幸運の女神に見放された僕
パソコンの知識では辰巳先輩には負けないと思う。だから、なるべくならこの職場から離れたくない。彼は彼で、僕のほうが劣っていると思っているかもしれない。お互い様だ。今の職場を続けるためにはこの気分をなんとかしないといけない。じゃあ、どうすればいいのか。僕は霊に憑りつかれていると思っている。そのことを父に話した。すると、
「それは絶対に違うとは否定できないな。うーん……。どうしたらいいかな。まずは、お祓いに行ってみるか?」
その考えはなかったな、さすが父だ。
「神社だよね? いくら払えばいいかな」
「そうだな、ネットで調べてみろよ」
そう言われ、僕はスマホを開いた。検索してみると、祈禱料と言うらしい。相場は五千円と書いてある。痛い出費だな。でも、除霊してもらって良くなったらそれに越したことはない。神社はこの町には一軒しかないからそこに行こう。
だが、食欲もあまりなく、食べていないからすこし歩くとフラフラする。なので、父に頼んで連れていってもらうかな。そう思い、二階の自室に居た僕は今思ったことを話すため居間に向かった。
部屋から出て、階段を降りる時だ。僕はふらついて一階に転げ落ちた。ドタバタ! ガタガタ! と凄い音がしたせいか両親がやって来た。横たわっている僕に向かって父は、
「達郎! どうしたんだ! 大丈夫か!」
と、叫んだ。母は、
「もしかして階段から落ちた?」
動けないでいる僕は悲しい気分になった。身体中痛いし。起き上がろうと身体を起こそうとしたら足に激痛が走った。
「痛っ!」
僕が足を抑えると母は、
「足が痛いの?」
と、訊かれたので何度も頷いた。もだえる僕を見て父は、
「立てそうか?」
言うので、もう一度立とうとしたら再び激痛が走った。僕は足を手で押さえながら、
「無理……!」
そう言った。父は母に、
「救急車呼んでくれ!」
と、言い、
「分かった!」
母は居間に行き、自分のスマホで救急車を呼んだ。
十分程でけたたましいサイレンの音を立てながらやって来た。ピンポーンとすぐにチャイムが鳴り、母は急いで玄関に向かって走った。
救急隊の迅速な対応で僕はこの町の総合病院に運ばれた。救急用の入り口から搬送され、白衣を着た中年のおじさん、きっと医師だろう、がやって来て僕に話し掛けた。
「右足が痛みますか?」
「はい……太腿が……」
すると、傍にいた看護師に、
「右足の写真撮って!」
と指示を出した。
レントゲンを撮ってからの診断は、大腿骨骨折、というものだった。即入院になった。なんてこった……。でも、自分の不注意だから仕方がない。入院期間は三十日の予定。
ほんと呆れるくらい僕には幸運の女神に見放されている。お祓いは退院後だ。