第15話:集落到着とエルフツユクサの正体
PVが1000を超えておりました。
ありがとうございます。
「大森林」地帯に入って2日目。その日は結局そのまま野営となり、3日目の朝を迎えた。雨は降っていないが、日が差さない曇天模様であった。
結論で言えば、エルフ族を救出することに決まった。私が述べた救出による利点を重視した結果だ。提案した救出作戦に殿下が賛成したことも大きかった。
捜索隊は野営地を出発し、遠回りをしながらゴブリンの集落を目指した。回り道をしているのは、最短距離で進むことによってゴブリンたちにこちらを察知される可能性を少なくするためだ。集落に近付くほど、やつらに遭遇する可能性は高く、全てを回避することは難しいが、できるだけこちらの動きを悟らせないようにしたかった。道案内はクルトとドーアンが行っている。
作戦の決行開始は、まだ空が薄暗い夜明けとされた。
―――――
ドーアンが見つけた集落を確認し、少し離れたところで野営となった。こちらが見つかる可能性があるため、火は使えなかった。見張り等、最低限の要員を残して、全員が少し仮眠を取った。
まだ空が薄暗い頃、私とクルトは集落に向かって歩き出した。今日は昨日と違って、すっきりと晴れるようだ。
捜索隊を攻撃隊と救出隊に分けて行動することになった。ほとんどが攻撃隊だが、リューク副団長と女性の宮廷魔術師を含む数人が救出隊として活動する。
作戦はシンプルで、攻撃隊が陽動となり、ゴブリンたちの注意がこちらに向けられている間に、救出隊が捕えられたエルフ族を解放する流れだ。
この作戦の初手となり、攻撃隊の初手となる一手は、私とクルトが担うことになった。リューク副団長からは「お手並み拝見だね。」と笑顔で言われた。この場面で緊張感を感じさせないのは、さすがと言ったところだろうか。
「ライトボール」
作戦の初手が放った魔法「ライトボール」。この魔法は単なる光を灯す魔法だ。洞窟やダンジョンで役に立ち、生活魔法としても知られている。しかし、ライトボールを故意に弾けさせると、まわりにその灯りが強く放たれ、一種の閃光弾のようになる。つまり、敵の注意を惹き付けるのには十分ということだ。
強い光に気付いたゴブリンたちは、その光の玉を目で追っていたため、いきなりの破裂に一時的に視力が利かなくなった。
「ウオオオオォーン」
クルトが雄叫びを上げる。これは単なる雄叫びではない。シルバーウルフが持つスキル「王の威圧」だ。これを聞いたモンスターは、その能力を低下させるという効果を持つ。レベルが離れた下位モンスターが聞けば、その能力は半減されてしまう。
「スリープ」
とどめがこの魔法。その名の通り、相手の眠気を誘う魔法。弱いモンスターであれば、その場で眠り込んでしまう。レベルが高いモンスターには抵抗されることがあるが、さっきの雄叫びにより効果は絶大だった。
初手の攻撃により、ゴブリンやホブゴブリン、ゴブリンウォリアー、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジに至るまで、ほとんどのゴブリンたちが眠り込むか、それに近い状態となった。とても戦える状態ではないだろう。さすがに、一番遠いところにいたゴブリンキングやゴブリンジェネラルは抵抗できたようだが、それでも能力の低下は否めないようだ。
奴らの状態を確認した私は、その間に斬り込み、次々と倒していく。それに攻撃隊が続くかたちとなった。救出隊の方も動きだしているだろう。
低位のゴブリンたちを攻撃隊に任せ、奥にいるゴブリンキング、ゴブリンジェネラルに向かう。
ゴブリンジェネラル3体が攻撃を仕掛けてきたが、その動きは遅い。しかも目をやられているため、攻撃の焦点が合わない様子だ。
「ご主人様。こいつらは私にお任せを。キングに向かって下さい。」
「うん。わかった。頼むよ。」
奴らをクルトに任せ、ゴブリンキングのところに向かった。
ゴブリンキング。
ゴブリン種の最終進化形であると言われるBランクモンスターだ。普通のゴブリンは1メートル程度の身長だが、この種になると3~4メートルまで成長する。
いま目の前には、その4メートル級のゴブリンキングが片手に棍棒のような武器を構えて、こちらを伺っていた。ライトボールにより塞がれた視力はもう戻るころだろう。王の威圧による能力低下は影響しているだろうが、油断は禁物だ。
「グアアアアー!」
その叫び声が合図となり、その大きな棍棒をこれでもかと振り回す。当たると大ダメージ、最悪は死に直結するほどの攻撃だ。さすが最終進化形。威力が落ちても、地面に穴を開け、岩を砕く攻撃力を持っていた。
しかし、当たらなければ意味は為さなかった。力は強いだろうが、その動きは緩慢だった。
振り下された腕を足場にして、奴の頭上に飛び上がり、その薄黒い、くすんだ首を剣で一閃した。首のないその身体は、ゆっくりと後ろに倒れ、それはただの肉の塊となった。
―――――
「殿下、捕まっていたエルフ族は全員女性で7名おりました。軽傷を負っているものの命に別状はありません。また本人たちに確認しましたが、ゴブリンから暴行は受けていないとのことです。」
フロリーナ副団長と数名の女性魔術師が、捕らわれていたエルフ族に事情を確認した。
今から2日前、森で食料を調達するため、木の実を採取していたところ、ゴブリンの集団に出くわした。襲ってくるゴブリンの集団に弓や魔法で抵抗したが、多勢に無勢という感じで、結局はゴブリンナイト3体を始めとした集団には抗えず捕えられたとのことだった。
彼女たちの集落は、こちらの予想通りビル湖の近くにあり、100人程度のエルフ族がそこで生活を営んでいるそうだ。私たちは、彼女の保護と護衛の意味を踏まえ、その集落「ビル・ペリ村」まで一緒に向かうことにした。
それから2日間、特に問題もなく、私たちは村の近くまで来た。
彼女たちのリーダーであり、村長の娘であるハンネが一足先に村まで知らせに走ってくれた。彼女曰く、ここまで来れば特に危険はないらしい。集落が近いせいか、あたりには生い茂った木々ではなく、小さな畑が見られるようになった。
私たちは村にある集会所に案内された。捕えられていたエルフたちはここで家族との再会を果たした。家族も行方不明の娘たちを必死に探していたが、どこを探せばいいか検討もつかず、途方にくれていた。そんなところに娘たちが無事に帰ってきたのだ。その喜びはひとしおだった。
喜びの再会の後、集会所には村長のユルヨ、娘のハンネ、その他の代表村人数人ばかりが残った。私たちは殿下を始めとして、リューク、フロリーナ両副団長と私の4人が残っている。
「この度は本当にありがとうございました。村を治める長として、村民を代表して感謝致します。」
「いいえ。こちらも当然のことをしたまで。無事に戻って本当によかったと思います。」
「娘たちの命の恩人に何かお礼をしたいと考えておりますが、この通り何もない村です。何のお構いもできず恥ずかしい限りです。」
「そんなことをおっしゃらないで下さい。自然溢れる素敵な村だと思います。」
「ありがとうございます。拝見したところ、旅の途中であられる様子。何か必要なものがあればご用意させて頂きます。」
「…それでは、少しお話を聞いて頂けますか?」
殿下は妹の病気のこと。その治療には霊薬が必要になり、「エルフツユクサ」という薬草が必要であることを説明した。
ユルヨ村長はその説明に頷きつつも、目を閉じて何か真剣に考えこんでいる様子だった。ハンネもその他の村人も何も言葉を発しない。
少し重くなってしまった場の空気にまるで溶け込むような口調で、村長は語り始める。
「そうですか…。エルフツユクサですか…。確かに人間族やその他の亜人族はそのような名前で呼んでいるようですが、我々は『フェンリル草』と呼んでいます。」
「『フェンリル草』ですか…?初めて聞く名前ですね。」
私や殿下が疑問を抱えている様子を見ながら、村長は言葉を続けた。
「おそらくエルダーエルフが精霊魔法で育てたツユクサは『エルフツユクサ』になると思われているでしょう。そうでなければ、ここのような集落には来られないでしょうから。それは半分正解で半分間違いです。
確かにエルフツユクサはその方法で調合されますが、必ずしもエルダーエルフである必要はありません。重要なのは、精霊魔法の方です。ここで言う精霊魔法は正確にはフェンリル様のご加護による回復魔法のことを指します。ただ、フェンリル様は幻の聖獣。滅多にはお目にかかれない上に、加護を頂くとなると、その機会は限りなくゼロに近いことになります。エルダーエルフは、エルフ族の中でも長命ですから、その機会を得る可能性が少なからず高いというわけです。
つまり、エルダーエルフでなくても、例えば人間族でもその加護と回復魔法の技量があれば、フェンリル草を調合することができます。」
「なるほど。調合の仕組みは理解できました。それで、そのフェンリル草を手に入れる方法はあるのですか?」
殿下は間髪を入れずに、村長を問い質した。その声には焦りと恐れが滲み出ているように感じた。
「方法はあることにはあります。実は、ここから北に1日程向かったところにある丘にフェンリル様がいらっしゃいます。」
「「「「!!!」」」」
村長のその言葉は、否応なく殿下たちを期待させた。
「それでは…「但し、加護をもらうのは無理かと思います。」」
「それは何故ですか…?」
「原因はわかりませんが、フェンリル様はご病気のようなのです…。このままでは命が尽きるかもしれません…。」
まさかの聖獣。そしてその病気。
捜索隊の前にまた大きな障壁が聳え立っている。
読んで下さり、ありがとうございます。




