きみは常冬の理想郷
ぼくと彼女は宇宙で育った幼馴染だった。
いつもどこでも一緒で、星々の間を駆けまわって遊んだ。
ぼくたちは、成長すると星の核になる。
ある者は、まばゆく輝くだけの天体に。
ある者は、一瞬の命を燃やしてただ遠くをめざす流れ星に。
ぼくたちは、なりたい星になれる。
彼女は、肌寒い季節だけが続く過ごしやすい星になり、ぼくは、その星のための弱い太陽になった。
ぼくと彼女は、一対の星になって、同じ星座で何億光年も輝きあおうと約束していた。
仲良しの兄さんが一足先に星になるまでは。
彼女は、ぼくではなくて、星になった兄さんに恋をしたのだ。
兄さんは、水と土で満たされた青い美しい星になった。
その青い星では、数多くの命が絶妙なバランスを保ちながら代を重ね、進化を続けている。稀有な世界だった。
でも彼女の恋は最初から失恋だ。兄さんの星を、きらめく生命の星たらしめるのは、兄さんの恋人だからだ。
兄さんの恋人は、情熱の存在だった。その内面そのもののように、燃える巨大な天体になった。
恋人に近づきたくて離れがたくて、兄さんはいつでも恋人の光を浴び、熱を感じていられる場所に落ち着いた。兄さんの星が生命の星になったのはその偶然の結果で、兄さんが強く望んでそうなったわけではないのだ。
兄さんの恋人は、宇宙で踊り続ける。光と熱を増しながら。
わたしもっと輝いてもっと熱くなって、いつか近くの星々を飲みこむのよと、燃える星になる前に恋人は、兄さんに向かって言っていた。
それでもいいよと兄さんが答えて、今がある。
いつか。
いつの日か、燃える星は青い星を飲みこむさだめだ。
そのとき青い星の生命たちはどうなるのだろう、と彼女は思い悩んだ。
青い星にはもう手が届かなくても、失恋してもなお彼女をときめかせてやまない、あの星の生命のきらめきを、どうにかして救いたいと彼女は願うようになった。
じゃあ、もうひとつ、生命が存在できる世界を創るのはどう? とぼくは提案した。
彼女のためではなく、ぼくのための提案だった。
彼女がもう、ぼくを見ていないことはとっくにわかっていた。だからといって、ぼくの彼女への気持ちが消えるわけじゃない。
だから、彼女の理想を叶える存在になろうと思った。
兄さんと恋人の関係を模して。
生命の存続にとって、もっと完璧な一対の星に。
そして、いつか青い星が燃える星に飲みこまれるとき、青い星の生命たちがきみを見つけることを一緒に祈ろう、そう提案した。
いいの? と彼女は言った。あなたは輝く星座の王に憧れていたでしょう、と。
それでもいいよとぼくが答えて、今がある。
ぼくと彼女は、兄さんと恋人のようには一つにならない。
いつか彼女の上にあらわれる生命、そして青い星から逃れてくる生命のために、ぼくは光と熱を、そして彼女との距離を、一定に保ち続けなくてはならない。
それでも良かった。
彼女はぼくという太陽によって、少し寒いけれど、永遠に生命が存続し続けられる世界になった。
ぼくからは、兄さんによく似て青い、だけどそれよりは氷と雪の割合が少し高いために、淡くて透明感のある彼女の星がよく見える。
それで十分だった。
いつか、ぼくと彼女の子どものような生命たちを、少し肌寒いくらいの、やわらかい光と熱ではぐくんでいくのだ。
彼女は、自分の土の部分をぼくの方向に集めようと苦心している。この星で生命が一番存続しやすいのは、光と熱がよく当たるあなたの側だから、と。すべての陸を、彼女の星で最も過ごしやすい土地にするつもりなのだ。
彼女は失恋したけれど、兄さんのように、いや、生命にとってさらに理想的な存在に日々近づくことができて、満足そうだ。
ぼくも失恋したはずなのだけど、むしろ、想いが成就したような気持ちでいる。