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第2話:前世の記憶

今回は続けて投稿します。

 ライナス・ロックハートは、いわゆる「落ちこぼれ」であった。

 

 彼はロックハート家の三男として、この「バルシュラ」に生を受けた。


 ロックハート家は、バルシュラ7大国の一つである「スナイデル王国」の伯爵家である。スナイデル王国は、バルシュラ最大の大陸「ベルラール大陸」の中央に位置し、古くから地の利を活かした交易が盛んであり、様々なヒト・モノが集まる国家である。次代を見据え、教育にも力を入れており、様々な教育機関・研究機関がある。


 その一方で、軍事にも重きを置いてきた国家でもある。しかし、今から約100年前に勃発したベルラール戦争により、多くの財産・人材が失われたことを反省し、現在は7大国を中心に不可侵条約を締結されており、平和な時代が続いている。但し、これまでの経緯もあり、軍事・武力に重きを置き、強兵に力を入れている。ちなみに、これはその他の国家も同じである。


 ロックハート家は、いわゆる文官であり、代々スナイデル王国の「財務」を司っており、現当主のハリス・ロックハートは、財務大臣を務めている。

 妻のシンシアは、代々武官の家系であり、現在の軍務大臣リオン・マクノートンの娘である。

 長男カールトンは25歳。ロックハート家の跡取りとして、現在は父親の政務を補佐しながら、領地経営を学んでいる。

 次男のセドリックは20歳。スナイデル王国の王都「アルトゥナ」にある教育機関、アルトゥナ会計学校を優秀な成績で卒業し、そのまま父親と兄が働く財務部に就職し、すでにその頭角を現している。

 また、三男のライナスには妹がいる。それが長女のアイリーンである。年齢は12歳。彼女は来年より、アルトゥナ中等学院に入学する予定である。


 スナイデル王国には、王都を始め地方都市にも教育機関がある。地方都市には主に初等教育から中等教育があり、それ以降は、王都やその他大都市にある高等教育機関で学ぶことができる。

 しかし、これには「特待生」「奨学生」等の一部を除き、多くの費用が必要になるため、学生の多くは貴族や商家の子女が多い。ただ、アルトゥナ会計院のように専門性に特化した教育機関も別にあり、この費用は高等教育機関と比較して安いという特徴がある。そういう意味では、国民にはある程度の教育を受ける門戸が開かれていると言える。


 さて、落ちこぼれと言われたライナスだが、彼は13歳になったばかりだった。溯ること約9か月前、アルトゥナ中等学院に入学した。中等学院では座学を通して一般教養を学ぶとともに、実技を通して基本的な武術や魔法を学ぶ。

 

 しかし、ライナスは座学・実技ともに成績が良いわけではなかった。二人の兄が優秀だったこともあり、彼は幼少時より努力を重ねてきた。しかし、才能というのだろうか、なかなか結果に結びつかなかった。

 

 両親は、そんな彼を突き放すことなく、暖かく励まし見守ってきた。しかし、彼にはその事実がどうしても受け入れることができなかった。最初の頃は、挫けることなく前向きに取り組んでいたが、入学して6ヶ月程経った頃に病に侵されてしまった。病自体は大したことはなく、すぐに快方に向かったが、病気により学校の定期試験を受験することができなかった。当然、そのような生徒には、別日程での試験があるが、彼の中にあった何かが切れてしまった。怒るとかそういうことではなく、すべてのことに無気力・無関心になってしまった。

 

 元来、他人とのコミュニケーションが得意ではなく、学校では一人でいることが多かったが、この日以降、彼は学校で話さなくなった。周りのクラスメイトが心配して話し掛けても、明らかな拒絶反応を示していた。

 

 そして、学校を欠席するようになり、自分の部屋に閉じこもることが多くなった。家族も心配し、医者にも診せたが、彼の状態は変わらなかった。

 そんな彼の状況を見かねて、父ハリスは、彼を療養させることにした。中等学院を「休学」として、伯爵家の別荘がある地方都市「レイカール」に移すことにした。事実上は「退学」となるが、本人と世間体を考慮して「休学」扱いとしたのだ。母シンシアは反対したが、最後は渋々納得したのだった。

 

 こうして、入学してから8か月後、ライナス12歳の秋に、彼はレイカールに引っ越したのだった。


 レイカールに移動してからも、ライナスの生活は変わらなかった。最低限の食事は摂っていったが、屋敷の使用人達との会話もほとんどなかった。

 しかし、引っ越して1ヵ月程経ち、13歳になった頃に転機が訪れた。彼は大病を患ったのだ。それも原因不明の病だった。高熱が続き、食事をほとんど摂ることができず、半月も苦しみながら寝込んでいた。様々な医者にも診せたが、原因がわからず、治療の効果も見られなかった。

 そして、寝込んでから20日目。彼は苦しみながらも不思議な夢を見た。見たことのない男性が亡くなり、そばで女性が泣いている夢。見たことのない年配の男性から「お前の願いは?」と聞かれる夢。それに対して「人々の幸せ」と答えている自分の夢。年配の夫婦から、多くのことを学んでいる夢。それらは、まるで誰かの人生を走馬燈のように振り返っているようだった。最後は「もう一度この世界に生まれたい」と願った夢だった。


 その夢を見た瞬間、彼は目覚めた。そして思い出した。自分がアルバート・ヘーゼルダインという人の生まれ変わりであることを。彼が学んだこと、経験したこと、培ってきたこと、そして生き方をありのまま思い出したのだった。


―――――


 オレは、いや「私」は明け方に目覚めた。陽が昇る頃で、まだ外は薄暗かったが、気分はとてもスッキリしていた。

 一方で不思議な感じも抱いていた。あの夢が自分の前世であることを自然と理解した。自分とは別の人間が存在しているような感じがした。しかし、私はライナス・ロックハートであり、アルバート・ヘーゼルダインであった。このことを自然と理解していて、違和感を感じることはなかった。苦しみながら寝込んでいたこともあるのだろう。身に付けていた寝間着は、汗に濡れて、ベッドに薄茶色のシミを残していた。


 頭の中はスッキリしている。ライナスではなく、アルバートがその人生で得た多くの知識・経験を昨日のことのように思い出していた。


 ベッドから起き上がり、部屋にある鏡で自分の姿を見た。顔はライナスそのものだが、身体つきは少し違って見える。身長はあまり変わらないようだが、全体的に筋肉質になっているようだ。閉じこもり生活が続き、食事もあまり取らなかったことが原因で、その身体は痩せていたが、いま見えるのは長年鍛えたかのような肉体だ。しかも筋肉隆々というわけではなく、程良く付いている感じだ。


 そして、身体の中から大きな「力」を感じる。アルバートの記憶が、その正体を教えてくれる。これは「魔力」と「闘気」だ。どれも戦闘時には必要なものであり、これまでは、いくら鍛えても中々感じることができなかったものだ。おそらく記憶・経験だけではなく、能力・技術も「思い出した」のであろう。今ならどんな魔物でも倒すことができると思ってしまうほどだ。


 ベッドに座り直し、窓から朝焼けを眺めながら、ゆっくりと考える。アルバートの人生を振り返り、ライナスのこれまでを振り返った。この落ちこぼれを暖かく見守ってくれる家族を思い出す。こんな私の世話をしてくれる使用人を思い出す。前世がアルバートだったとしても、今はライナスであることを改めて思い直す。


 長い時間ベッドに座っていた。東の空から朝日の光が差し込んでいた。


 前世の最期で願ったことを思い出し、それを今世で果たすことを決意した。ライナス・ロックハートの人生はこれから始まるのだ。


読んで下さり、ありがとうございます。

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