第26話:エルダーエルフの依頼③
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太陽が最も高く上った頃、私たちはセルマさんが教えてくれたヒヒイロカネタイガーが生息しているという洞窟近くに来た。
「それでライナス。具体的にどうやってコワードスワローの巣を採取するのですか?」
殿下は当然の疑問を口にした。
「そうですね。先程も話した通り、巣自体の採取はそれほど難しくありません。コワードスワローもモンスターと言っても、普通の鳥と変わりありません。こちらが威嚇すれば、すぐに立ち去るでしょう。まあ、おとなしい雛を犠牲にしてしまうことについては何とも言えない気持ちにはなりますが…。どちらにしても、やはりヒヒイロカネタイガーを討伐もしくは戦闘不能にすることが必要です。」
「やはり戦うしかなさそうですね…。ヒヒイロカネタイガーに関しては、全く情報を持っていないというか、初めて聞くモンスターなのですが…。」
「そうですね。奴は希少種というより絶滅危惧種に近いですね。まず探してお目にかかれるものではありません。だからこそ仮に偶然だとしても、その生息地を知っているセルマさんがすごいということです。」
「なるほど…。それで奴には弱点とかあるのですか?やはりヒヒイロカネとはあの貴重な鉱物ですよね?」
「はい。基本的にはその認識で結構です。ヒヒイロカネは強度及び魔法伝導率ともに最高ランクのひとつに数えられる大変貴重な鉱物です。」
ヒヒイロカネで作られた武具は大変貴重なもので、伝説の武具と言っても過言ではなく、間違いなく最高ランクに位置付けられる。剣士や魔法使いであれば一回は手にしてみたい武具だ。前世では武神、賢者と呼ばれていた両親がそれぞれ使用していたことを覚えている。
「ということは、やはり魔法で?物理攻撃では苦労しそうです。」
「それが…。実はその点がネックでして…。ヒヒイロカネ自体は魔法伝導率が非常に高いので、よく魔法系武具や魔道具に使用されますが、モンスターとなると話は変わってきます。なぜかヒヒイロカネタイガーやヒヒイロカネゴーレム等のヒヒイロカネ系モンスターは、魔法への耐性が非常に強いです。おそらく魔法伝導率の良さを逆手に取っているのでしょう。したがって、ヒヒイロカネ系モンスターと対峙する場合は、物理防御・魔法防御が非常に高いモンスターと戦うということを認識する必要があります。それが彼らがそろって高ランクモンスターである所以です。」
「では、総力戦ですね。リュークと私で物理攻撃で翻弄。フロリーナは魔法で支援。一番火力のあるライナスがとどめという感じでしょうか。」
「いいえ。恐縮ですが、殿下。ここは私に任せてもらえませんか?」
私の言葉に殿下や両副団長が疑惑の目を向ける。
「…。一応理由を聞いても。あまりライナスだけに負担をかけるのは心苦しいのですが…。」
「そうだよ。ライナス。別に君一人が戦う理由はないさ。いくら相手がAランクモンスターとはいえ、こちらだってそう簡単に負けはしないさ。」
「いいえ、そうではありません…。ええと…。」
「いいのですよ。ライナス。思っていることを正直に言って頂いても…。」
「恐縮です。まず単純に物理攻撃は無理です。殿下たちの武器では、奴に届いた瞬間に武器が壊れます。それにフロリーナ副団長の魔法では奴の魔法耐性を貫くことは厳しいかもしれません…。」
「…。私も同じことを思っていました。誠に情けない話ですが、私の攻撃魔法では、おそらく奴には通用しません。」
「情けないのは僕も同じだよ。騎士のくせに剣が壊れるから無理だなんて…。」
「いいえ。一番情けないのは私です。自身の妹のことなのに、こうやって頼ることしかできないなんて…。」
彼らは自身の無力さを情けなく、そして悔しく思っている。しかし、こちらも気を遣って、万が一のことがあれば、それこそ申し訳ないと思い、渋々言うしかなかった。
「すみません。本当はこんなことは言いたくなかったのですが…。」
「いいのですよ。ライナス。ここで私たちが意地を張って怪我をするところではありません。ましてや命を落とすなど言語道断です。」
「ありがとうございます。」
「それではライナスに一任します。いいですね、二人とも。」
両副団長ともに答えは是だった。リューク副団長が「帰ったら、ライナスに鍛えてもらおうかな。」と明るく言っていたのは、ある意味で救いだった。彼の楽観的な性格は、この少し重苦しくなった空気を変えるのには十分だったから。
―――――
「殿下、あれがヒヒイロカネタイガーです。」
私たちは洞窟の前の草むらに隠れ、奴を待った。そしてそれほど時を置かず、奴はその姿を現した。真っ赤に燃えるかのような姿で。
「すごい…。まるで炎を纏っているようですね。」
「はい。あれが全てヒヒイロカネです。」
「じゃあ、あれが討伐できれば、ヒヒイロカネも手に入れられるね。」
「ちょっと、リューク。こんな時に何を言っているの?そんなに簡単に事が進むわけないでしょ。」
「ははは。冗談だよ。」
二人は通常運転に戻ったようだ。先程の重苦しい雰囲気はもうすでにない。
「それでは行ってきます。」
「はい。くれぐれも無茶はしないように。何かあれば頼って下さい。」
「はい。殿下、ありがとうございます。」
私は奴の前に一人で出る。すると奴もこちらに気付き、グルルルルと威嚇してきた。
「グラビティ」
重力魔法。その名の通り、対象物に重力をかける魔法で、高等魔法に属する。前世で私を育ててくれた母であるエレン・ヘーゼルダインが得意だった魔法だ。
「グガッ…。ガッ…。」
奴はいきなりの重力の変化に付いていけない。自身からだを覆っているヒヒイロカネは軽い金属だが、モンスター自体の重量はそれなりにある。それが何倍にもなって自身を襲うのだ。しかも私の場合は賢者と言われた母の直伝。その重量は何十倍にもなる。そして、奴はその重力に耐え切れず、その場に倒れ込み絶命した。奴の身体は潰れていた。グロイな…。やり過ぎた…。
ちなみに対象物にのみ重力負荷をかけるため、直下の地面には何の作用もない。
「殿下、もう出てきて大丈夫です。」
「…なんというかすごいですね。さすがです、ライナス。Aランクモンスターを一瞬で…。」
「…確かにすごいね。本当に僕たちの出番はいらなかったね。」
「今のは重力魔法ですよね?あんなに威力がある重力魔法は初めて見ました…。」
「フロリーナ。そんなにすごいの?」
「はい。そもそも重力魔法は高等魔法で、その魔力消費量は重力の負荷に比例すると言われます。通常であれば2~3倍。熟練の魔術師でも5倍程度だと聞いています。それがライナス殿の場合、ヒヒイロカネがひび割れているのを見ると、おそらく何十倍という重力がかかっていると思われます。」
「そうなのですか…。ライナスは規格外ですね…。」
「ははは…。とりあえず巣を回収しましょう。」
「あの様子だと、巣もボロボロなのでは…?」
「大丈夫です。巣には直接負荷をかけていないので。」
「…わかりました。早速巣を回収しましょう。」
私たちは巣を回収した。雛のことが気にかかったが、運よく巣立ちした直後だったらしく、巣しか残っていなかった。
そして、ヒヒイロカネも併せて回収し、リューク副団長は戻ったら武器を新調すると喜んでいた。そんな彼をフロリーナ副団長は嗜めていたが、彼女の表情も心なしか笑顔だった気がした。
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