一際面倒な連中の対処研究会
初の戦闘会集団戦部門が終わり、打ち上げにカラオケに行った次の日、いやあ、藤宮君演歌が得意だったとはねえ。って違う。
昼からは学生の自主性に任せると言って、学園長がコマ割りを丸投げしたので、俺とお姉様は図書室に行くことにした。
あのゴリラ、たまにこうやって生徒に自主学習か訓練の時間を与えるのだが、四馬鹿すらちゃんとやっている辺り、皆さん志が高過ぎじゃないですかね?
が、そこは流石お姉様。そんな学園長とクラスメイトの考えは何のそので、大体はお気に入りの刀剣集を見て次は何をどうやって作ろうか悩んでいらっしゃる。
そんで俺はお姉様の趣味の時間を邪魔する訳にいかないから、その時間を利用して本と論文を読み漁った。
入学当初の異能に関してちんぷんかんぷんな状態は、主席としてあまりにも恥ずかしいからそりゃもう頑張った。時にはズルして頭のタールに本を突っ込み、丸ごとコピーしたりもしたけど……。
そんな自主学習の時間だったが、最近変化が訪れていた。
「浄力者がいない状況下で手足に呪詛を受けた場合、切り落とした方がいいか?」
「ふーむ、そうだね……」
図書室の隅には、読書中の者に迷惑が掛からないよう、外に漏れる声が小声になる討論エリアがあるのだが、そのエリアの一角でマッスルからそんな質問を受けた。
なおこのエリア、そもそも図書室が馬鹿広いため俺たちの教室より広く、ついでに言うと完全に防音でないのは、そうすればどんな討論をやっているか分かるため、興味があれば参加しなさいという学園側の配慮なのだ。
「資料が少なかったから断言できないけど、大鬼から以上はそっちの方がマシまであるからそれもあり。なんだけど、それをした場合は絶対に相対した妖異を殺さないといけない」
「その心は?」
「自分、もしくは救助者の血が残る。呪詛型に自分の血を残して撤退するのは、撤退じゃなくて自殺と同義なんだ。それを触媒として直接呪われたらもうほぼ対処できない」
「なるほど」
実は俺、サークルの部長である。不定期開催な非公式の。
その名も【一際面倒な連中の対処研究会】
最大手の異能研究会、困ったときの肉弾戦法、なんかに比べたら弱小も弱小かつ非公式なのだが、新聞と銘打ってるくせに、魔法の火力がいかに素晴らしいかしか書いてない様な所と比べたら大真面目なサークルである。
部員は俺を含めて四人。名誉会長お姉様とマッスル。それと
「つまり焼き切った上で、切り落とした方も燃やし尽くす必要がある?」
「欲を言えば灰も残さず完全に消滅させる必要があります。極端に言えば、髪の毛一本でも危険なんです橘お姉様」
なんと橘お姉様である。
実はよく妖異についての資料を借りに来る橘お姉様、筋トレの方法を調べるついでに色々読んでいるマッスル、そして俺は図書館で顔を合わせる頻度が高かった。
そしてきっかけは俺とマッスルが図書館で、対妖異について真剣な討論をしていたところ、橘お姉様も質問という形でその会話に入ってきたことだ。
「呪術の一つに、相手の残していったものを返すってのがあるんですが、とんでもない悪用出来るんですよ。難易度は大きさに左右される上、部位の指定は一気に難しくなるんですけど、適当に返された場合だけでも、運悪く脳に送り返されたら一発で大事になります」
「何かしらを残して撤退した後に防ぐ手段は?」
「言い方は悪いですが、その妖異相手に逃げ帰る力量ではどうやっても防げません。それが呪術師だった場合でもです。近くに浄力者、もしくは強い浄力に満ちた霊地が無ければ、撤退という選択肢は無く、あるのは相手の息の根を止める事だけです」
後は何かトントンと決まってしまった。マッスルに煽てられて、いや、俺が優秀で主席に相応しい事実を褒められて、気が付けばテンション上がったままこの非公式研究会を立ち上げてしまっていた。なぜ?
正式な部員はさっきも言ったが俺、お姉様、マッスル、橘お姉様の四人なのだが……
「隣すまん。今何についてだ?」
「大鬼以上から呪詛を食らったとき、その部位を切り落とすのはありか無しか」
「結論は?」
「直接全部食らうよりはマシだからあり。だけど何か残して撤退したら、それを触媒に呪われて死ぬから、焼き切った上で血も灰も髪の毛も残すな。出来ないなら撤退しても意味なし。相手の息の根を止めるしかない」
なんか逆幽霊部員とでも言うべきか。いや、そもそも名簿がないから正式な部員もクソもないんだが、今もやって来た先輩が一人、隣にいたこれまた先輩から何について話しているかを教えて貰っていた。
そう、最前列の椅子にはマッスルと橘お姉様だけなのだが、討論場全体を見ればポツポツと先輩達が、何か作業をしながらの合間にだったり、思いっきりノートを取りながら俺を見ているのだ。なんか講義みたいになってきてビビるんですけど。
「学園長もアメリカの教官も太鼓判を押した奴だからな」
「全く知らんことがポンポン出る」
普通ならこんな一年坊主が、となるところなんだけど、俺ってばアメリカ校の新兵さんたちに呪術について解説した時、学園長から太鼓判を押されたうえ、アメリカ校の教官殿が帰国した直後に、出くわした呪詛型の討伐にはある生徒のお陰である、つまり俺様の事だと言ったインタビューが流れたので、けっ、浅知恵のガキが何言ってんだとならないのだ。
しかも……
「おい入口見ろ」
「学園長だ……」
討論エリアにたまにゴリラがやって来るのがそれに拍車をかけている。いや、普通に生徒の様子を見回っているだけなのだが、このゴリラ、妙に俺とお姉様のいる所に時間を掛けるのだ。まあ、最初期は俺とお姉様がサボってないかの確認だった。これに関してはマジでサボってデートしようとしてたので、このゴリラの思い過ごしでも何でもなかったが……チッ。
「それならやはり、民間人が近くにいないなら、浄力者が到着するまで放置した方がいいのか?」
おっと、先輩から質問された。
「はい。呪詛型の妖異に関しては浄力者がいない場合、通常の妖異と相対するよりも更に無謀です。戦法としてはアメリカ校がやったように、大勢の浄力者で圧殺するのは一つの回答になります。幸い日本は浄力者が多いですしね」
「対呪術師は?」
「対呪術師に関しては、後先五月蠅いことは無視して、超遠距離から銃で狙撃するか、建物ごと爆破してください。奴らはあまりにも対人に特化しすぎていて、術の完成イコール死だと思って下さい。そのため相対そのものが途轍もないリスクを孕んでいます。どうしても相対せざるを得ない場合はスピード勝負です。浄力者を死ぬ気で、言葉通りです。死ぬ気で守り、呪術が発動する前に必ず殺してください。その上で焼き払った後、浄力で完全消滅させてください。必ずです。中途半端に何かを残すと、怨霊になって自分を殺したものに憑りつきます」
「いや、狙撃に爆破って……」
「最初から殺害目的は流石に拙いだろう」
ここら辺はクラスでも説明した事だけど、びっくりして囁き合う先輩の皆さん。だが武闘派学園長の教育を受けたマッスルと橘お姉様は驚いていない。いやあ、間違いなく学園長の教育の賜物だ。という訳なんで、困ったように学園長を見ても答えは一緒ですよ。
「貴明の言う通りだ。こと呪術師に対して制圧するという考えは捨てなさい。最初から我々がとらなければならないのは殺害で、警察も民間に被害がないなら爆破も含めて黙認してくれる。呪術師とはそういう相手なのだ」
一番後ろの席に座ったゴリラが補足してくれて、おおっとどよめく声が討論エリアに満ちる。こうやって時たま来るゴリラが、頷いたり補足してくれるから、余計に俺っちがただならぬ主席という事実が広がり、ここに来る先輩達が増えるんだろうなあ。でも緊張してタール吐きそうなんで、ちょっと勘弁してもらえませんかね?
あ、異能至上主義者の西岡君がやって来た。ほんの数日前から彼もここに来るようになってきたんだけど、なんか俺がここでやってる事って主席じゃなくて教師なんじゃ……。異能学園呪術担当非常勤講師、四葉貴明。名乗っちゃうか? いけるか? 将来、四葉夫妻異能相談所を運営しながら、非常勤講師としてやって来る。選択肢としてありか? ありなんじゃ。




