第14話:捕らわれたエルフ
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レイカールを出発して6日目の朝。いよいよ「大森林」地帯の入口に到着した。昨日の早い段階で近くまで来ていたが、体調を整えるために戻って野営をしたのだ。
この5日間、食事が功を奏したのか、捜索隊の皆さんとは大分仲良くなったと思う。
騎士団は全員男性で、肉料理を振る舞ったらとても喜んでくれた。
魔術師団は全員ではないものの、女性の方が多い。彼女たちは食事も喜んでくれたが、「クリーン」を使って衣服や身体をきれいにしてあげたことをとても感謝していた。
今では、彼らは私を「ライナス様」ではなく「ライナス殿」や「ライナス君」と呼んでくれて、だいぶフランクに接してくれるようになった。リューク副団長は「ライナス」と気軽に呼んでくれて、フロリーナ副団長が「またやってる」と頭を抱えていた。ちなみに殿下も「ライナス」と呼んでくれるようになった。
殿下は整列した捜索隊に向いて静かにそしてよく通る声で話を始めた。
「まずは、ここまでご苦労でした。しかし、本番はこれからです。必ずモニカの治療に必要な材料を手に入れて王都に戻ります。決してひとりも命を落とすことはなりません。必ず生きて帰りましょう!!」
「「「はっ!!!」」」
私たちは「大森林」地帯に足を踏み入れた。
―――――
「リューク副団長、先行しているクルトがフォレストウルフの群れを発見したようです。どうしますか。」
「そうだね。蹴散らしてくれて構わないよ。」
「了解です。」
「大森林」地帯には多種多様な生物が生息している。まだ入口に近い場所のモンスターは討伐ランクは低いが、群れで襲われるとそれなり厄介で、余計な体力を消耗してしまう。そう考えた私は、クルトを召喚し、哨戒役として先行させることを提案した。クルトはAランクモンスターのシルバーウルフ。フォレストウルフやただのゴブリンのようなレベルの離れた下位モンスターであれば、威嚇するだけで十分な効果がある。結果として「大森林」地帯に入って2日、戦闘らしい戦闘もなく順調に進んでいる。
私たちが向かっているのは、「大森林」地帯に五つある湖のひとつである「ビル湖」である。この湖周辺にエルフ族の集落があると思われるからだ。あくまでこれは前世の記憶だが、エルフは100年、200年以上生きる長命なのが多い。何か外的要因がない限り、集落は変わっていないだろうと判断した。
殿下たちからは、集落の情報など「なんで知っているの?」という視線を向けられたが、もう驚くことに疲れたのか、特に質問もされなかった(笑)。
ビル湖までは5日間の道のり。まだ半分といったところだが、捜索隊の士気は高い。
―――――
(ご主人様。たった今、数匹のゴブリンとホブゴブリンを威嚇して追い払いましたが、ゴブリン種の数が多いようです。おそらく近くに集落があると思われます。)
(わかった。一度戻ってきて。)
クルトとの念話を終わらせ、彼を戻らせた。「大森林」地帯に入って、4日目の昼。小休止している最中だった。
「副団長。クルトから念話がありました。近くにゴブリンの集落があるようです。」
「ゴブリンか…。あいつらは面倒だね。数が多いからね。」
「ええ。それに万が一『ゴブリンキング』が率いているとなれば、場合によっては戦闘は避けられないでしょうね…。」
「そうだね。一応殿下に伝えておくかな。」
リューク副団長が気怠そうに頭をかきながら殿下のもとに向かった。しかしその眼は真剣そのものだった。
「ゴブリンの集落が近いというのは本当ですか?」
「はい。クルトが言うにはゴブリンとホブゴブリンに遭遇する機会が増えているようです。規模はまだ不明ですが、集落があるのではと言っています。」
殿下の質問に対して、現在わかっている範囲で答える。彼女は少し緊張しているのか、その口調は堅いように思われた。そばにフロリーナ副団長とターニャさんを連れている。
「殿下。まずは情報収集が先決かと思います。何人かを斥候に出してはいかがでしょうか?」
「そうですね…。確かに遭遇戦は避けたいですね。」
「そうだね。僕が何人か率いて様子を見てこようかな。」
「それよりも私の召喚獣に偵察させた方が安全なのでは?」
私の提案に3人が視線を向ける。
「それは安全かもしれませんが、いきなり戦闘になった時、向こうの数が多ければ、いくらシルバーウルフでも厳しいのでは?それにどんなモンスターは率いているかもわかりませんし…。」
「いや、偵察はクルトではなく、別の召喚獣にします。」
「「「えっ…?」」」
「我の求めに応じて、その姿を現せ。我が求むはライトニングファルコン。」
殿下たちの目の前に召喚術の魔法陣が広がる。そこに現れたのは、明るい茶色の羽毛を持ち、雷を纏った1匹の隼であった。
「私の召喚獣、名前は『ドーアン』です。彼なら空中から索敵ができますし、万が一の場合にもその飛行能力で逃避できると思いますよ。」
「「「あ…、うん。」」」
殿下は驚きの表情を崩さず、リューク副団長は苦笑いをし、フロリーナ副団長は頭に手をあてて呆れていた。解せぬ…。
ちなみに他のメンバーは、いきなり現れた巨大なモンスターに驚愕し固まっていた。
「まさか、またAランクモンスターを召喚するなんて。しかも滅多にお目にかかれない『ライトニングファルコン』だなんて。」
「ええ、フロリーナ。私も初めて見ました。」
「ああ…。」
捜索隊はこれ以上先に進むのを停止し、ドーアンからの連絡を待つことにした。そして、殿下たちはこれ以上私にツッコミを入れるのも止めた…。
―――――
(主。ゴブリンの集落と思われるものを発見しました。主の場所から1時の方向に徒歩で半日といったところでしょうか。)
ドーアンを偵察に出して数時間。陽が傾きかけた頃、彼から念話が入った。
(それなりの集落のようです。目視するにおそらく100体程度と思われます。ホブゴブリンだけではなく、ゴブリンウォリアー、ゴブリンメイジ、ゴブリンナイトも確認できます。)
「わかった。そのまま偵察を続けてくれ。危なくなったら逃げるように。」
(はい、主。)
私はその情報を殿下たちに伝えた。対応を話し合ったが、結局のところ、集落は避けて進むことにした。これからまだ何が起きるかわからない。余計な戦闘は避けたいという方針だ。私も賛成だった。
しかし、その直後にドーアンからもたらされた情報は、その決定を覆すに値するものだった。
(主。率いているのはゴブリンキングとゴブリンジェネラルです。しかも、エルフ族が捕らわれているようです。)
―――――
「エルフ族が捕らわれているのは確かなのですね?」
「はい。ドーアンからの情報では、数人のエルフ族が捕らわれているようで、見る限り全員が女性のようです。」
その言葉に、殿下とフロリーナ副団長は暗い表情となった。その眼には怒りが込められているように感じた。
ゴブリンは全員がオスである。他種族のメスと性行為を行うことで繁殖し、子孫を残す。しかも繁殖力はとても強く、すぐに集団が出来上がる。「1匹のゴブリンを見たら30匹いる」と言われる程だ。性行為も種族見境なくやることでも有名で、人間族や亜人族からは嫌悪と恐怖の対象としても名高いモンスターである。それがわかっているから、女性である殿下やフロリーナ副団長の反応は至極当然のことであった。
「できることなら彼女たちを救いたいと考えます。しかし、あくまで今回の目的は霊薬の材料の入手。それ以外のことで大事な隊員を失いたくはありません。皆さんの意見を聞かせて下さい。」
殿下はリューク、フロリーナ両副団長、そして私に確認してくる。とても悩んでいるようだった。そして怒りであろうか、その身体は少し震えていた。
「うん。正直言って、ゴブリンキングが率いる100体のゴブリン集団とは戦いたくはないね。ゴブリンキングはBランク、ゴブリンジェネラルはCランク。そいつらだけでも苦戦しそうだ。」
「リュークの意見に賛成です。こちらは30人程度。明らかに劣勢です。いくら私たちがいるとしても、やはり命を落とす隊員は出てくるでしょう…。悔しいですが、ここは避けるべきです…。」
両副団長は反対意見だった。それは当然かもしれない。
それを聞いた殿下は、私の方を向いて意見を促した。まるで何かの期待を込めるかのように…。
「私は救出するべきであると思います。決してかわいそうだからというだけではありません。これはこちらにも利があるかと考えます。」
「…なるほど。その利とはなんでしょうか。」
「はい。私たちが求める霊薬の材料ですが、エルフツユクサは説明した通り、エルフ族は育てる植物です。つまりそれはエルフ族からそれを購入するか譲り受けるかしか方法がありません。現段階でこちらかが購入や物々交換を検討していない以上、何とかして譲り受けるしかありません。」
殿下たちは、私の説明に頷く。
「しかし、ご存じの通り、エルフ族は閉鎖的な種族で有名です。普通の交渉では、まず相手にしてもらうのは厳しいでしょう。しかし、その一方で彼らは義理堅い種族でもあります。捕らわれているエルフ族の集落が、ビル湖近くの集落と同じかはわかりませんが、ここで救出することができれば、その交渉が断然し易くなるでしょう。」
「…なるほど。それは一理ありますね。しかし、問題は救出できるか否かです。何か方法がありますか?」
「はい。ひとつ案があります。」
私の案をもとに、エルフ救出作戦の検討を始めた。
すでに陽は沈み、あたりは夜の帳が落ちていた。
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