第24話:エルダーエルフの依頼①
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明朝。
私たちはカルガの案内で、野営地を出発した。カルガによれば、人間の足で1日かかるということだが、捜索隊であれば夕方には着くと算段した。まあこれはモンスターの襲来がなければという条件付きではあるが…。
しかしカルガは気になることも言っていた。
「主よ。カラスの報告では、シルバーバタフライはどうやら囚われの身になっているようだ。」
「囚われの身?」
「うむ。発見したカラスが言うには、小さな小屋の中にいるようだ。窓から確認したと言っていた。」
「そうか…。どちらにしても行ってみないとわからないな。」
いまのところ、順調に歩みを進めている。クルトやドーアンを哨戒として出していることも大きい。近くにモンスターの群れがいれば、それを避けて進むことができる。道のりとしては遠回りになることもあるが、戦闘で時間と体力を消耗することよりは断然いい。ただ、召喚獣の3匹同時召喚を継続している点については、フロリーナ副団長が「ライナス殿の魔力量が信じられません。」と驚いていたが。
正午過ぎ。昼食のため小休止を取ることになった。捜索隊のメンバーが手慣れた手つきで準備を進めていく。私もインベントリからスープ鍋を取り出し、みんなに振る舞う準備をしようとしたが、ターニャさんが「私がやっておきます。」と代わってくれた。時折、こうやってスープを振る舞うとメンバーが喜んでくれる。もう少し持ってくればよかったかなと若干後悔していた。
「ライナス、ちょっといいですか?」
そんなことを思っていると、殿下に声を掛けられた。手にはスープが入った皿を持っていた。
「どうぞ、ライナス。あなたの分です。」
「そんな、わざわざすみません。」
「いいえ。もともとこれはあなたが用意してくれたもの。これぐらいはさせて下さい。」
「恐縮です…。」
「ところで、今朝言っていたシルバーバタフライの件ですが、ライナスはどう考えますか?」
「囚われの身になっているという点ですか?」
「はい。私は実物を見たことはないのですが、それは異常なことなのですか?」
「それは何とも…。シルバーバタフライはモンスターではなく、ただの昆虫の一種です。ですので普通の蝶と変わりありませんが、あれは希少種だったと記憶しています。そういう意味では希少価値はそれなりに高いと思いますので、採取して収集家に売却するということは考えられます。ただ、それよりも…。」
「それよりも?」
「はい。それよりもあんなところに小屋が存在する方が不思議です。カルガが言うには、あたりには集落らしきものは確認できなかったとのことです。大森林地帯は資源は豊富かもしれませんが、モンスターや猛獣の巣窟という見方もできます。そんなところにぽつりと小屋があるとは思いませんでした。」
「なるほど。その小屋には誰かが住んでいるのでしょうか?」
「そうですね。家がある以上、誰かが住んでいるかもしれませんね。カルガからの報告にその情報は含まれていませんでしたが…。もし住んでいるとしたら、それなりの戦闘能力を有していると考えられます。」
「戦闘にならなければいいのですが…。」
「そうですね。そうならないように努力しましょう。とにかくシルバーバタフライがいれば、白クサノオウに大きく近付くことができます。まずはそれに集中しましょう。」
「そうですね。」
私たちは昼食を簡単に済ませ、再度歩みを進め始めた。
―――――
夕刻。
私たち捜索隊は、ある場所に到着した。カルガが言っていた小屋だ。てっきりぽつんと寂しく小屋が建っていると思っていたが、それは大きな木の上に聳えていた。地面からは何かの植物の蔓でできた階段らしきものが生えている。そして、その蔓は小屋にも及んでおり、長い長い時間が経っているかのような様相を呈していた。
場所を確認した私たちは、早速小屋を訪問することにした。メンバーは殿下と両副団長、そして私だ。蔓によってできた階段は見た目に反して、頑丈にできているようで、大人4人が上っても崩れる気配はなかった。途中の踊り場を通り過ぎ、小屋の入口に到着した。入口前はそれなりに広い。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか?」
殿下の問いかけに反応はなかった。
「留守でしょうか…。どなたもいらっしゃらないようですが…。」
「そもそも人は住んでいるのでしょうか?」
「確かにね。正直人が住むには古すぎるよね。何かの遺跡みたいだね。」
「遺跡とは失礼な小僧じゃ。」
「「「「!!!!」」」」
それは急に背後から聞こえた。そしてさっきまでは確実になかった気配がした。振り返ると、さっき上ってきた階段に踊り場に深緑色のフードを被った人物が立っていた。
殿下は何が起きたかすぐに理解できずにそのまま立ち竦んでいる。両副団長はすぐさま臨戦態勢を取った。斯くいう私も何が起きてもいいように剣の柄に手をかけた。
「何だい?勝手に人の家を訪問したくせに。これから戦いでも起こそうって肚かい?」
その人物は全くと言っていいほど、こちらに警戒感を持っていなかった。しかし、こちらは警戒感を解除するわけにはいかなかった。突然現れた得体の知れない人物に警戒するのは当然なのだが、何よりもその人物が醸し出す気配が「実力者」を示していたからだ。殿下も状況が飲み込めたのか、自身の剣をいまにも抜こうとしていた。
「まあ、そんなに警戒しなさんな。久しぶりの客人だ。」
そう言うと、目の前の人物は被っていたフードを外した。それは老婆だった。いや、ただの老婆ではない。あれは…。
「エルダーエルフ…。」
「おや?そこの坊主は私がわかるのかい?若いのに物知りなんだね。」
「ライナス。エルダーエルフとはあの…。」
「はい。長命なエルフの中でも群を抜くエルフの種族です。そしてそれに比例して非常に閉鎖的な種族です。もともとエルフは人間からすれば閉鎖的に見えますが、その中でもエルダーエルフは極端に閉鎖的と聞きます。正直人間の寿命では、まずお目にかかることはないでしょう。」
「こら、坊主。物知りなのはいいが、あまり閉鎖的と言うではない。私からすれば、お前たち人間たちが開放的過ぎるんじゃ。」
「すみません。」
「まあいい。それよりもそろそろその人間どもの殺気はどうにかならんか。こちらに戦闘の意志はない。」
その言葉に両副団長は私をちらっと見た。私が頷くとそれぞれ武器から手を放した。
「それより、お前たち。ぞろぞろと何しにきた?」
―――――
その後、私たちは小屋の中に案内された。小屋の中は整理整頓されており、様々な薬品の瓶みたいなものが棚に陳列されていた。小さなテーブルとソファも置かれていた。
「まあ、そこにお座り。いまお茶を出すから。」
「その…、お構いなく…。」
ソファには二人ぐらいまでしか座れないため、殿下が座った。殿下から隣に座るよう勧められたので、両副団長の断りを入れて座った。二人はソファの後ろで立っていた。老婆は紫色のお茶を出してくれたが、それが何なのかわからず、飲む気にはならなかった。
「さて…。それでお前たちは誰だい?私はセルマだ。そこの坊主の言う通り、巷ではエルダーウルフと呼ばれている種族だ。」
「私はアメリア・スナイデルという者です。こっちはライナス・ロックハートです。」
「スナイデル…。するとお前さんはスナイデル王国の関係者かい?」
「はい。殿下は現国王の第一王女です。」
「そんなお偉いさんがどうしてこんな森奥深くに?」
「実はここにシルバーバタフライがいると聞きまして…。」
「シルバーバタフライかい。確かに1頭飼っているよ。見るかい?」
そう言ってセルマさんは奥に引っ込んだが、そんなに時間もかからず戻ってきた。右手に少し大きな籠を持って。
「これがシルバーバタフライだ。」
「これが…。どうですか?ライナス。」
「はい。この銀色に輝く羽。まさしくシルバーバタフライです。」
「お前たち、これをどうする気だね。売ってほしいのなら諦めな。こいつは最近では滅多にお目にかかれない希少種だからね。」
「いいえ。それをお貸しして頂きたいのです。」
「これをかい?姫さん、こんなもので何をするつもりだね?」
「はい。シルバーバタフライを使って白クサノオウを採取したいのです。」
「白クサノオウとはまた懐かしい名前が出てきたね。なんだい。病気の人でもいるのかね?」
「はい…。」
殿下は自身の妹モニカ殿下が石化熱という病に罹ったことを話し、その治療のために白クサノオウが必要だということを説明した。
「霊薬『冷涼の風』ね。確かにそれには白クサノオウが必要だ。そういうことなら、この蝶を貸してもいいんだけどね…。」
「本当ですか!?ぜひお願いします。」
「まあ、話は最後まで聞くもんだよ。お姫さん。この蝶を貸す代わりに一つ仕事を頼みたいのさ。」
「仕事ですか…?」
「ああ、そうだ。『コワードスワローの巣』を入手して持ってきておくれ。そうしたら、その蝶を貸そうじゃないか。」
コワードスワローの巣。
白クサノオウ採取への道のりはまだ始まったばかりなのかもしれない。
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