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序章

「さぁ、行こうか〝ZI〟」

まだ声変わりすら果たしていない、神秘的な風貌を持つ少年が語りかけた。

少年の髪は色素が抜け落ちたように白銀に輝き、瞳はルビーのように鮮やかに輝いている。

顔つきはまだ幼さを感じさせるというのに、その眼差しはどこか、この世を達観した仙人のようにも見えた。

「これが本当にあの地球とはね。このモニターから見ても正しく死の星だと一目でわかるよ」

少年は四方八方を緻密な機械で覆われたコックピットの中から、外界の様子を眺めていた。

コックピットのモニターの画面には一つの惑星が映し出されている。

少年が哀れむような眼差しで見つめる星は真っ赤に輝き、まるで太陽のように熾烈な光を放っていた。

ーーしかし、この星は太陽ではない。

そう、生物を何人たりとも寄せ付けないこの星は水の惑星とも呼ばれた地球だ。

地殻内部のマントル爆発が遠くからでも確認出来、地球の命はもはや風前の灯だった。

だがそんな状況下においても、この少年の瞳には絶望の色は微塵も無く、むしろ力強い意志が宿っていた。

ここまで少年が落ち着いていられるのは、これまで何度も絶体絶命の修羅場を潜り抜けてきた経験があるからだ。

即ち、母星が消える程度、慌てる事ではない……少年は本気でそう思っている。

そもそも少年が今立っているこの場所は地球ではない。

ここはかつて人類が唯一足を踏み入れた衛星、月だ。

もちろん生身で月面に立つ事は不可能だが、この少年は宇宙服を身に纏っていない。

代わりに、月面に堂々と腕を組んで立ちながら地球を眺めているのは、身体中を緻密な機械や金属でコーティングされた人型の巨大ロボットだった。

「ナルク、条件は全てクリアされたわ。後8分15秒後に地球と月が最接近する軌道に入る」

聖母のような柔らかい声で、神秘的な風貌を持つ少年・ナルクに語りかけたのは、モニター内に突然現れた美女だった。

ナルクと呼ばれた少年とは違い、成熟した肢体を持つこの美女はただただ美しい。

艶やかな黒髪をたなびかせる美女の顔立ちはあまりにも整っており、まさに人間離れしている。

そう、人間離れという言葉通り、ナルクに微笑みかけるこの美女は人間ではない。

少年ナルクと共に、数々の偉業を成し遂げて来た彼女の正体はこの巨大ロボット、否、人形機動兵器そのものなのである。

ナルクと共に戦場を駆けていくにつれ、唯の人形機動兵器だった機械が次第に自我を持つようになり、いつしかナルクですら実態の掴めない存在へと昇華してしまった。

そんな得体の知れないこの巨大ロボット、正確に言うと人形機動兵器エクリプスの本体である彼女だが、ナルクとの絆はどんなものよりも深い。

どんな時でも、二人はいつも一緒に戦ってきた。

機械と人間、例え種族が異なっているとしても、お互いの考えている事など顔を見ただけで感じ取れる。

見えない絆で二人は繋がっているのだ。

ナルクはモニターの中で元気に走り回る美女に、こんな時でも相変わらずこの相棒は元気だな、と苦笑しながら言った。

「いよいよこの時が来たね。本当にこれで後悔はないかい?」

美女は足を止め、真剣な面持ちで頷いた。

「ナルクの為だもの。でもあなたは本当にこれでいいの? この力を使った先にはとても辛い未来があなたを待っている。今まで必死に人類を守ってきたというのに、人々に讃えられる事はおろか、世紀の大罪人とされてしまう。そうなってナルクが傷付いてしまうくらいなら、いっその事、一緒にここで生きていくとしても、私は構わない」

黒髪を靡かせながら、美女はナルクを見つめて真剣に告白した。

その言葉に万感の思いを乗せて。

だがナルクは相変わらず落ち着き払った表情のまま、一心に己を心配してくれる最高の相棒に感謝の念を送りながら言った。

「ダメだよ、Z1。この世界に残り続けてもそれは生きてるって言わないよ。僕達はまだこの現実を変える手段があるんだ。だから逃げる訳にはいかない。例え僕が全人類から恨みを買う事になったとしてもね。それに……君だけは僕を信じていてくれるんだろう?」

神が創造したのかと見紛う程の完璧なプロポーションを持つ艶めかしい美女・ZIはナルクの言葉を聞いて何を今更……とでも言いたげな表情を一瞬見せ、決意の言葉を告げた。

「当たり前。私はナルクを護るために存在しているもの。ナルクを傷付けるものは何であろうと絶対に許さない」

そんないつも通りの反応を見せるZIにナルクは満足気味な笑みを見せた。

「ありがとう。ところでバックアップ状況はどうなってる?」

「月による当機へのバックアップは98、99%。でも、これだけの支援を受けても、目的を果たせるかは分からないわ」

「やっぱりすごいね。月の全てを持ってしても君の本当の力、“過去への逆行”を果たせるか分からないなんて」

ナルクは軽く目を見開き、感嘆の声を上げた。

ーーそう、ナルクはこの世界に見切りをつけた。

地球の滅びの運命を変える為に、過去へタイムスリップをする。

その為にナルクと巨大ロボット、否、人形機動兵器エクリプス〝ZI〟はこれまで戦い抜いてきた。

人々の最後の希望として。

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