上司との話し合い
僕は職場に行く前に一応電話をしておいた。平の従業員が出たので店長に代わってもらった。
「店長、今からお話ししたいので行ってもいいですか?」
『今か、今、忙しいんだよな。広告入ってるから結構混んでるんだ』
あら、タイミングが悪かったと思った。
「そうですか、では、明日はどうですか?」
『おお、明日ならいいぞ』
「それじゃあ、明日、昼から行きますね」
『午前中に来れないか? 午後から社長が来るんだ』
それはまずい、と思い、
「わかりました。午前中に行きます」
言ってから電話を切った。
今は午後五時頃。母にも、
「明日に職場に行って話しをしてくる」
と、伝えた。返事は、
「仕事続けるの?」
そう言われたので、
「続けるよ、具合いは悪いけど」
「そう。無理し過ぎるんじゃないよ」
「薬飲んでるから大丈夫だと思う」
店長には病気になったことと、働く時間を減らしてもらう話をしようと思っている。果たして伝わるかな。障がい者になった僕を使ってくれるだろうか。不安だ。
翌日、僕は支度を済ませ、職場の電器屋に向かった。
十分程、車を走らせ目的地に着いた。今日の天気は晴れ。天気のように仕事も上手くいくといいけれど。
車から降り、裏口から入った。入った先は、バックルーム。客注のものや、在庫で溢れていた。相変わらずお客は少ないようだが、在庫はたくさんある。
「お疲れ様でーす」
若干、小声ではあるが挨拶した。従業員に聞こえなかったのか、返事がない。スタッフルームのドアの前に立ち、ノックをした。中から、
「はい」
と、いう声が聞こえた。
「小島です」
少し声を張って言った。少し間があり、
「入っていいぞ」
「はい」
何で間が空いたのだろう。気になる。ガチャリという音と共に、ドアを開けた。
「お疲れ様です」
暫く来ていなかったのでちょっと気まずい。
「久しぶりだな」
店長はパソコンで仕事をしながらそう言った。こちらを見ていない。
「お話ししたいことがあって来ました」
「ああ。俺も話したいことはあるんだ。小島君の方から話していいぞ」
「はい、わかりました。僕、うつ病になってしまいました。それと、薬を飲みながら働かせてもらいたいと思っています。短時間で」
また、間が空いた。何故……。
「そうか。働く意欲はあるんだな」
「はい」
そして、ようやくこちらを向き、
「一昨日、社長と話したんだ。君のことで」
「はい」
「働く意欲があるのは分かった。だが、小島君はここの店舗では働けない。人の足りない他店舗に行って欲しい。住む場所なら大丈夫。用意するから」
僕はその話を聞いて驚いた。そして、
「さっきも言いましたが、短時間で働かせてもらいたいんです。だから、他店舗に行っても生活出来ません」
店長は渋い顔をした。
「これは、社長の命令だ。この話を呑めないようなら、これ以上言わなくてもわかるだろう?」
「……短時間での勤務は無理ってことですよね」
「そうだな、悪いが」
予想外の展開に僕は戸惑った。まさか、他店舗に移動とは……。
「ちなみに、他店舗ってどこですか?」
「隣町だ。家は用意するが、実家から通うことも可能だぞ」
その話しを聞いて僕は少し気持ちが明るくなった。この仕事は続けたいから隣町なら実家からでも車で通える。
「だが、君、うつ病なんだろ? 大丈夫なのか?」
やはり、その話しになったか。まあ、当然だろう。
「薬を飲んでいるので何とかなると思います」
店長は腑に落ちない顔をしている。何に納得がいかないのだろう。僕はじっと店長見ていたら、
「小島君はどうしてうつ病になったのか考えていたんだよ。心当たりはあるのかね?」
確かに思い当たる節はある。だが、言い出しにくい。でも、言うチャンスだ。なので、勇気を出して言った。
「……お客さんから怒られることが増えてきて、その頃から体調が不調になってきたんです……」
僕は俯きながら言った。店長の表情をチラリと窺うと眉間に皺を寄せていた。
「……君そのこと誰かに言ったのか?」
「いえ、言ってません」
「そうか、他の店舗でも仕事が原因で病気になって治療の為、休暇をとっている従業員がいるんだ。その人は労災扱いになったがな。君はどうする? 君が望むなら社長に掛け合ってもいいぞ? 午後からここに来るし」
僕は考えた。労災を受けるってどういうことだろう。居づらくならないのかな。そのことも訊いてみると、
「そんなことはないだろう。正当な理由なんだから」
「そうですか、ではお願いします」
この後、店長には実家から通う旨を話し、再度、労災の手続きをお願いした。