第18話:加護
今週の内に何とか更新できて良かったです。
出産は無事に終わった。
生まれたばかりのフェンリルの赤ちゃんは、元気に泣きながら母親に包まれるように抱かれている。母親曰く、魔力量も問題なく、潜在的にはすでに母親を超えているかもしれないとのことだった。
私は殿下たちと一緒に、フェンリル親子の前に座り、その微笑ましい光景を眺めていた。
「ライナスと言ったか…。今回は本当にありがとう。半ば諦めかけていたが、こうやって子孫を残すことができた。改めて礼を言う。」
「いいえ、フェンリル様。お役に立てて良かったです。」
「うむ。ついでにもう一つ頼まれてくれないか。この子の名付け親になってほしい。」
「私がですか?そんな重大な役目は負えません。」
「いや、ライナスがいなければ、この子は無事ではなかっただろう。この子の命の恩人に名付けてもらうのだ。この子も喜ぶであろう。」
「そうですか…。聖獣に名前を付けるなんて初めての経験で…。それでは…、『ハフィフ』ではいかがでしょう。昔の言葉で『光』という意味があると聞いたことがあります。」
「『ハフィフ』か…。いい名前だ。どうだ、ハフィフよ。」
子フェンリルは、その名前が気に入ったかのように、「きゅぅ」と声を出したのだった。
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「さて、ライナスは見事にこちらの役に立ってくれた。私はそれに報いなければならない。約束通り、フェンリル草を調合しよう。丘の下にツユクサが自生しているから、取ってきてくれないか。」
その後、リューク副団長とフロリーナ副団長が、丘の下までツユクサを取りに行ってくれた。「私が行きます」と申し出たが、「これくらいはやらせてくれ」と断られた。
いま私たちの前には、数本のツユクサは置かれている。
「それでは始めよう。『月と光の精霊たちよ。我の言霊に応じ、この生命に新たな可能性を与えたまえ。我が名前はベヤズなり。』」
母親フェンリル、改めベヤズが呪文を唱えると、ツユクサは薄い光に包まれ、その色を変える。藍色の花がきれいな白色に変わったのだ。
「これで調合は完了だ。持っていくがいい。」
「ベヤズ様。本当にありがとうございます。これで妹の治療に一歩近付きました。」
「礼には及ばぬ。妹御が助かること、このハフィフと共に祈る。ちなみに他の材料は集まっているのか?」
殿下がその問いに「いえ、まだ…。」と苦笑する。
「そうか…。確かビル湖からそう遠くない場所で白クサノオウの群生地があったと記憶している。ビル湖の南部だったかと思う。ただ群生地の場所は変わるから、まだそこにあるかはわからん。それとムーンシャインの涙だが、その材料となるモンスターの生息地に行くためにはそこから更に南に進む必要がある。」
「それは本当ですか?ベヤズ様、有益な情報ありがとうございます!」
殿下はその喜びを表すように、フェンリル草のきれいな花のように微笑んだ。
フェンリル草は無事に手に入ったが、まだ材料は2つ残っている。それにムーンシャインの涙を採取するための必須条件、満月の夜を迎えるのにも、残された時間は多いとは言えない。旅路を急ぐべきだろう。
私たちはフェンリル親子とすぐさま別れることにした。するとベヤズ様から思いがけない言葉をかけられた。
「ちょっと待て、ライナス。我が子のことを含めて、お前とは不思議な縁があるようだ。これも何かの縁。お前に加護を与える。我が加護は『回復魔法の効果増加』と『心身異常耐性増加』という効力が得られる。どうだ、受けてくれるか?」
まさか、加護を与えてくれるとは思ってもみなかった。どうしようか…、前世でも聖獣とは鍛練はしたが、結局加護は受けられなかった。すでに父と母が受けていたからだ。加護を授けるには一定の制限があるかもしれない。ベヤズ様もそれを踏まえてなのか、「悪いが、今回は一人にしか加護を授けられぬ。」と言っていた。
私一人だけと言っても…。
「今回の最大の功労者はライナスです。どうか私たちに遠慮することなくお受け下さい。それにその加護の力は、今後の捜索にもきっと役に立つはずです。」
殿下はすっきりとした口調で断言してくれた。他のメンバーも頷いている。
「わかりました。ベヤズ様、どうかお願いします。」
その言葉を聞いたベヤズ様は、私のおでこに近づき息を吹きかけた。その吐息はほんのり光を放っていた。
「これで加護は授けた。これからの旅路の無事を祈る。」
「「「「ありがとうございます。」」」」
―――――
私たちはフェンリル親子と別れ、ビル・ペリ村に戻り、残りの捜索隊と合流した。無事にフェンリル草を手に入れたと知ると、捜索隊の全員がとても喜んでいた。その士気は更に上がることになった。
翌日、私たちはベヤズ様がくれた手掛かりをもとに、ビル湖の南方を目指して出発した。昨晩の打合せの結果、まずはムーンシャインの涙を採取することにした。満月の夜まで時間があまり残されていないからだ。
「大森林」地帯を更に深く進むことになるため、哨戒はより一層綿密に行う必要があった。しかし、クルトとドーアンを使った効率的な哨戒が功を奏し、特に大きなトラブルもなく進むことができている。途中でモンスターに遭遇することもあったが、士気の高い捜索隊メンバーによって、着実に討伐されていった。さすがに騎士団と魔術師団から選抜されたメンバーだ。遭遇したCランクモンスターの討伐もその戦闘能力と連携で着実にこなしている。
そして、満月の夜を今晩に控えた今日、私たちはある場所に到着していた。
「なんかいやな空気だね…。ここから先も森が続くけど、何となく匂うよね…。ねえ、リーナ?」
「ええ…。あくまで勘ですが、これ以上は近付きたくないですね…。それと、私のことはフロリーナと呼びなさい。」
「…はあ。私も二人に同感ね。ライナスはどう思う?」
「…はい。そうですね。おそらくここから先は奴らのテリトリーだと思います。奴らは集団で生息します。植物系モンスターということもあって、自然そのものに擬態します。こちらが油断しているところを襲ってくる厄介なモンスターです。」
「さすがにライナスは詳しいですね。どうしますか?」
「そうですね…。ここに長居するのもあまり良くないと思いますので、少し戻って休憩しましょう。本当は奴らを確認したいところですが…、向こうに警戒されても面倒くさいですからね。夜まで休憩して待ちましょう。」
「わかりました…。」
捜索隊は少し戻り、そこで休憩となった。今回も火は熾していない。
トレントを始めとした植物系モンスターは火に弱い種類が多いため、火には積極的に近付いてこない。通常であれば、火を熾して身の安全を図るのだが、今回は奴らの討伐が目的。奴らの警戒を強め、最悪逃げられるのは避けたい。
そして、今だけではなく、これから起きる奴らとの戦闘では、弱点となるその「火」を使うことは避けなければならない。火を使えば、採取する花まで燃えてしまうからだ。しかし相手は凶暴化したAランクモンスター。捜索隊にとって、厳しい戦いを強いられることになりそうだ。
「ライナス。ナイトトレントと戦う時に注意することはありますか?」
殿下はメンバーに聞かせるように、戦闘時の注意を話すように促した。
今回が捜索隊にとって本格的な戦闘になる。討伐対象はAランクモンスター。おそらくクルトの「王の威圧」もそこまで効果を期待できないだろう。しかも向こうは集団で襲ってくる。こちらも相応の覚悟をしなければならない。
「そうですね。まず今回の戦いは、奴らの弱点で火魔法が使えない時点で、こちらが劣勢であることを認識しなければなりません。今回は氷魔法か風魔法などで対処する必要がありません。
個人的には氷魔法で枝を凍らす方が良いと考えます。奴らはその枝を伸ばして攻撃してきます。これは鞭のようなものでもあると同時に鋭い刃物でもあります。枝を切り落としても、すぐに再生するため、氷魔法で枝を凍らせ、奴らの幹に近付き、根本に近い部分を攻撃するというのが良いと思います。
また、奴らは毒攻撃もしてきます。毒を受けた場合は、すぐに解毒が必要になるため注意が必要です。毒霧が出た場合は、すぐに後退し、風魔法で霧散させるべきでしょう。」
「なるほど。やはり火魔法が使えないのは痛いですね…。氷魔法で凍らすにしてもすべては厳しそうですし…。」
「ええ。ただ、火魔法については使えるタイミングがあるかもしれません。ナイトトレントは満月の夜に凶暴化し、ミッドナイトトレントに進化することはお話ししたと思いますが、おそらく全てのナイトトレントが進化することはないと思います。もし進化するものが少数あれば、それ以外の進化しなかったナイトトレントは燃やしても問題ありません。まあ、森自体を燃やすわけにもいかないので、ある程度の制限があるかと思いますが…。」
「そうですね。やはりその時を待つしかないようですね…。」
すでに陽は落ち、満月が見えている。あの満月は南中に至った時、私たちの最大の戦いが幕を上げる。
読んで下さり、ありがとうございます。




