第23話:シルバーバタフライを探しに
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「白クサノオウ」
霊薬「冷涼の風」の最後の材料。いま私たちはその群生地に向けて、大森林地帯をビル湖南部を目標に進んでいる。
「殿下、もう少しですね。エルフツユクサ、ムーンシャインの涙は手に入れました。あとは白クサノオウだけです。」
「そうね、フロリーナ。それさえ手に入れれば、モニカの病気を治すことができるかもしれない。何としても手に入れなければ。」
殿下の並々ならぬ決意が声にこもる。そしてそれは捜索隊メンバー全員の決意と希望でもあった。
「殿下。まもなくビル湖に着きます。方角的にちょうどこちらが南部になりますので、そのまま捜索に入りましょう。」
「ええ。ライナスも案内ありがとう。」
「いいえ。これも臣下の務めですから。」
「ライナス君。これが終わったら、正式に殿下にお仕えしたらどうだい。君の戦闘能力なら騎士団でも魔術師団でもやっていけると思うよ。」
「そうね。リュークの言う通りだわ。ぜひお仕えしてみれば?その若さでは異例の抜擢だけど。」
「いえいえ。私はまだまだ未熟者。まだ冒険者として経験を積みたいと思っています。それに学業も中途半端ですので…。」
「学校は休学していると聞いたけど、そこに戻るつもりなのかい?」
「それはまだ決め兼ねています。父が私に気を使って休学扱いにしてくれたことは知っていますし…。ただ、せっかく入った学校なので、卒業はしてみたいなという気持ちもあります。」
「それならライナス。飛び級はどうですか?学校には優秀な生徒のために飛び級制度もあります。もし中等学院に戻り辛いのであれば、高等学院への飛び級試験を受けて入学しては?」
「お心遣いありがとうございます、殿下。せっかくなのでそれも踏まえて考えてみたいと思います。」
「ふふふ。ライナスが一緒なら退屈しないで済みそうです。」
大森林地帯という危険地帯に身を置きながらも、その会話はその場に似つかわしくない程明るいものだった。捜索当初の絶望にも似た雰囲気とは明らかに異なっていた。それは結果として捜索が順調に進んでいることを意味していた。ライナスは緊張感が全くないのも危険だが、こういうふうに余裕が生まれることも決して悪いことではないと思っていた。
―――――
しかし、その明るい表情はやがて焦燥感へとその姿を変えた。
「そんな…。まさか…。」
「これが白クサノオウで間違いないのかい?」
「はい…これが白クサノオウで間違いないかと思います。しかし…、これは…。」
「枯れている…?」
ビル湖に到着し、まわりを捜索したところ、大した時間はかからずに白クサノオウの群生地は発見できた。しかし、それは群生地であった場所だった。白クサノオウはすべて枯れていたのである。
「なんで、こんなに枯れているのですか?」
「前にも説明した通り、白クサノオウは時期や気候によって群生地を転々とする不思議な植物です。ベヤズ様がおっしゃっていたように、おそらくここに群生地はあったのでしょうが、すでに群生地を他に移したのでしょう。この植物はその群生地を変える時に全て枯れてしまうと聞いたことがあります。」
「そんな…。ライナス、ちなみに枯れたものは霊薬には使えないのですか?」
「そうですね…。全く使えないということはないでしょうが…。不完全なものになってしまい、石化熱の治療にどこまで効果があるか疑問が残るところです。」
「…。それではやはり枯れていないものが必要なのですね。」
「残念ですがそうなります。」
殿下が相当に落ち込んでいるのは、容易に想像ができた。両副団長を始め、捜索隊のメンバーも何て声を掛ければいいのかわからない。
「殿下。まだ希望はあります。」
「それは本当ですか!?群生地の場所がわかるのですか?」
「いいえ。いますぐ群生地を直接知る術はありませんが…。」
「シルバーバタフライですね?」
「そうです、副団長。シルバーバタフライはその群生地に生息し、昔はそれを辿って群生地を探したと聞きます。」
「だけど、そのシルバーバタフライはどうやって探すんだい?」
「それについては案があります。確実性はありませんが…。」
「それでもいいです。わずかでも希望があるのであれば…。」
「わかりました。」
私は殿下から少し離れてある魔法を詠唱する。
「我の求めに応じて、その姿を現せ。我が求むはシーフクロウ。」
その詠唱に応じて魔法陣が展開され、小さな灰色のカラスが出現する。
シーフクロウ。モンスターランクはCランクと決して高ランクとまでは言えないものの、生物を探索するのに適したモンスターだ。野生のシーフクロウは、その探索能力と鋭い野生の勘を用いて、自身の天敵から逃れるという。また奴らは普通のカラスをその下僕として使役することができる。
「私の召喚獣『カルガ』です。彼の探索能力はモンスターの中でも秀でています。多少時間はかかるかもしれませんが、無造作に探すよりも効果的なはずです。」
「そんなモンスターがいるとは初めて知りました。知っていましたか、フロリーナ?」
「いいえ。私も初めて見るモンスターです。いったいライナス殿は何種類のモンスターを召喚できるのですか?」
「えっと…、それは追々説明するということで。早速ですが探索に入りましょう。カルガ頼む。対象物はシルバーバタフライだ。大丈夫か?」
「シルバーバタフライか。また珍しいものを探索するな。了解した、主よ。カラスどもよ集まれ。仕事だ。」
カルガの呼びかけにどこからともなくカラスの大群が集まる。カルガがカラスたちに何かを言っているが、こちらは意味まではわからない。おそらく探索の指示を出しているのだろう。その証拠に、指示を聞いたカラスたちが一斉に飛び立った。
「主。あとはカラスたちの仕事だ。しばし待たれよ。」
「わかった。ありがとう、カルガ。殿下、そういうわけなので、ここで休息にしましょう。もしかするとここから離れている場所に向かうかもしれませんので…。」
「わかりました。ここで野営しましょう。リューク、フロリーナ、指示を。見張りは交代で。」
「承知しました。」
「了解。」
―――――
カラスたちが飛び立って約3時間程経過しただろうか。まだカラスたちから発見の連絡はない。正午はとっくに過ぎ、まもなく夕方を迎えようかという時刻である。交代で見張りは立てているが、モンスターに襲われるということはない。もしかしたら、一度狭まったベヤズ様の加護がビル湖一帯まで戻っている兆しなのかもしれない。
「ライナス…。まだカラスからは連絡はありませんか?」
「はい、まだありません。すみません、時間がかかってしまって…。」
「いいえ。こちらこそすみません。何だか落ち着かなくて…。」
「そうだぞ、姫よ。そう焦るでない。」
「こら、カルガ。失礼だぞ。すみません。こいつは探索能力は高いのですが…。」
「なんだ、主。我は間違ったことは言っておらぬぞ。果報は寝て待てと言うではないか。」
「こら、またそんなことを…。」
「ふふふ。いいえ。カルガの言う通りです。焦っても仕方ありませんね。」
「殿下、大丈夫です。必ず白クサノオウは見つかりますから。」
「ライナスが言うと、本当にそうなりそうで勇気付けられます。」
「そ、そうでしょうか…。」
殿下は先程の焦燥感から若干解放されたのか、少し余裕があるように見て取れた。
「む?主よ。カラスより反応があった。どうやらここから少し離れた場所でシルバーバタフライを見つけたらしい。」
「わかった。ここからどのぐらい離れている?」
「そうだな。人間の足で1日と言ったところか…。」
「1日か…。今から行くと夜半になってしまうな。殿下、今日はこのままここで野営して明朝早くに向かうのはどうでしょうか?」
「わかりました。夜の森を進むのは危険です。そうしましょう。」
私たちは明朝出発することになった。シルバーバタフライがいるという場所へ。
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