第1話:死神から救われた少年
何となくアイデアが出てきたので、書いてみることにしました。
長続きするように頑張りたいと思います。
駄文で申し訳ありません。
皆さまの時間潰しになれば幸いです(笑)。
※タイトルの一部を修正しました。
かつて、世界で最も強く、賢く、そして正義感の強かった一人の男がいた。
彼は幼くして、両親を病気と事故で亡くした。身内と呼べる者も頼りになる者もいなかった。たとえいたとしても、ある者は流行り病で、ある者は魔物に襲われ、ある者は盗賊によって、その生命を絶たれていたのである。
彼は自分の人生を憎んだ。なぜ自分が苦しまなくてはならないのかと。みんなも同じように苦しみ死んでいくしかないのかと。
彼は幼いながらも願った。苦しむ人々を救いたいと。その営みを護りたいと。そして、自分が悲しんだ分だけ、みんなに幸せになってもらいたいと。そして、自分もその幸せの輪に入りたいと。
しかし、この世界「バルシュラ」は、小さい子供がひとりで生きていくには、決して優しくはない世界だった。彼にもゆっくりと着実に「死神」がその歩みを寄せていたのである。
そんな彼を救ったのは、ある一組の老夫婦だった。
その老夫婦は、彼が住んでいる村にふらっと現れ、「施し」を行った。病気の者には薬を与え、飢えている者には食糧を与えた。そして村を脅かしていた魔物を一掃した。
老夫婦は彼にも「施し」を行い、「君の願いは?」と問うた。彼は「みんなを幸せにしたい」と答えた。老夫婦は表情には出さずとも、その答えに非常に驚いた。自身がこんなにも苦しい状況に置かれているなかでも、他人を思いやるその心に感心した。そして悲しくも感じた。彼は他人の幸せを願わなければ、自分自身は生きているという事実、生きてしまった事実を受け入れることができないのだと感じた。
老夫婦はただの村人ではなかった。夫はとある国家で騎士団長を務めていた高名な剣士・武術家で「武神」と呼ばれていた。一方で妻はその国家で筆頭宮廷魔術師まで務めたこともある魔法使いで「賢者」と呼ばれていた。
彼らは、他人を顧みず、自らの保身しか考えない王族・貴族に嫌気がさし、その恵まれた「職」と「生活」を捨て、各地を旅しながら「施し」を行っていたのである。
そんな旅を続けてもう20年が過ぎ、彼らも老いた。そして、いつしか「後継者」を望むようになった。彼らには子供がいなかったのだ。
彼らの年齢を考えれば、これから多くの後継者を育てることはできないだろう。だからせめて一人だけでいいから、これまでの智慧と技術、経験を伝承する存在を探していた。「みんなを幸せにしたい」と答えを聞いた時、自分たちの後継者たる存在を見つけたと思った。
それから、彼は老夫婦に引き取られ、旅を続けながら、後継者として育てられ、実の子供のように可愛がられた。彼はアルバートという名前だったが、老夫婦の姓であるヘーゼルダインと併せて、アルバート・ヘーゼルダインと名乗った。
時は過ぎ、彼が25歳の時、武神と呼ばれた父、ハワード・ヘーゼルダインがこの世を去った。その2年後に母のエレン・ヘーゼルダインも亡くなった。
彼は、母の死をきっかけとして、心機一転、旅に出ることにした。旅路の途中では、かつての両親がそうであったように、人々に「施し」を行った。そんな旅を何十年も続けた。ある時は紛争地域に赴いたこともあった。
90歳を迎えた時、ある村に定住した。身体は次第に言うことを聞かなくなってきたが、それでも頭はしっかりしていた。戦うことは叶わなくても、薬を調合し、病人に与えた。そんな彼を嫌うような村人はいなかった。
アルバート・ヘーゼルダインは、そうして死ぬ直前まで「施し」を止めなかった。それが彼の求めた幸せだった。彼は願った。もう一度この世界に生まれたいと。そして「幸せ」な人生を送りたいと。
彼がその95年にわたる生涯を閉じたのは、穏やかな陽気に包まれた日の朝であった。
そして、彼が生まれ変わったのは、否、その彼の生涯をライナス・ロックハートが「思い出した」のは、激しく雷鳴が轟く嵐の日の未明であった。
奇しくも、その日はアルバート・ヘーゼルダインが亡くなってから、ちょうど300年後のことであった。
読んで下さり、ありがとうございます。