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第12話:目的地と参加依頼

 私がレイカールに来てから、もう半年ほどが経過した。季節は春を迎え、何をするにも良い気候になった。


 父ハリスから世話役を仰せつかってから2週間後、いよいよ殿下とその一行がレイカールに到着する日を迎えた。殿下とは同じ学院生ではあるが、向こうは高等学院の「優等生」、こっちは中等学院の「落ちこぼれ」。接点などあるはずもなく、今回初めてお会いすることになった。しかも世話役として…。前世の知識や経験があるため、特段動揺しているわけではないが、父上に一言文句を言いたい気分である。


 すでに殿下からの先触れもあり、到着までまもなくというところであった。


―――――


 屋敷につながる通りをひときわ目立つ馬車が進んでいる。私やトーマスは屋敷玄関の前で待ちながらそれを眺めていた。


 殿下が乗っていると思われる白い馬車のまわりには4人の騎士が騎乗して進んでいる。その後ろには騎士と魔術師が乗っているであろう馬車が数台連なっており、最後尾には2人の騎士が騎乗して進んでいた。報告にあった通り、全部で30名程度の捜索隊のようだ。


 白い馬車が玄関前に静かに着いた。

 馬車から出てきたのは、王族用の軍服に身を包む一人の女性であった。アメリア第一王女である。そしてもう一人、宮廷魔術師を意味する紺色のローブを着た女性もその後に続いた。

 騎乗していた騎士は馬を降り、その他の騎士や宮廷魔術師も馬車を降り始めていた。


「お初にお目にかかります。ハリス・ロックハートが三男。ライナス・ロックハートでございます。この度は遠路お疲れ様でございました。父の名代として今回の世話役を務めさせて頂きます。」

「ご丁寧な挨拶痛み入ります。捜索隊共々、これからお世話になります。」


 殿下はこちらが家臣の子息であるにも関わらず、丁寧に接してくれた。殿下との挨拶が終わった後、トーマスと共に殿下とお付きのメイド、リューク副団長、フロリーナ副団長と屋敷に入った。殿下と一緒に馬車に乗っていた女性はフロリーナ副団長だった。


 一方、サイモンや屋敷のメイドの一部は、その他の捜索隊メンバーを、別宅に案内している。

 ロックハート家では、王族やその他の貴族の訪問を受けることを想定して、屋敷以外に別宅を構えている。王族や貴族の世話人等が宿泊できるように、ある程度の広さと設備を備えており、今回の捜索隊にも利用されることになった。


 殿下とその一行の案内は終わった後、屋敷の食堂で今回の捜索の最終打合せが行われることになった。捜索隊からは殿下とそれぞれの副団長、こちらは私とトーマス、セバスが参加している。


「今回の捜索の目標は言うまでもなく『冷涼の風』の材料です。捜索期間は、『大森林』地帯の状況にもよりますが、まずは1ヵ月間を念頭に置いています。」

 殿下が力強い声を発する。声量が特別大きいわけではないが、その言葉の決意の強さを物語るように重く感じられた。


「わかりました。事前に指示があった通り、食料や生活必需品、回復薬等はそれなりの量を準備しております。」

 トーマスは父から事前に指示があった通り、適切な準備を済ませている。


「それにしても、今回の捜索は難儀しそうだね…。何しろ本当に存在するかもわからないものばかりですからね…。」

 リューク副団長は捜索隊の気持ちを代弁するかのように静かに呟いた。


「やめなさい、リューク。殿下の前ですよ。あなたがそんな姿勢では、見つかるものも見つかりませんよ。」

 フロリーナ副団長はリュークを嗜めるが、その表情は明るくはない。殿下も黙ってそれを聞いている。


「いいのです、フロリーナ。確かに捜索隊のメンバーにとっては、生死をさまようような場所での活動になります。目標はあるにせよ、目的地がはっきりしないのは決して望ましいことではないのですからね…。」

「すまない、殿下。余計なことを言いました。」


 食堂の雰囲気が重くなる。何か言ったほうがいいだろうか…。「冷涼の風」か…。確か石化熱の治療薬として必要と言っていたよな。材料は…ええと…。


 前世において石化熱は不治の病のひとつだったが、ある賢者がその治療方法を発見した。それが「冷涼の風」であった。その賢者こそ、前世における育ての母エレン・ヘーゼルダインだった。私はその治療薬の材料や調合方法を覚えているから、役に立てるかもしれない。


「『冷涼の風』でしたか。確か『ヴィスキビラの蒸留酒』、『エルフツユクサ』、『白クサノオウ』、『ムーンシャインの涙』が材料でしたよね?」

「「「!!!」」」


 私の発言に3人はとても驚いている様子だった。


「なぜそれを?まだお話ししていなかったと思いますが…。」

「いや…。父上の手紙にそう書いてあったような…。ははは…。」

 殿下の質問は適当にごまかしておく。ちょっと危なかった…。まさか、「前世の母親が…」なんて言ったら、何かイタイ人と思われるかもしれないからな…。


「…そうですか。確かにハリス殿には話したかもしれません。ライナス殿が言われるように、材料はその4種類のようです。宮廷の薬草医によれば、『ヴィスキビラの蒸留酒』は何とか手に入るとのことですが、それ以外は手掛かりがなく、そもそもそれらがどのようなものかわかっていません…。」


 なるほど…。前世を思い出してからいろいろ調べてみたが、「冷涼の風」など、過去に存在したもの全てがこの時代に伝わっているわけではないようだ。おそらく100年前のベルラール戦争等が原因で途絶えてしまったのかもしれない。


 前世の記憶がある私は、それらの材料を知っている。今でも「大森林」地帯に存在すると思う。だけどそれを言うと、また「なぜあなたが?」となってしまうだろう。ただ人の命が懸かっていることだし、前世の「願い」は今世の「願い」でもあり、ライナス・ロックハートの「願い」でもある。困っている人がいれば助けたい。

 疑われたら…適当にごまかそう。別にやましいことがあるわけじゃない。それにそもそも信じてもらえるかも疑問だ。


「…エルフツユクサは、もともとは只のツユクサです。しかし、エルフ族でも長命種であるエルダーエルフが扱う精霊魔法で特別に育てられたツユクサを指します。『大森林』地帯にある大きな湖に彼らの集落があるようです。もしかしたらそこにあるかもしれません。それから…。」

「ちょっ…、ちょっとお待ちください!何ですか、その情報は?」

「いや…。エルフツユクサの情報ですが…。」

「いやいや、そんな情報はじめて伺いました。なんでそんなことを知っているのですか?」

「ええと…。まあ冒険者として活動していると、そういう情報もまあ入るわけでして…。ははは…。」


 室内の空気がまるで「疑惑」という言葉で埋め尽くされるように変化していく。殿下は明らかに動揺しており、リューク副団長は「お前、ほんまか?」みたいな視線を向けてくる。一方でフロリーナ副団長は黙り込んでしまった。慌てる殿下は、少し可愛らしく見えた。


「…確かに、何かの論文で魔力による植物の変化について読んだことがあります。それによれば、強い魔力を与えることによって、植物の効能自体が変化することがあるようです。もしかしたらエルフツユクサもそうかもしれません。あくまで推測ですが…。」

 フロリーナは静かにこう述べた。その言葉に殿下もリュークも少し頷いたようだった。


「…そうなのですか。なるほど…。確かにそういう可能性もありますね…。ライナス殿。決して疑っているわけではないのですが、その情報はどこまで信用できるのでしょうか?」

「どこまでとおっしゃられても…。現時点で『正しい』と証明する術はありません。」

「そうですよね…。すみません。ちなみに、それ以外の二つについても、何か情報をお持ちですか?」

 とりあえず情報元に関する追及は終わりのようだ。この調子で話を進めていこう。


「はい。白クサノオウは、『大森林』地帯の奥地にその群生地があると言われていますが、その群生地は時期によって変わると言われる不思議な植物です。唯一の手掛かりは、そこに生息する『シルバーバタフライ』です。このシルバーバタフライを追いかけていくと、白クサノオウに辿り着くことができると言われています。」

 

 殿下たちから特に質問もないので、説明を続ける。

 

「最後にムーンシャインの涙ですが、これは通称の呼び方です。実際には『ナイトトレント』に咲く花の蜜のことです。つまり、ナイトトレントを見つけ出し、その花を採取することが必要です。しかし、採取には特殊な条件が必要になります。ナイトトレントはBランクモンスターに分類されますが、満月の夜にのみ『ミッドナイトトレント』というモンスターに変化し凶暴化します。これはAランクモンスターに分類され、そのミッドナイトトレントに咲いた花の蜜が、ムーンシャインの涙として採取することができます。」


 一通り説明を終えたが、殿下たちはその説明に茫然としていた。やはり俄かには信じられないようだ。


「どう思います?フロリーナ?」

「正直申し上げて、俄かには信じられませんが、まるっきりデタラメとも思えません。ライナス殿が言われる通り、モンスターの中にはある条件下で変化する種類も存在することは確認されていますし…。」

「まあ、いいんじゃないですか?もともとはっきりとした目的地があったわけでもないんですし。それらの情報を基に捜索計画を練っても損はしないと思いますがね。」

 フロリーナ、リューク両副団長は、半信半疑ながらも私の話に一定の評価を与えてくれたようだ。


「そうですね…。確かに何の目的地もなく彷徨うよりは、断然良いかもしれません。ライナス殿、急なお願いにはなりますが、私たちの捜索隊に加わってくれませんか?どうも今回の捜索にはあなたの情報が不可欠になる予感がします。」


 殿下の要望により、私の捜索隊参加が決まった瞬間であった。

読んで下さり、ありがとうございます。


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