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第19話:ミッドナイトトレント討伐戦①

「まずはミッドナイトトレントを探し出すことです。姿はナイトトレントの同じような感じですが、進化した奴の体は白く発光します。月明りしか光源がない森の中では目立つでしょう。その後はまわりのナイトトレントを順々に討伐し、最終的に奴を討伐するしかありません。」

「わかりました。シンプルな作戦ですが、こちらは苦戦を強いられますね。ゴブリンの時みたいに奇襲もできそうにありませんし…。」

「はい、殿下。特に問題がなければ私が初撃を担ってもいいでしょうか?」

「もちろんです。むしろ今回も任せていいでしょうか?」

「はい。それと戦闘陣形は5人1組で騎士と魔術師を混合するかたちの方がいいと思います。」

「なるほど…。私たち魔術師が氷魔法と風魔法で支援して…。」

「僕たち騎士がとどめだね。」


 今回の作戦はシンプルだ。相手の数にもよるが、最終的にはミッドナイトトレントを討伐し、その花の蜜を採取しなければならない。ミッドナイトトレントを探し出すためには、奴らの集団に最低限近付く必要があるが、そうすると奴らに気付かれてしまうだろう。奴らに気付かれたら、すぐさま戦闘開始となる。


「それでは向かいましょう…。」


 私たちは、奴らの生息地となっている場所までゆっくりと向かった。満月はもうすでに南中に近かった。


―――――


「やはり、この先は生息地のようですね。すでに気配を感じます。」

 昼間進んだ場所まで近付くと、今度ははっきりと気配を感じた。やはりナイトトレントで間違いないようだ。その名の通り、夜になると活発的になり、擬態もしない。特に今晩は満月。すでに進化が始まっているかもしれない。


 私たちはすでに戦闘形態に入っている。クルトは殿下の守りに配置した。彼もAランクモンスター。奴らに劣ることはない。


「もう少し奥に進むと、奴らを視認できるでしょう。そしてこちらに気付くはずです。その時に私が魔法を使いますので、それが戦闘開始の合図だと思って下さい。」

「わかりました。ライナス、くれぐれも無茶はしないで下さい。」

「ありがとうございます。殿下も御武運を。」


 私の役目は遊撃隊員だ。フェンリルの加護のおかげで回復魔法が強化されていることもあって、隊員の状況を見ながら、戦闘役と回復役を臨機応変にこなしていくことになった。


 こちらの士気は高い。殿下も緊張しているようだが、両副団長が一緒にいるため大丈夫であろう。その両副団長も気合が入っている。リューク副団長は、「やっと見せ場がきましたね。」と少し喜んでいた。


―――――


 目の前にはナイトトレントの群れがいる。すでに擬態はなく、森の中を我が物顔で闊歩している。

 私は捜索隊の少し前をゆっくり進み、奴らに近付いていく。満月の光に酔ってでもいるのか、奴らがこちらに気が付いている様子はない。その数はおそらく50体以上だろう。ゴブリン戦の時の半分の数だが、奴らは全員Bランクモンスター以上の実力がある。ゴブリンのそれとは比較にならない。まだ、ミッドナイトトレントは発見できないが、この群れの中を探すしかないだろう。


「アイスミスト」

 アイスミストは氷魔法と風魔法の複合魔法。攻撃力はそこまでないが、奴らの体温を下げ、その動きを鈍くする効果はあるだろう。それと自慢ではないが、複合魔法は珍しい魔法で、使い手は限られる。少なくとも前世ではそうだった。


 魔法の効果により、奴らの動きが鈍くなっている。森の中を闊歩していたのが、とてもゆっくりとした動きに変わった。一部は立ち止まり、身体の表面が凍結している。

 そして、こちらの居場所はすでに気付かれている。


 魔法の効果を確認した捜索隊は、グループに分かれ、群れの中に突撃した。まずは群れの最前面にいる奴らから掃討し、こちらの活動範囲を広げなければならない。私は遊撃員だが、ここは前面突破して捜索隊の進路を開くことが先決だと考えた。

 

 すでに戦闘は各所で始まっている。


―――――


「ウインドカッター!」

「はっ!」

 フロリーナとリュークの連携は見事だった。彼女の風魔法でナイトトレントの枝を切断し、その隙に彼が奴の幹を一刀する。Bランクモンスター相手でも引けを取らない。

 ライナスが護衛に付けてくれたクルトも魔法で援護している。私の側を離れすぎることなく、向かってくる枝をその爪と牙で切り落としている。さすがはAランクモンスター。遠距離攻撃も近距離攻撃も得意のよう。敵には回したくないと思う。


 私もしっかりしないと。


「殿下、大丈夫ですか。あまり無茶はしないで下さい。」

「ありがとう、フロリーナ。しかし、ここが正念場です。私も前線で戦います。」

「その意気だよ、殿下。」


 ライナスは先に行ってしまったのだろうか…。

「殿下。主はすでに奥まで進んでいます。」

 表情に出てしまっていたのか、クルトが優しく答えてくれる。

「殿下、心配なさらないで下さい。主は私の主。こいつらに負けるはずがありません。」

 クルトは、ライナスの召喚獣だが、私たちにも丁寧な口調で接してくれる。召喚獣はその主以外に対しては、横柄な態度を取ることがあると聞いたことがあるが、結局のところそれは召喚獣次第なのだろう。


 そんなことを考えている時でも奴らはこちらに向かってくる。ライナスの魔法でその動きは鈍くなっているようだが、それでもスピードは速い。特に枝による攻撃のスピードは油断できないものだった。


 いま目の前には3体のナイトトレントがいる。向こうもこちらが手練だと気付いたのか、攻撃を集中させるようだ。

「殿下、背後からも2体来ます。」

 クルトの声に振り向くと、確かに2体のナイトトレントがこちらに向かってきている。完全ではないが、囲まれている状態になる。

「これは面倒だね…。とりあえず1体ずつ相手にするしかないか…。」

「クルトさん!殿下をお願いします。殿下!火魔法を使って何とか粘って下さい!こちらが片付き次第、援護します!」

「大丈夫よ、フロリーナ。そっちはそっちで集中して!行きましょう、クルト。」

「はい、殿下。」


 Bランクモンスターに様子見は必要ない。早速だけど火魔法を使うしかない。


「ファイヤーランス」

 槍の形をした3本の炎がナイトトレントに向かっていく。しかし、それらは奴の枝によって阻まれてしまう。

「くっ…。やはり私の詠唱破棄では、全然歯が立たない。それなら…。」

「殿下!」

 今度は詠唱付きのファイヤーランスをと考えた時、もう1体のナイトトレントが枝で攻撃してくる。しかしそれはクルトの枝で防がれた。


 魔法を発動する場合、通常は詠唱を行い、呪文名を唱える。詠唱を行うことによって、呪文が安定し威力も上昇する。事実、殿下が通っている学院で行われている魔法の授業においても詠唱が推奨されている。

 但し、必ずしも詠唱が必要というわけではない。魔法によっては詠唱に時間を要するし、高位魔法になれば、それは顕著だった。実戦においては、敵も詠唱を待ってくれないため、詠唱破棄による魔法発動は必然と求められる能力だ。

 高ランク冒険者や宮廷魔術師のような熟達した魔法使いの中には、詠唱破棄でも変わらず威力が高い魔法を放つことができる。

 それを知っている殿下は、これまで詠唱破棄且つ威力が高い魔法を放っているライナスに驚きを隠せないでいた。


「殿下、大丈夫ですか。努々油断なさらぬよう。」

「ええ…。」


 しっかりしなければ。この戦いに付いていくしかない。大切な妹を救うために。

 私は一度深呼吸した。それで少し楽になった気がした。

 奴らはクルトを警戒しているのか、積極的に攻撃してはこない。


「クルト。これから詠唱を始めます。時間を稼げますか?」

「はい、お任せを。」

 その表情は読み取れるものではないが、クルトは少し笑ったかのように見えた。


「その炎によって、敵を貫け。我が求むは燃え貫く火炎の槍。ファイヤーランス!」

 詠唱により威力が高くなった炎の槍がナイトトレントに放たれる。しかしそれら3本の槍は、奴の幹に刺さったものの、奴を倒すまでには至らなかった。それでも、奴の動きを止めることができた。クルトがその隙を突き倒すことができた。


 やはり実戦は模擬戦や演習とは違う。学院では模擬戦も討伐演習も行った。それらの成績もトップだった。それなりに自信があった。しかし、相手が高ランクモンスターだと、ここまで違うものなのか。攻撃能力も防御能力もまだまだ不足していることを痛感した。


―――――


 殿下のレベルは、まだBランクモンスターを倒すまでには至っていない。また実戦経験の乏しさも彼女の欠点であった。しかし、彼女のパーティー自体は弱くない。副団長とAランクモンスターがいる時点で、このぐらいの囲いは難なくクリアできる。


 しかし、彼女たちはまだ知らなかった。


 奴らの囲い込みはまだ始まったばかりであることを。

 殿下のパーティーの強さを警戒したナイトトレントたちは、その攻撃の矛先を彼女たちに向け始めようとしていた。


 ミッドナイトトレントはまだ見つからない。

読んで下さり、ありがとうございます。

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