たちにも笑顔が増えた気がします。お恥ずかしい話ですが、運営は決して楽ではないため、子供たちにも我慢させてしまっている状況でして…。」

「いえいえ。私も子供は好きですので。そんなにお気になさらず…。」

「それにしてもライナスさんは、うちのレイラやアンナと同年齢のようですが、とても落ち着いてますね。」

「ええ…。そうですか…。まあ、そんなことはないと思いますが…。」

 実は前世と合わせて100歳オーバーとは言えない…。


「さて、私はそろそろお暇しようかと思います…。」

「せっかくですし、一緒に夕飯でもいかがですか?子供たちも喜ぶと思いますので。」

「そうですか…。じゃあお言葉に甘えて…『院長、大変です!ミランダさんがっ!』。」


 レイラが慌てながら応接間に入ってきた。


―――――


「ミランダ、どうしたっ!そんな血相を変えて。」

「あなたっ…。クロエがいなくなったんです。」

「クロエが?一緒に買い物に行ったんじゃなかったのか?」

「ええ…。だけど、気が付いたらいなくなってて…。」

「落ち着いて話をしてみなさい。」


 院長が言う通り、ミランダさんとクロエは一緒に食材と日用雑貨を買うために街の市場に出かけていた。夕方に差し掛かる時間帯ということもあって、市場は混雑していたようだが、買い物は順調だった。

 ところが、ミランダさんが買い忘れに気付きお店に戻ろうとした。ただ、院長から奴隷商団のことで注意をされていたため、クロエに荷物を持たせ、市場にある噴水広場で待っているようにと言った。明るい時間帯に、大人数が行き交う場所で拉致もないだろうと思ったらしい。

 しかし、ミランダさんが買い物を終えて、広場に戻ったところ、クロエの姿は無かった。あたりを探したが、彼女の姿はなく、荷物と一緒に忽然と姿を消してしまったというのだ。彼女は急に怖くなり、急いで孤児院に戻ってきたのだった。


「あなた、どうしよう…。クロエが…。」

 ミランダさんが、目に涙を浮かべ、悔しそうに嘆く。


「とりあえず、落ち着きなさい。まだ奴隷商団に拉致されたと決まったわけじゃない。」

「でも…。」

「ここで泣いていては、子供たちを不安にさせてしまう。レイラ、ミランダを部屋に連れていってくれ。アンナも子供たちを…。」

「「はい…。」」

 彼女たちは返事をしたものの、その表情には不安の色が滲み出ている。


「ライナスさん、すみません。お見苦しいところをお見せして…。」

「いいえ。私は大丈夫です。それよりもまずは衛兵に知らせた方がいいですね。」

「そうですね。私はこれから衛兵の詰所に…。」

「いいえ。院長はここに残っていた方がいいと思います。みんなも動揺しているようですし、もしかしたらクロエが戻ってくるかもしれません。衛兵には私が通報します。」

「…わかりました。申し訳ありませんが、ライナスさん、お願いできますか?本当にすみません…。」

「大丈夫です。それから…。」

 私は、院長にあるお願いをしてその場を去った。


―――――


 孤児院を出た私は、衛兵の詰所ではなく、衛兵本部に足を運んだ。


「ライナス・ロックハートだ。団長のサイモンに取り次いでほしい。」

 衛兵本部の門番にそう伝えると、すぐさま応接間に通され、少しすると団長のサイモンが姿を現した。


「ライナス様、わざわざ本部にいらっしゃるとは、どうかしましたか?」

 レイカール衛兵団の団長であるサイモンとは、以前トーマスが引き合わせてくれた。トーマスとの信頼関係も厚い。私が冒険者として活動していることも知っている。


「急にすまない。実は…。」

 サイモンに孤児院での出来事を説明し、クロエを探してくれるようにお願いした。

「なるほど、孤児院の一人が行方不明になったと…。たしかに、『イル・ウルス』のこともあるので、しっかりと確認した方がいいですね。」

 サイモンはそう言うと、部下にクロエを探すように命令を下した。まずはいなくなった噴水広場を中心に聞き込みを行うとのことだった。


―――――


 サイモンと別れた後、私はギルド経由で噴水広場にやってきていた。衛兵とは別に、私はソロでクロエの捜索をすることにしたのだ。

 右肩には1匹の動物が乗っかっている。一見すると子犬のようにも見えるが、これはれっきとした狼だ。名前をクルトと言う。


 召喚魔法。これは読んで字の如く、獣類やモンスター類を召喚する魔法だ。召喚後、召喚獣が示す条件(戦闘等)を満たすことができれば、契約・使役することができる。

 これと似たような魔法として使役魔法が挙げられるが、これは対象物を召喚するのではなく、直接発見する必要がある。使役魔法は相手が弱っている、屈服している場合でないと効果がないため、必ずといっていいほど、最初に戦闘状態に入ることになる。

 したがって、強力なモンスターを使役するためには、それなりの準備と覚悟、戦闘能力が必須となる。


 この狼はシルバーウルフであり、Aランクモンスターである。実は前世において契約していたモンスターであり、ライナスとなった今世においても無事に契約することができた。通常では相手の条件を満たす必要があるが、何でも「ここまで魔力が高ければ特に問題ありません。」とのことで、一発契約に至った。


 ちなみにギルドに寄ったのは、テイムモンスターとして「登録」するためだ。レイカールに限らず、街中でこのようなモンスターを連れていく場合は事前登録が必要であり、それを怠った場合は罰則が科せられる。

 シルバーウルフというAランクモンスターの登場に、ギルド内は騒然すると思われたが、契約関係が成立したモンスターはその大きさを変えることはできるため、端から見たら子犬にしか見えなくなっていたため、特に騒ぎになることはなかった。

 エイミーさん始め、みんなが微笑ましいものを見るかのように、優しい眼差しを私に向けていた。


 さて、クルトを召喚した理由は、クロエの行方を追跡するためだ。そのために、ポケットから1枚のハンカチを取り出す。これはクロエのものだ。さっき孤児院を出る際に、院長にお願いして預からせて頂いたものだ。


「クルト、このハンカチに付いている匂いと同じものが、この辺りにあるか調べてくれ。」

「わかりました。この辺りを探ってみます。」

 ちなみにクルトは言葉を発し、会話することが可能だ。


「ご主人様。こちらからそのハンカチの匂いと同じものを感じます。」

 クルトは、5分程探った後、クロエの痕跡を見つけてくれたようだ。私は、近くにいた数人の衛兵とともに、その痕跡を追うことにした。


―――――


「なんだ、もう始めているのか?」

 薄暗い倉庫の中にある小屋で、ひとりの男が、酒を飲もうとしていた男がそう問いかけていた。


「いやいや、まだニールの野郎から指示はもらってないんだが、なかなかの上玉を見つけたから、ついな。」

「はあ…。ヨス。仕事熱心なのはいいが、そのすぐに手を出す癖は何とかしろよな。俺たちのことは、このレイカールでもだいぶ警戒されているようだ。掲示板にも『奴隷商団イル・ウルスに注意!』と書いてあったぞ。」

「まあまあ、いいじゃねえかカイル。それだけ俺たちのことが有名になったってことだろ。それよりも、地下にいるレイカール第1号奴隷を見てみるか。まだ少し幼いようだが、あれはあれでなかなか稼げるぜ。」

「いや、また後でいい。それよりも、ニールから指示がきた。とりあえず、レイカールで何人か見繕っておけってさ。」

「なんだ。結局始めてよかったんじゃねえか。じゃあとりあえず酒でも飲むか。」

「ああ…。そうだな。」


 二人の男たちは、「今日の仕事は終わり」といった感じで、飲み始めたのだった。

読んで下さり、ありがとうございます。

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