第10話:妹の病
やっと第10話まで投稿できました。
「いただきまーすっっ!」
子供たちの元気な声が、明るく響き渡り、楽しい夕食が始まった。
クロエを救出してから3日が経った。
救出した日、彼女に目立った怪我がなかったため、そのまま衛兵に孤児院まで送るようにお願いした。
その後は、ヨスを始めとしたイル・ウルスのメンバーを衛兵本部まで連行した。カイルと呼ばれた男は、サイモンの手によって絶命していたが、ヨスという幹部と思われる男は大事な情報源となるため、後日王都へ連行されることになった。
ちなみにサイモンからは、「本当にEランクですか?」と驚かれ、時間がある時に衛兵たちの鍛練に付き合うことになった。領主の息子という立場もあるので、無下に断ることもできず了承することにした。
決して「給料は出しますから」という言葉に魅かれたわけでない…。
トーマスからは「くれぐれも危険なことは控えて下さい。」と苦言を呈され、サイモンにも「あなたがいながら何ですか!」と注意していた。サイモン、ごめん。
セバスやシエスタからもちょっとお小言を頂戴したが、まあそれだけだった。信頼してくれていると楽観的に捉えている。
院長をはじめとした孤児院のみんなにも、たくさんお礼を言ってもらった。クロエが無事に帰ってきた夜、ミランダさんはそれこそ号泣して彼女を抱きしめたそうだ。レイラやアンナも涙ぐんでいたらしい。院長は…まあ言わずもがな。
ギルドでも奴隷商団の話はそれなりに広まっており、「Eランクの冒険者が賞金首を討ち取った」と大きな話題となってしまった。
それと、今回の騒動がきっかけである小さな話題が挙がった。それは私の正体だった。特に隠しているつもりもなかったのだが、これをきっかけとして私が「領主の三男」であるとこが広まってしまった。
王都で問題になっている奴隷商団の一味を、領主の子息自らが討伐ということで、「領民に良いアピールになりました。」とトーマスは言っていた。
アンジェラやリサからは、「これからは『ライナス様』と言ったほうがいいかな。」と言われたが、それは勘弁してもらった。彼女たちやそれ以外の人にも自分を領主の息子として扱わないで下さいとお願いした。
それは「冒険者」のライナスとして、生きていきたいと思っているからだ。
さて、ヨスとカイルに懸けられていた懸賞金だが、カイルを討ち取ったサイモンは、あくまで衛兵団長としての任務中ということで、衛兵団の経費に戻入されることになったらしい。一応本人には特別手当が付くらしいが、彼は少し落ち込んでいた…。今度会ったら、何か奢ってあげよう。
その一方で私は、あくまで冒険者としての活動だったので、そのまま懸賞金100万テーレをもらうことができた。しかし、院長から聞いていた孤児院の厳しい運営状況のことが気になり、結局「寄付」することにした。
そのことを院長に打ち明けると、「そんな領主の御子息から受け取れません。」と大分遠慮されたが、あくまで冒険者としての行いであることを強調して「ぜひ受け取って下さい。」とお願いした。最後は院長も快く受け取ってくれ、大変感謝された。
そして、話は冒頭に戻る。
院長やミランダさん、そしてクロエたちから夕食に招待された。寄付金もあり、それなりに豪勢な夕食会となった。
クロエやレイラからも改めて感謝された。クロエは顔を少し赤くしながら、「とてもかっこよかったよ。」と言ってくれた。その後、クロエがレイラ、アンナと何かはしゃいで話していた気がするが、まあいいだろう。
その日は子供たちと楽しい時間を過ごし、翌日からまた冒険者としての活動の日々が始まった。また地道に稼ごうと決意を新たにしたのだった。
―――――
「アメリア殿下。やはりモニカ殿下の病状は思わしくありません。やはり霊薬が必要です…。」
「わかっています。しかし、その霊薬とやらを調合するにしても、材料も揃っていないし、そもそも調合方法も不明です。はっきりしているのは、この『石化熱』を治すためには霊薬『冷涼の風』が必要ということだけです。」
「はい…。手に入った古文書の解読が進めば、もっとはっきりとしたことが判明するとは思いますが、如何せん何とも…。」
「何とか材料だけでもわかれば…。」
アメリアの部屋では、彼女と家臣たちによる話し合いが行われていた。もう何度も同じことで話し合いが持たれている。いつも、モニカの症状が思わしくないこと、古文書の解読が進まないことが確認されるだけだった。彼らの表情は自然と暗くなる。
アメリアとモニカは、ここスナイデル王国の姫君である。アメリアが姉で第一王女、モニカが妹で第二王女という関係である。現国王の子供は彼女たちしかいない。
アメリアは16歳でアルトゥナ高等学院の1年生に在籍している。一方でモニカは現在13歳でアルトゥナ中等学院に在籍しており、ライナスとは同級生である。しかし、双方に面識はない。それはモニカが入学してまもなく体調を崩し、それ以降学院を休学しているためだ。
体調不良の原因は「石化熱」という病気である。この病気は、高熱を発した後に、足元から次第に皮膚が硬化し、まるで「石」のように灰色にくすんでしまうという恐ろしいものだ。高熱から始まり、熱が下がると皮膚の硬化が始まる。皮膚の硬化が収まると、また高熱を発するという、罹患者にとっては地獄のような苦しみが続く。
顔の硬化が終わり、しばらく経過すると命の硬化が始まる。つまり「死」に至る最終段階に入り、2~3日間程度で死に至る。発症から死に至るまで約1年程度かかるため、「1年病」と揶揄されることもある。
この病気の原因は不明だが、他者に感染しないことが判明している。また、治癒魔法には効果がなく、その治療方法も不明な点が多い。巷では「不治の病」として知られていた。
現在、モニカの症状は進んでおり、胸あたりまで肌の硬化が進んでいる。最近では、自力で起き上がることはおろか、食事もほとんど摂ることができず、辛うじて流動食で栄養を摂取している状況である。そんな状態が続いているため、本人の身体は痩せてしまっている。
いまから約1ヵ月前、王立図書館において、この石化熱に関する治療方法が書かれていると思われる古文書が発見された。早速、王立アカデミーの研究員によって解読が進められたが、古文書に記された文字自体が、すでに「失われた文字」であったため、解読の進捗は芳しくなかった。辛うじて、石化熱に効果がある霊薬が存在することがわかった程度だった。その霊薬こそが「冷涼の風」だった。
モニカの症状を見れば、おそらく持って3ヶ月というところだった。しかし、古文書の研究は遅々として進まず、アメリアと家臣たちは歯痒い日々を過ごしていた。
吉報がもたらされたのは、そんな彼女たちの心情を表すような雨が降る薄暗い日だった。
「アメリア様!古文書から『冷涼の風』の材料が判明しました!」
王立アカデミーの研究員が、アメリアの部屋に大慌てで入ってきた。
「それは本当ですか?それでその材料とは?」
「はい…。それは『ヴィスキビラの蒸留酒』、『エルフツユクサ』、『白クサノオウ』、『ムーンシャインの涙』だそうです。」
「なんじゃと…。それは本当か?」
その言葉に反応したのは、王族お抱えの薬草医であるモーゼスだった。「薬草医」は「神官」と対を為す職業である、主に病気の治療を専門としている。
「どうしました、モーゼス。その材料がわかるのですか?」
「はい。アメリア殿下。その名前は聞いたことがあります。聞いたことはあるのですが…。」
「何ですか。はっきりして下さい!」
アメリアはモーゼスの煮え切らない態度に、少しイラつきを覚えながら、その後を促した。
「申し訳ありません。それらの材料はどれも詳細がわかりません。一応ヴィスキビラの蒸留酒については、ドワーフ族の間で伝説の酒類として有名ですので、もしかしたら個人的な交流のあるドワーフ族から入手することは可能かと思います。しかし、それ以外の三つについては、昔に師匠が残したメモ帳に名前があったのを記憶しているだけで、それらがどういったものかまでは不明です。但し、師匠はそのどれもが入手困難で、『大森林』地帯に行かなくては手に入らないと言っていたことは記憶にあります。」
「『大森林』地帯ですか…。しかし、そこに行けば入手はできるのですね?」
「あくまで可能性という話ですが…。」
「少しでも可能性があるのであれば、それに賭けてみましょう。皆、準備を。私が直接向かいます。」
「アメリア殿下、それは危険です。お止めください。」
「いいえ。これは私の妹のことです。直接行かなくては。それにこれによって石化熱の治療方法がはっきりすれば、これまで救えることができなかった国民も救うことができます。これは王族としての務めです。」
「…承知致しました。くれぐれも無茶はなさらないようにして下さい。」
こうして、アメリア殿下とその一行は、妹の病気治癒のため、王国南西部に広がる「大森林」地帯に向かうことになった。
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