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眠らぬ民の国  作者: 深(深木)
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 久しぶりの投稿で大変緊張しますが、ちょっとシリアスな設定の小説が読みたくなったので書かせていただきました。


【注意事項】

 この物語はストーリーの性質上、ゾンビやレヴァナントやスケルトンといった死体損壊などの表現や戦闘シーンに伴う流血表現、奴隷が登場したりしますので苦手な方はご注意ください。

 また、主人公は奴隷の身からスタートの成り上がり(?)➡世界を救済といった感じの流れになりますので、初めのうちは生きていることに絶望しており、とてもネガティブです。

 こういった系統の物語は苦手だな、という方はそっとページを閉じていただけますと幸いです。



 上記の条件を踏まえた上でお読みいただける方がいらっしゃいましたら、拙い小説ではございますが、お目を通していただけますと誠に嬉しく存じます。


※2023.3.18に加筆修正させていただきました。

 世界を成形するエネルギーを代償に、創世の大神が定めた世の理を覆す“魔法”。

 かつて“魔法”とは大神が生み出した多種多様な生き物が共存できるように地形や季節、天候を調節する役目を創世の神より与えられた神々だけが知る特別な技巧であった。

 しかしある時、世界環境を調整するための秘技であった“魔法”の存在を、神々に管理される生物の中の一種にすぎなかった“人間”が知覚した。そして人間達はいつしか、世界の管理者たる神々にのみ許されていたはずの“魔法”という秘技を生活する手段の一つとして認識し、日常生活の中で利用するようになっていった。


 そして数百年の時が経ち。


 当初は一部の限られた人々しか使えなかった“魔法”は、長年の研究によって“呪文”という鍵となる言葉を使用することで誰でも簡単に使えることが明らかにされ、老若男女問わず利用できる手軽なものへと変化した。

 “魔法”という便利な手段を手に入れた“人間”達。力仕事や危険を伴う重労働から解放され、安全で快適で豊かな生活を手に入れた生物は順調にその数を増やし、住処を世界中へと広げていく。

 急速に消費されて悲痛な声を上げる“世界”に、気がつかぬまま。

 

 魔法で鉱物を採掘する度に、雄大な山を成していた土や岩が一片また一片と消失し。

 魔法で魚や貝を獲る度に、豊潤だった海の水が一掬いまた一掬いと蒸発し。

 魔法でゴミを燃やす度に、星を守る大気が一握りまた一握りと消えていく。


 人間達が魔法を使えば使うほど世界を形成するエネルギーが消費され、生きとし生ける数多の命のために美しく整えられていた自然環境が壊されていった。神々が苦心して作り上げてきた調和が崩された世界は刻々と形を変えていき、環境の変化についていけなかった種が続々と息絶えていく。そうしてゆるやかに成長する世界に合わせて緻密に計画されていたはずの環境変化と生態系は、“人間”によってあっという間に組み替えられていった。


 急速に変化する世界。


 良い変化もあれば、悪い変化もあり。

 嵌まるピースもあれば、嵌まらないピースもある。

 目まぐるしく形を変える世界は高速で流れ落ちるテトリスのようで、いつしか管理者である神々の手腕を以てしても制御するのが難しいほどの変貌を遂げていた。

 神々の意思を介さず動き出した世界は、留まることを知らず。

 暦通りに巡っていたはずの四季が狂い始め。

 旬の食材が時季になっても収穫できなくなり。

 町が沈むほどの豪雨や大型台風の到来し。

 山が崩れるほどの大地震が起こるようになり。

 いつとはなしに、これまでの常識が覆される規模の自然災害が世界各地で頻繁に見受けられるようになっていた。


 けれどもそれは、決して不思議なことではない。


 休む間もなく働かされ続けた人間が過労で倒れ、精神的に追い詰められて心を病んでしまうように、世界を成形するエネルギーを日夜生成し、大地や海や空や風といった自然へと作り変えて環境を整えている神々にも限界は存在するのだから。


 そう。

 我々が生きるこの世界は“有限”なのである。

 

 人々は、その事実に気がつき始めていた。

 しかし煩悩にまみれた“人間”は知ってしまった快適さを失うことを恐れ、便利な“魔法”を手放すことができなかった。世界が上げる悲鳴に心のどこかで罪悪感を抱きながらも耳を塞ぎ、知らぬ存ぜぬを決め込んだのだ。


 そうして迎えた今日。


 相も変わらず消費し続けるだけの人間達に付き合いきれなくなった神々が、吐き捨てるように告げる。


 “この世界は飽和している”と。



   ***



 ――西暦××二十四年


 その時は、突然訪れた。

 今日は少年の誕生日。だからこれから少年はこの世に生まれ落ちた奇跡に感謝を捧げ、愛する家族と一緒に成長を喜び、祝い、皆と過ごす幸せな未来を神へ願う予定だった。


 美味しいご馳走を食べて。

 明るく賑やかな曲を歌い。

 歳の数だけケーキに立てた蝋燭の火を吹き消して。

 祝いの言葉と誕生日プレゼントをもらって。


 年に一度の誕生日をめいっぱい楽しんで、大好きな家族に囲まれながら心温まる時間を過ごすはずだった。

けれど、少年が思い描いていた幸せは、突如現れた不遜な侵入者に叩き壊されて崩れ去る。

 優しい空気が満ちていた部屋の中は、“神”と名乗る男によって跡形もなく破壊されていた。壁を華やかに彩っていた飾りつけは壊され、無残な姿となってぶら下がり、美味しそうな湯気をくゆらせていたご馳走の数々は、ひっくり返った机や床に汚くぶちまけられている。

 そして、中央には血だまりに沈む家族の亡骸。

 凄惨なその光景から目を逸らすことができず、少年は立ち尽くしていた。


 しかし、そんな時間は長く続かず。


 茫然と佇む少年へ、この惨状を作り出した神が告げる。


「この世界は飽和している」

「……ほう、わ?」

「そうだ。人間を含め、この世界に存在する生物は皆、我々が世界を構築するために生成し・育み・調整している自然(エネルギー)をなにかしらの形で消費して生きている。日光を浴びたり、水を飲んだり、地中に溜まった養分を吸収したりしてな。そうするように作られた存在だから、それらの行いすべてが悪いことだとは言わない。だがお前達“人間”は数を増やし過ぎたし、成長し過ぎた(贅沢を知りすぎた)。この世に存在するエネルギー量ではもう賄いきれない。“人間”という種はこの世界に溶け込むことなく溢れだしている」


 神が語った内容は十三歳になったばかりの少年には些か難しく、理解するには時間が必要だった。その上、視界を埋め尽くす凄惨な光景に激しく混乱しているようで、少年は不明な点を尋ねるどころか、泣き叫ぶことも怒り狂うこともままならぬまま、ただ茫然と目の前に立つ男を見上げることしかできずにいた。

 しかし神とは無情なもので。

 家族を殺された子供の心情など理解できない()は、声を発することすら忘れて立ち竦んでいる少年の姿を、静かに己の言葉に耳を傾けているのだと解釈し、どこか得意げな様子で滔々と語り出す。


「人間が魔法を使うようになったことで、短期間に大量のエネルギーが消費されるようになった。数が少ないうちはそれでもなんとかなっていたが……もう、限界だ。数が増えた今、人間達は我々が作り出す以上に消費してしまっている。不足分を補うために休む間もなく働き続け、体力の回復が間に合わなくなった者は命を削って無理やりエネルギーを捻出している状態だ。特にここ数十年はひどく、文字通りこの世界へ身を捧げきって消滅してしまった神も多い。そうして働き手が減った分、さらに管理が行き届かなくなり昨今の世界は大変不安定だ。天候や四季も乱れてしまっている。このままでは近いうちに自然(エネルギー)は暴走し、せっかくここまで作り上げた世界が崩壊してしまう」


 教師が生徒に勉強を教えるような物言いで世界の現状を説いた神は、憂い帯びた表情を浮べるとあきれたように溜息を一つ零す。次いで血だまりに浮かぶ遺体に視線を落としたかと思えば、悼む素振りすら見せずに再び少年へと目を向けた。


「世界の崩壊を防ぐには、お前達が暮らす現世も、我々が暮らす天界も、かつての姿を取り戻さねばならない。そして、そのためには増え過ぎた“人間”を減らす必要がある。この者達に"死”を与えたことも、限界に達している世界を救うためには必要なことなのだ。どうか理解してくれ」


 神は至極真面目な口調でそう告げると、少年に背を向けて歩き出す。迷うことなく進むその視線の先にあるのは見知らぬ人々の姿だった。


 彼らは一体いつからあそこに居たのだろう。

 まったく気が付かなった。


 上手くまとまらない思考の中、少年はぼんやりとそんなことを考える。

 一見すると共通点などない多種多様な人間の集まりのようだが、男を迎える眼差しが親しげな点から考えるに、彼らの中身は今しがた対話していた男と同じく、人々が“神“と崇める天界の住人なのだろう。

 神とはエネルギーの塊であり、現世に居ると徐々に溶けだして世界を成形するエネルギーと混ざり合い、やがて還ってしまうのだと聞いたことがある。だから彼らは、世界に吸収されてしまわないようにああして人間の体を入れ物として利用し、自身(エネルギー)の流出を防ぐのだそうだ。過去の人々はそれを『神の降臨』や『神が信託を授けに来た』と喜び、祝ったらしいが……。

 これは違う。

 今、俺の目に映る神々はそんな良いものではない。

 彼らは、終焉を告げに来たのだ。


 この“世界”を守るために。


 去り行く神の背に迷いはなく。

 少年は、これから人々の身に降りかかる惨劇は避けられないのだと悟る。現世で活動する身体を得た彼らは、これから管理可能な数になるまで人間を減らしていくのだろう。

 そのために、彼らは現世に来た。

 どこの国の歴史書でも、かつて現世に降臨した神が人間の繁栄を願い魔法という英知を授けたと伝えられている。しかしその神々が今、増えすぎた人間達を世界のために淘汰しようとしている。


 ――ああ。神とはなんて、

   傲慢で、理不尽な存在なのか――。


 これでは管理される側である生き物の中の一種にすぎない“人間”など、ただ、絶望するしかない。そう理解した瞬間、先ほどから胸に浮かぶ疑問が少年の口をついて出た。


「……僕、は? 僕は何故、殺さないのですか?」 


 僕もここで、と仄暗い未来を望む少年の声は、恐怖からかか細く震えていた。

 しかしそんな少年の願いはちゃんと御身の元まで届いていたようで、迷いなく進んでいた彼の足が止まる。そして振り返ると、神は少年に向かって優しく微笑んだ。


「今日はお前の誕生日だったのだろう? 我からのプレゼントだ。お前は創世の大神が定めし“人間”の天命を最後まで謳歌するがいい」




 我々の真意を伝える人間も必要だしな、となんてことはないように口ずさんで。さも、良いことをしたとでもいう風に仲間と共に淀みない足取りで去っていく彼の背を、少年は呆然と見送るしかなかった。


 神々の姿が見えなくなり。

 

 徐々に足音も遠のいて。


 なに一つ音が聞こえなくなったところで、限界を迎えた少年は膝から崩れ落ちて血だまりの中に座り込む。服に染み込む血液は冷たく、噎せ返るような生臭さが鼻を衝いた。

 少年は、えずくように咳き込む。

 わが身を焼きつくすような痛みや内臓を搔き混ぜられたような苦しみが胃の中からきているのか真っ黒に塗りつぶされた心からきているのか、少年にはもはや判らなかった。


 エネルギーを大量に消費し続ける人間を減らさなければならない。

 この世界の守るためには必要なことだ。

 そう、神は告げた。

 僕の家族の“死”も、その内の一つにすぎないのだと。

 でも、なぜ僕の家族でなければならなかったのだろう。

 もっと先に殺すべき人間がいただろうに。

 考えなしに世界を消費してきた“人間”だから仕方ないのか?

 自業自得だから、恨まずに理解を示せと?

 家族をこんな無残な姿にされて、奪われたのに?

 独り残されるこの命が誕生日プレゼント?


 神の言葉を反芻し。

 変わり果てた我が家と家族の姿を眺めた少年は、嗤う。


「ハハッ――――ふざけんな。神々の意思だろうが、世界を守るためであろうが、知ったことか。あいつら全員! 一人残らず探し出して! 今日の報いをその身で払わせてやる!」


 僕の家族を犠牲にして成り立つ世界など、いっそ壊れてしまえばいい!


 二度と戻らぬ幸せを想い復讐を誓った少年が声を震わせて叫ぶ。

 その頬には溢れた涙がとめどなく流れていた――。



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