1話
ある春の晴れた日、俺は少し前に目の前の少女のお供になった
いや、仲間にさせられたんだ、忌々しい師匠によって
ピンク色の長いポニーテールとピンク色の武士袴が特徴的な可愛らしい少女だ
この少女こそかつての鬼達をほぼ1人で退治、もとい虐殺した桃太郎の孫娘
名前はモモ
「どうしよう!?分かれ道……」
(おいおい…城下町からまだ1kmくらいしか離れてないのにもう道わかんないのかよ……、よく旅なんかしようと思ったなこの姫様は)
そう思ったが仕方の無い事だ、目の前の少女は少女と言うには若干幼く幼女という言葉もまだ似合うくらいなのだから
話相手なら微笑ましいのだろうが、旅をしていく仲間、護衛対象としては心元なかった
モモは祖父の農民癖のおかげで一国の姫と言うよりは農民と武士を足して2で割った様な少女に育った
もちろん周りから愛されてはいるがお転婆な所がありマナーは一般人並、『姫』としては壊滅的だった
しかし腐っても姫は姫、城下町から外には出たことが無い
まあ、城下町内だけとはいえ城の外を知っていただけでもまだマシな方か
俺はそんな事情を知ってはいたので特に期待してもいなかった
いつもの無気力そうな顔で少女に道を教える
「右だ 」
迷わず教えてくれたことにモモは少し驚き、ピンク色の武士袴とポニーテイルをゆらしながら振り返る
「そうなんだ!ムクロはこの辺り詳しいの?」
(この辺りはお前の故郷だろうが……これだから箱入り娘は……)
思うところはかなりあるが言ったところで意味がないので適当に質問に答えておく
「俺は日本全国どこでも詳しい」
「へぇ~!スゴい妖怪なんだね!でも、そんなにスゴいのに聞いた事ない妖怪だよ?」
モモは右に曲がり後ろ歩きになり俺の方へ体を向けながら質問してくる
「ムクロは妖怪名じゃなくて師匠が俺に付けてくれた名前だ、お前も「私は人間です」って名乗らないだろ?」
モモがそっかそっかと頷きながらこちらを見てくる
俺の格好が……白髪に黒のマント、茶色い杖型の仕込み刀を持っている姿が珍しいのだろう
モモは俺を観察した後少し考え
「ムクロってさ、どれくらい戦えるの?」
ついでとばかりにまたまた質問してきた
この世界には"魔法"などの不思議な力があるので強い妖怪やモンスターが筋骨隆々だったり凶暴だったりする訳では無い、大人しく弱そうであっても強い妖怪も存在する
逆に物知りで強そうだが戦闘力は皆無、人間の子供でも倒せるほど弱い妖怪なんて事はざらにある
「俺は、戦闘は基本的には"できない"」
「ふーん、そっか…でも大丈夫だよ!」
それを聞いてもモモは一瞬残念そうな表情見せたが、直ぐにこれみよがしの笑顔をこちらに向けた、戦闘は任せて欲しいという意思表示だろう
モモは誤解している様だが俺が知る限り俺は今の日本で3番目に強い妖怪だし目の前のモモを殺す事だって赤子の手を捻るより簡単に出来る
旅先で出会うほとんどの敵が俺にかかれば瞬殺だろう
『それでは旅がつまらないでしょう?』
そんなくだらない理由で師匠に一部例外を除き戦闘を禁止されてしまった
(まぁ、お前もある程度強いから俺が出なくても何とかなるとは思うけど)
「改めてよろしくね!」
俺はモモの年相応に元気で無垢な発言から溢れる自信にどこか、モモの生物学的な強さ、他人は自分よりも弱いと無意識に決めつける傲慢さをも感じた
だがそれも仕方がない、勘違いされがちだがモモは人間じゃない
人間の形をして人間と交配できる、桃から産まれた化け物と人間のクォーターだ
モモの目に人間は、人間の形をしている俺はか弱く写っているのだろう
(…まぁ、化け物は俺もかそれに俺らは
──"同類"だしな…)
「…よろしく」
色々と誤解があるし言いたいこともあったがだが、面倒くさかったので普通に流しとくか
(それにしても子供のおもりをしながら目的地への旅なんて、師匠から出された卒業試験
じゃなきゃやらないんだが……なんせ目的地はあの──)
──天竺──
天竺、言い伝えによるとそこは辿り着いた者の願いを何でも叶える場所、今まで多くの者がその場を目指し帰らぬ人となった
くだらない
俺は心底そう思った、モモという少女が何を思い何を願ってそんな危険な旅をしようと決めたのか正直分からない、分からないが
(…どうでもいいか、俺はただこのガキを天竺へ連れていくだけなんだから……)
分かれ道を通ってからからどれくらいたったのだろう、他愛のない会話をしながら気付けば空は徐々にオレンジ色になろうとしていた
辺りを見渡せば見通しの悪い木々が生い茂り、道と呼べるか怪しい道を進んでいる
それだけならまだよかった、何かがこちらへ向かってくる音が聞こえてきた
モモもそれに気付いたのか音のなる方に目を移らせる
木と茂みを大きく揺らし、隙間から金棒を持った鬼が3体も出てきた
典型的な赤色の皮膚に虎とらのパンツ、好戦的で人や家畜を襲っては食す化物
通常の鬼は武士なら3人分の強さがあると言われ、旅人が鉢合わせしたらまず助からない
だが、この時俺が真っ先に感じたのは恐怖では無く違和感であった
(おかしい……普通この時間こんな所に鬼はいない……)
妖の類は昼にこんな所で歩き回らない、狩りをするにも夜目が利く鬼がわざわざ動物達が寝ていない時間に動く理由がない
(ま、なんで居るかは何となく検討がついてるんだが……)
俺は今までの経験からこんな"イタズラ"をする犯人に心当たりがある、というか心当たりしかない
「ぐへへ、いい肉とオンナ─」
鬼が喋り終わる前に──
─鬼の首が体とお別れした
どうやら鬼は女を見る目がなかったようだ
それはもちろん幼女だからという理由ではない
自分達の天敵を可愛らしいと思ってしまったからだ
モモが鬼を見つけた後の対応はまるで風のように素早く異常なまでに完璧すぎた
鬼退治の神"桃太郎"の孫娘に恥じぬその動きは
鬼を見つける→落ち着いて周囲の状況確認→鬼を殺しに行く
この一連のシンプルな行動を簡単にやってのけた
突発的な状況で行動する難しさは、熊に会ったら落ち着いて後退りするのに似る
11歳の子供にが出来るはずがない、流石は鬼狩りの一族といったところか
「ッ!!……この女つよ──」
目の前の少女を見習って口より体動かせ
そんな事を思いながらもう一体の鬼が切られていく様子を眺めた
「いでぇえ!」
無慈悲にも鬼の身体に切り傷が増えていく……が、鬼の生命力は強く、筋肉も硬い、急所をやらない限りそう簡単には死んではくれない
斬られながらも手にしている金棒でモモを殴りつける
俺は助けようと思えば助けられた、だが
助けには入らない、この先もそうだろう格下相手にいちいち戦っていたら肝心な時に戦えなくなってしまうかもしれないから
だから今はただ聞いていたかった、聞いてみたかった──化け物が鳴らす音を
それは、金棒がモモの頭を捉えた瞬間だった
鍛冶屋でよく耳にする鉄と鉄を打ち合わせたような音が──鳴り響く
!!!
鬼が驚くのは当然だが俺も少し驚いた、モモの頭蓋骨の強度は石を通り越して鉄並の硬さらしい
(アイツ一応人間だよな……)
純粋な人間じゃない事は知っていたがここまでとは思っていなかった
「……怪我の具合は?」
今後の為にこの一撃でどれだけダメージを受けるか医者の様に確認しておく
「うっ…痛い…」
((痛いで済むんだ))
鬼と心が通った気がした
普通痛いじゃ済まない、大の大人でも頭が吹っ飛ぶ
痛みで頭を抱えながらも、その少女に似つかわしくない獰猛な捕食者の目は鬼をしっかり捉えていた
モモは刀を握り直すとお返しにと言わんばかりに鬼を斬りまくる
そこにはハチの様な荒々しさだけ、蝶の様な優雅さは微塵もない
途中手加減をしなくなったせいか、鬼の体は見るも無惨な残骸と化した、これを細かく描写したらR18指定されそうだ
(おいおい……11歳の頭お花畑のガキがなんてバイオレンスなことしてんだよ…)
俺は11歳の子供とは思えない少女を見て人間性を疑った
しかし同時に不安も少なくなる
返り血を浴びても何とも思わない心の強さ、鬼を殺せる身体の強さがある子供なら守るのも楽だからだ
(それに、鬼の肉は調理すると美味しいからなぁ~、てか、コイツ鬼の肉食ったことあるのか?)
鬼は強いし数も少ない、それに正しく料理しないと食べたら呪われるので普通は食べない
(まぁ、鬼狩りの一族なら食っててもおかしくねぇか)
「今夜は焼肉にするか」
「うん!」
(……食った事あるんだな)
「ばッ!ばけもの!」
鬼は勝てないとふむと、金棒を捨て後ろを向き全速力で逃げる、いい判断だ
最強の護身とは逃亡であり走って逃げる相手を斬ることは結構ムズい
「すぅ〜はぁ〜」
しかしモモは落ち着いて刀に手をにぎると刀を勢いよく降り下ろした
するとカマイタチと同じように斬撃が発生し鬼の足を目掛けて飛んで行った
飛ぶ斬撃──
それは剣を使い遠くにある物を斬る技
物理的にカマイタチを発生させてさせて切る場合もあれば、剣気等のエネルギーを飛ばす等、様々な種類の飛ぶ斬撃がある
(すごいな……飛ぶ斬撃が使える武士はそういない、しかもコイツは"例外"だ)
俺は冷静に状況分析しつつ足を─アキレス腱を斬られ悶絶している鬼を遠目に見ていた
「いでぇぇ~たすけ─」
鬼が最後の言葉を言い終える前にモモの剣が鬼の首をを斬り裂いた
「鬼に与える慈悲はない」
(コイツほんとに11歳か……?)
「って、おじいちゃんも言ってたよ!」
(物騒な受け売りだな……)
パチパチと音を鳴らしながら暖かい炎が揺らめく
近くには川があり身を隠せる木々ある場所がある
俺たちは帰り血の洗濯や寝床の確保、また暗くなってきた為火を起こし1晩過ごすことにした
モモは炎の音を聞きながら待っていた肉が焼き上がるのを確認するやいなや
「んん~!美味し~!!」
鬼の肉に食いついた
鬼の肉を木に刺して焼いただけだが口にあったらしい
「……ムクロは食べないの?」
鬼の焼き肉が沢山出来上がる中、一向に手をつけない俺を気にしてモモが首を傾げた
「俺は別に何も食べなくても生きて行けるからな、食料は食う必要のあるやつだけ食った方が合理的だ」
俺ははモモの方を振り向きいつもの真顔で返答した
そっか、とモモは納得し食事を再開する
俺はそんなモモをよそに近くに落ちている太い枝木を拾うと
「モモ、ちょっとこの枝握りつぶしてくれ」
そう言ってはモモに枝木を投げ渡すと
「なんで?」
モモが握れるかどうかギリギリの枝を掴むと同時に枝木は難なく粉砕された、乾燥していた訳でもなくてある程度湿っていたのに
(普通武士が飛ぶ斬撃を使えるようになるのは早くて20歳、天才なら14歳と言われてる……)
人は動かないように意識してもどうしても少しだけ動いてしまう、全くブレないというのは不可能に近い
普通、飛ぶ斬撃は刀を振る時のブレを少なくし"剣気"(気力やオーラの1種)を乗せて飛ばす技
(だがコイツは軸もブレてるし剣気も少ない、コイツは剣気と言うより純粋な気力と力だけで飛ぶ斬撃を生み出してる……バケモンだな)
鬼の肉を食べ終えた後、暗さや疲れもあったのだろう
俺がが色々考えているうちにモモは無防備に寝てしまっていた
天使のように可愛らしい寝顔をしながら
(おいおい……無用心すぎだ、、いくらガキだからって襲うヤツはいるんだぞ)
お姫様あるあるの布団がないと寝られないという事態は回避できたがサバイバル術を身に付けさせるにはまだまだかかりそうだ
「はぁ……顔は整ってんだから」
「ハハハ、ですよね~可愛いですよね~ヤリたいですよね~ぐへへへ」
「アンタみたいな変態に捕まって売り飛ばされるかもって言ってんです」
俺の後から僧侶の服を着た猿……いや、エロザルがひょっこりと出てきた
「人が真面目に心配してるのに茶化さないでくださいよ
──師匠」
この師匠と呼ばれた男こそ
頭に緊箍児という金色の輪を頭に付け、いつもニコニコ顔をしている
最低のエロザル……もとい
最強の妖怪「孫悟空」である
読んでいただきありがとうございますm(*_ _)m
1話で引き込むのが苦手なので読み進めていっていただけると幸いです(言い訳)( ̄▽ ̄;)