第27話:白クサノオウ採取
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「確かにコワードスワローの巣だね。」
セルマさんは私たちが採取した巣を、品定めでもするように、まじまじと見つめる。
「さて、私はこれから霊薬の調合に入る。だから、その間にこれを使って、白クサノオウを採ってきておいで。」
彼女は籠に入ったシルバーバタフライを殿下に渡した。
「ありがとうございます。セルマ殿。」
「なに。そういう約束だったからね。だけど、必ずそいつは返してくれよ。」
「わかりました。」
私たちは早速シルバーバタフライを使って、白クサノオウを探索に出発することになった。捜索メンバーは殿下、両副団長、私にカルガを加えた4人と1匹。その他メンバーはここに残り待ってもらうことにした。
「殿下、一応野営の準備もしておきます。」
ターニャさんはせっせと慣れた手つきで3人分の出発準備をしていた。私はといえば、自分ですでに準備を終えている。
「ライナス。白クサノオウの群生地までどのぐらいかかると予想してますか?」
「それは何とも…。こちらもあまり時間をかけてられないので、1日中で戻れる距離が理想ですね…。」
「そうですね…。まあ、こればかりはシルバーバタフライを信頼して進むしかないようですね。」
「はい。まあ、楽観的にいきましょう、殿下。」
「ふふふ。不思議ですね。ライナスがそう言うと、楽観的に思えてしまいます。」「ははは。それは褒め言葉として受け取っておきます。」
「本当ですよ。最初は微かな希望しかなかった捜索が、あなたのおかげで、ここまで来れたのですから。」
「そんな…。これも…。」
「臣下の務めですか?」
「はい…。」
「ふふふ。」
「殿下。準備が整いました。いつでも出発できます。」
「わかりました。では、ライナス、お願いします。」
「はい。マジックシールド。」
シルバーバタフライを檻の中から出し、すぐに防御魔法をかける。シルバーバタフライはモンスターの一種とは言っても、そこらの昆虫と大差ない。外敵の攻撃を受けたら、一瞬でその命を散らすことになるだろう。万が一そうなっては白クサノオウへの手掛かりが完全に途絶えてしまう。今回は絶対に失敗できない任務。そのために捜索の補助としてカルガも召喚したのだ。
「それでは行きましょう。くれぐれもシルバーバタフライを見失わないように注意しましょう。」
太陽も高く昇った時分、シルバーバタフライはひらひらと飛び立っていった。それに合わせて、私たちも野営地を出発した。
―――――
その日の夕方。捜索は順調に進んでいったが、まもなく夜の帳が下りる時間帯となる。私たちはシルバーバタフライを檻に戻し、適当な場所で野営をすることになった。捜索の続きは明日以降になる。
「わかっていたことだけど、やっぱり時間がかかりそうだね。ねえ、ライナス君。」
「そうですね。シルバーバタフライはゆっくりと飛び回っていますから…。どうしても時間がかかってしまいます。」
「それに、ずっと飛んでいるだけでもないですしね。途中で花の蜜を吸ったりと。まあ、そのおかげで私たちが追いやすいけど…。」
「主よ。本当にこの方法がいいのか?カラスどもを使って広範囲を捜索した方がいいのではないか?」
「カルガの疑問も最もだけど、白クサノオウは特殊な植物だからね。焦って行動するよりもこの方が確実だと思うよ。まあ、カラスを使った捜索は最終手段だね。」
たき火のまわりで私たちは今日の捜索を振り返った。両副団長が指摘する通り、捜索自体の速度はゆっくりしたものになっている。これが明日も続くようであれば、カルガの言う通り、カラスを使った捜索も視野に入れる必要があるかもしれない。
「殿下、大丈夫ですか?お疲れなら、先にテントでお休み下さい。」
「ありがとう、フロリーナ。大丈夫。別に疲れているわけじゃないわ。ただね、こんな時にこんなことを言うのもあれなんだけど、ちょっと嬉しく思えてね。」
「嬉しく…ですか?」
「ゆっくりだけど、着実にモニカの治療に向かって歩んでいる気がして。研究員たちが書物を解読しているのを待っていた時期を考えると、すごい進んでいる気がして。」
「そうですか…。確かにおっしゃる通りですね。あの頃は海のものとも山のものともつかない古文書を解読していましたからね。ここまで来れたのは何とも不思議です。」
「そうね。これもライナスのおかげね。」
「いいえ、殿下。殿下のモニカ様を救いたいという気持ちがここまで来れたのだと思います。臣下の私が偉そうに言えた立場ではありませんが…。」
「それこそ違うわ。ライナスの知見があればこそです。」
「恐縮です…。そういえば、モニカ殿下はどのような方なのですか?」
「モニカですか?そうですね…。一言で言えば、元気が走り回っているような子供でしたね。」
「元気がですか?」
「ええ。モニカは幼い頃から好奇心が強くて、何事にも物怖じしない性格でした。屋敷の使用人にも気軽に挨拶をして、社交的な妹でした。すぐに屋敷から隠れて街に出て行こうとするので、使用人たちはハラハラしていたようですが。それでもまわりの人たちを明るくする子でした。」
「確かにそうでしたね。私が魔法を講義している時も、目を輝かせながら、いつも質問攻めをしていらっしゃるので、こちらもハラハラしたものです。」
「ふふふ。そうでしたね。いつも話題に事欠かない子でした。それがいまはあんなに…。」
「申し訳ありません…。嫌なことを思い出させてしまい…。」
「いいえ。それももう少しの辛抱です。必ず材料を見つけ、妹を救いましょう。」
「「「はい。」」」
私たちは交代で見張りにつきながら、明日に備えて就寝した。空には三日月が輝いていた。
―――――
「ライナス、ライナス。ちょっといいですか?」
私が交代するには少し早い時分。テントの外から殿下の声がした。
「はい。どうかしましたか?フロリーナ副団長も。」
「夜分にごめんなさい。それよりもこれを見て下さい。」
「これは…。」
それは檻に入っているシルバーバタフライがその名の通りに銀色に輝く姿だった。それは自ら発光しているのか、それとも月の光に照らされて輝いているのかはわからなかった。
「ライナス。これはどういうことでしょうか…。」
「わかりません。初めて見る現象です。しかし…。」
シルバーバタフライは銀色に輝きながら、檻を必死に出ようとしているように見えた。
「一度、檻から出しましょう。もしかしたら、何かの前触れかもしれません。」
「わかりました。私たちも準備しましょう。」
「はい。しかし、承知しているとは思いますが、夜の中での探索はより一層危険になりますので、くれぐれもはぐれないように注意して下さい。」
数分後。私たちは野営をそのままにして、シルバーバタフライを檻の中から出した。すると、銀色に輝く蝶は、どこかの方へゆっくりと、しかし確かな意志を持って羽ばたき始めた。私は念のため、クルトとカルガを召喚して、あたりを注意しながらそれを追った。
1時間程度歩いただろうか。銀色の蝶は、私たちを森の中にぽつんと広がる草むらに導いた。そこには月明りで照らされた白クサノオウが一面に広がっていた。そしてその花々には多くのシルバーバタフライが止まっていたのである。
「綺麗…。」
殿下の言葉が示す通りだった。しかし、殿下の「綺麗」という言葉には、それには表現し尽せない感情が込められていたように思える。それほど、そこには幻想的で何かの物語の世界に引き込まれたかのような景色が広がっていたのだから。
「ライナス殿…。これが、白クサノオウですか?」
「そうです。これで間違いありません。早速採取しましょう。」
私たちは目的の白クサノオウを採取した。その幻想的な光景を壊さないように配慮しながら。そして、連れてきたシルバーバタフライとともにテントがある野営地へと戻っていった。
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