第4話:冒険者ギルド登録と活動開始
昨日に引き続き投稿できて良かったです。
レイカールという街は、スナイデル王国南部の要衝地ということもあり、商業が盛んである。父ハリスの商業振興策も功を奏して、更なる発展の様相を呈している。
また「冒険者」が多く訪れ活動する地でもある。交易商人の護衛依頼のほか、レイカール周辺にある森や草原に生息するモンスター等の討伐依頼、もしくは薬草採取の依頼もある。街自体もそれなりの大きさがあり、その保全、美化、維持管理に関する依頼もある。それらの依頼をこなす主役が「冒険者」である。
そのため「冒険者ギルド レイカール支部」は、連日賑わいを見せており、初心者でも活動しやすい地域となっていた。
今日、ライカールに新たな冒険者が誕生しようとしていた。ライナス・ロックハートである。
前世の時代においても、「冒険者」という職業は存在しており、アルバートも冒険者として活動していた。前世と合わせて2度目の冒険者稼業となるが、時代も環境も異なっているだろうから、ライナスは、少し楽しみにしていた。
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「すみません。冒険者登録をしたいのですが。ここであってますか?」
ギルドの建物に入り、受付札が掲げられた所に向かい、そこにいた女性に声をかけた。
「はい。登録希望の方ですね。それではこちらに記入をお願いします。代筆もできますよ。」
自分で書けますから、と返答しながら記入事項を埋めていく。名前はライナスと記入したが、家名は伏せておいた。特に理由はないのだが、何となく「新しい自分」としての出発の意味を込めたかった。名前以外は、年齢・出身地を書くだけの簡単なものだった。
「はい。ライナスさんですね。冒険者ギルドについて説明は必要ですか?」
「はい。お願いします。」
登録を担当してくれた受付嬢(名前はエイミーさん)の説明を聞く限り、冒険者ギルドの仕組みは、そんなに変わっていないようだ。但し「ランク」は、300年前のそれとは変化していて、細かくランク付けされている。
現在のランクはGから始まり、F→E→D→C→B→A→Sというようにアップしていく。C~Dランクで一人前の冒険者となり、Bランクがベテラン冒険者になる。Aランクは一流冒険者となり、Sランクには滅多にあがることはないらしい。ベルラール大陸にも数人しかいないらしい。
「登録試験を受験されますか?武器を持っているところを見ると、ある程度の戦闘能力はお持ちですよね?」
登録試験は、試験というよりが確認の意味が大きいらしい。だから合否があるわけではなく、登録時のランクがFかGか分かれるだけだ。但し、Gランクは街での依頼がメインになるため、戦闘能力が著しく低い子供が多い。そのため、戦闘能力がある冒険者がGランクから始めると、彼らの仕事を奪うことになるため、ギルドではあまり勧めていないらしい。
「はい。試験を受けます。」
最下位ランクから地道に始めたい気持ちもあるが、そういう事情もあるなら仕方ないだろう。それにこれは趣味でなく、今後の生活の糧にしていくつもりだし、1テーレでも多く稼ぎたい。
ちなみに、この時代は昔の金貨や銀貨ではなく、世界共通通貨「テーレ」が存在して、流通している。よほどの僻地でない限りは、問題なく使うことができる。
エイミーさんに案内されて試験会場に向かう。とは言っても、それはギルドの裏にある大きな広場である。ここは冒険者であれば誰でも入ることができ、冒険者が鍛練する場所として使われているらしく、それ以外はこのような試験や、冒険者が討伐した獲物を解体する場所としても使用されるとのことだ。ただ、早朝ということもあり、私たち以外にはひとりの男性しか見当たらない。
おそらく、あの男性は試験官だろう。頬や腕に傷跡が見られ、表情は硬い。おそらくギルドの職員だろうが、元々は冒険者であったようだ。
「エイミー、その少年が今回の受験者か?」
「はい。こちらが冒険者登録したライナスさんです。それでは、ブランさん、よろしくお願いしますね。審判はわたしがやります。」
「わかった。ライナスと言ったか?そこに並べられている得物を自由に取れ。模擬戦をする。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「挨拶は問題ないようだな。」
ブランさんは木剣を持っている。自分も同じような木剣を握り、お互いに向き合った。
「準備はいいか?どこからでもかかってきていいぞ。エイミー、合図を。」
彼女の「はじめ!」という言葉で模擬戦が始まったが、とりあえずは様子見することにしよう。
「どうした?かかってこないのか?大怪我をさせるつもりはない。こちらも仕事だからな。」
なるほど。これは実戦ではなく、本当に戦闘かできるかどうかの確認のようだ。それであれば、ある程度戦えればいいのだろう。
「いきます。」とつぶやき、正面から攻めた。彼は目を見開き驚いているようだが、私からの攻撃を受け止めた。やはり、元は冒険者だったか。攻撃を受け止められた後、何度か攻撃を仕掛けた。彼は受け続けている。私は後ろに下がり、彼と少し距離を取った。
「ふう。お前本当に冒険者初心者か?まあいい。これなら本気を出してもよさそうだ。今度はこちらかいくぞ!」
彼は正面からそのまま突っ込んできた。スピードはあるが直線的過ぎる。あれは誘いか?もしくは本当にそのままくるのか?いや…足が狙いか。
彼が私の間合いに入った瞬間、私は少し前に出て、彼の右手首を打った。木剣を手離した彼の左肩に木剣を寸止めした。
「参った。よく足が狙いだと気付いたな。」
彼は右手をさすりながら、驚きを隠そうともせず言った。
「足に意識が向いているようでしたので。」
「はっはっは。初心者であればそこに気付かないがな。合格だ。Fランクからスタートだ。本当はもう少しランクを上げてやりたいが、俺には権限がないからな。お前の活躍に期待しているぞ。」
試験は無事に終わり、Fランク冒険者としての生活が始まった。
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冒険者として活動を開始してから約1ヵ月が経過した。
3日依頼→1日休み→3日依頼→1日休みというサイクルで活動している。まあ鍛練は毎日欠かさずやるようにしているが、依頼を受ける日(仕事日)は、早朝鍛練と夜の瞑想だけだ。あまり根気を詰めても仕方がないし、セバスやシエスタに心配をかけたくない。
それに依頼自体もまだFランクということもあり、日帰りで達成できるものがほとんどだ。薬草採取や低ランクモンスターの討伐が主な依頼となっている。
今日は薬草採取の依頼を受けて、陽が傾きかけた頃にギルドに戻ってきた。採取中にホーンラビットの群れに遭遇して、10匹狩った。
ギルドでは、依頼以外にもこのようなモンスターの討伐対象を持っていけば、買取をしてくれる。解体をしていれば、その分買取額が上乗せされる仕組みだ。
但し、「依頼」でなければランクアップに必要な「ポイント」には加算されない。ギルドとは、よくできている仕組みだと思う。
「エイミーさん、こんにち…、もうこんばんはですかね。依頼を受けた薬草を持ってきました。」
「こんばんは(笑)。じゃあ、確認するわね。ライナス君は採取する薬草は状態がいいから、依頼主からの評判も上々よ。その内、指名依頼があるかもね。」
「いえいえ。丁寧に仕事をするように心掛けているだけです。指名依頼が来るようにがんばります。」
エイミーさんとそんな会話をした後、ホーンラビットの買取のため、買取受付に向かった。依頼ではない場合は、依頼受付とは別に買取専用の受付がある。買取を希望する冒険者を分けて、混雑することを防ぐためだ。
「ブランさん、こんばんは。ホーンラビットの買取をお願いします。」
「おお、ライナスか。ええと、ホーンラビットか?解体場に出してもらおうか。どうせ1匹じゃないんだろう。」
登録試験の試験官をしてくれたブランさんは、やはり元冒険者だった。しかもBランクのベテラン冒険者だった。ここレイカールで長く冒険者活動をしていて、引退する際にギルド職員に抜擢されたそうだ。そういう経歴もあって、レイカール周辺の生態には詳しい。
私は空間魔法の一種である収納魔法を使うことができる。
空間魔法自体が特殊魔法であるため、使用できる者は限られている。しかもインベントリは、術者の魔力量や能力により、その容量や性能(空間内の経過時間具合)が左右される。私の場合は、前世の能力を引き継いだ(思い出した)こともあり、容量は結構多く、時間もほぼ経過しない仕様となっている。但し、「生きている動物」は収納できない。
私がインベントリを使用できると知られた時は、ブランさんやエイミーさんに驚かれたが、この世界に唯一無二のものではないため、そこまでの騒ぎにならなかった。
通常の冒険者は、持ち運びの負担も踏まえて、依頼以外の討伐自体をあまりやらない。最低限という感じだ。
それはともかく、無事にホーンラビットの納品を終えた私は、買取費用をもらうために、買取受付に戻った。明日は休みの予定なので、少しのんびりしようと思っていた。
漠然とそんなことを考えていると、ギルド内の空気を揺らすような叫び声が聞こえた。
「誰か!回復魔法を使える人はいませんか!」
読んで下さり、ありがとうございます。