幕間 憐れな犠牲者達
この物語は、恐るべき邪神に生きながら狂気の地獄に叩き落された者達の、哀れな憐れな物語である。
覚悟はいいですか?
では……
◆
恐るべき邪神の、悪辣なる企みに蝕まれている異能学園。そこでは今日も、犠牲者が叫びを上げていた……。
「ぐあああああああああ!?」
「ぐはっ!?」
「ッ!?」
聞くがいい。その叫びを……絶望の声を。
『キキッキッキキヤアアアアアアアアアアア!』
「ぎゃあっ!?」
「ぐおおおお!?」
新たに生まれて、今日も今日とて休みなし。向こうの都合に合わせて24時間訓練訓練。また訓練。
『死死死死死死死死!』
「ごはっ!?」
「ぐえっ!?」
聞くがいいこの悲痛な声を。
給料無し、残業代無し。得られるものは、やりがいだけ。たった一つの輝きこそ、自分の教えを受けたもの達が、無事に妖異を倒すという誉れのみ。
そんな憐れな犠牲者にとって、アメリカ校の活躍は感無量であった。
「ぐあああああ!?」
「やめてええええ!」
『キッキッキャアアアアアアアアア!』
相手は呪詛型の大鬼にも関わらず、結局は民間人にすら被害は無し。あの、呪いの何たるかも知らないひよっ子達が、よくぞそこまでやり遂げたと、教えた甲斐があったと誇らしかった。
そして絶望の淵に居ながらも伝えたかった。
「美香ああああああああ!?」
「修也!? いやあああああああ!」
『キャアアアアアアアア!』
過労死するから評判を広めるなと。
「あ、止まってくれたぞ」
「この呪いを解けって事だろ」
「精神と肉体、どっちの呪いだ?」
「これむっず」
「あ、頭を指? 足? 指差ししてくれたぞ」
「なら精神だ」
「蜘蛛さんあざっす」
憐れな犠牲者はこの地獄から抜け出せなかった。
何故なら面倒見がよかったからだ。少し難しい呪いの解呪なら待っているし、アドバイスだってジェスチャーで行っている。
そしてその面倒見の良さが、この地獄から抜け出せない要因であった。しかし憐れな犠牲者はこれを止められない。
ひよっこ達が、立派に飛び立つことが彼の望みであったから……
◆
ところ変わって
プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル
以上!
◆
「……」
ところ変わって、極東最大の雄である異能研究所。古くは陰陽寮にルーツを持つこの由緒正しい組織の長、古老、いや、虎老と表現するに相応しい源道房は、自分の机にある郵便の包を前にして、憂貧な表情をしていた。例え胃に剣が刺さってもこれほどの表情はすまい。
まだ心構えの時間はある筈だったのだ……だが、邪神の呪いを侮っていた。勿論、彼の想像通り、守りの呪いもあった。しかしもう一つの呪いが、彼を絶望に突き落としたのだ。その呪いこそ……何故か配達員がポストから、そのまま持っていかなければならないと思う呪いであった。
そのため諸々の手順を吹っ飛ばした邪神からの贈り物は、源の想像をはるかに超える速度で彼の下までやって来てしまったのだ。
「致し方なし……遺書も書いた。いざ!」
本当ならそのまま受け取りを拒否したかった。見なかった事にして倉庫に放り込みたかった。だが、邪神の顰蹙を買う事だけは避けねばならなかった……そのため源は、意を決して封を切ったのだ。
「こ、これは……?」
この世で最も恐ろしい物体が、呪い以外何の保護も受けていない、まるで手紙の様な扱いなのはひとまず置いておいて、出て来た式符は源の想像とはまるで逆。その式符はまるで、神聖ささえ醸し出していたのだ。
「一体これは……」
式符を机に置いたまま、体を動かして全方位から注意深く眺めても、呪いののの字どころか、薄っすらと光すら発している様だった。
「間違いない、一神教系の神聖属性だ。式神符なのに? いや、それより唯一名も無き神の手によるものではないのか?」
源の疑念も尤もだろう。なにせ送り主は、この世の怨念をすべて集めてもああはならないと断言できる邪神なのだ。そんな存在から送られてきたのが神聖とも言える式神符で、邪神を知る全ての人間が混乱するだろう。
「うーむ」
その為、源の推測はこうなる。
既に奇跡の日と言われ始めているあの時の原因はやはり一神教で、奇跡を行ったと同時に、地上に唯一存在する神、つまり邪神と接触して、人類への試練と研鑽の為に、この式符を作り上げたのではないかという推測だ。何度も述べるが、それほどまでに神聖さを放っている式符なのだ。
この推測の穴は、向こうの神がこちらのいなくていい神を許容した事だが、ヒュドラを邪神が呪い殺したと確信している源は、油断は絶対に厳禁だが邪神の立ち位置が、無慈悲に、機械的に人を間引くタイプの善神と比べると、どちらかというとかなり人間寄りな事を知っている。だからと言って、その権能とありようを知っている彼からすれば、関わるのは御免被りたいというのが本音だが。
「ならそれほど酷いことにはならんか……」
源はそう結論付けるが、とにかく一度式神符を起動してみないと始まらない。だが万が一の事を考えて、一人で特別に広範囲な結界で覆われた施設に赴いた。
赴いたのだが……。
油断も油断。大油断。
一体いつから、優しい熾天使当たりが、丁寧に指導してくれると勘違いしていた?
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!』
最早音と表現できないような、爆発と言ってよい叫びと、一人で赴いたため死全部に睨まれた源は、履いていた袴を黄色く汚してしまったのであった。
もう二度と、金輪際関わるものかと決心を新たにしながら。
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