5.パンドラ
神夜の指先が、白い箱に触れた瞬間、箱が開き、眩いほどの光が柱となって顕現した。するとーー
「グギ、ギュグルァー!GyURuグgi…a……」
光に照らされた化け物が、断末魔をあげながら、消えていった。
光の柱は、空に届くと、四方に飛び散った。幾本もの光の筋となって、世界中に飛んでいったのだ。もちろん、その場に落ちる光も幾つもあった。そしてそれは、数分間続き、やがて収まっていった。柱の元となっている白い箱の近くに、数本の光が吸い込まれていったのを最後に、光は消えた。
神夜と彩華は、柱が消えかかる寸前、自分達の身体に、光が入ってきたのを見たと同時に、意識が飛んだ。
※※※
「………!し…や、ねえ神夜、起きてって!」
気がつくと神夜は彩華にたたき起こされていた。
「…!なんだ!?どうなったんだ!?俺…た……ち……こ、ここは?」
神夜は周りを見て困惑した。なぜなら、そこは、床も天井も壁もなく、ただ白い空間があったからだ。
隣には彩華がいる。さっきと同じ服だ。自分の腕と脚をみると、血は出てないものの、やはり無くなったままだった。自分の身体が消えた事に喪失感を覚えたが、今はそれどころではない。
「彩華、ここがどこか分かるか?」
「ううん。分かんない。」
と、その時。
[あら、起きたのね。ごめんなさいね。なんの説明も無く連れてきちゃって。]
いきなり、不思議な声がした。
「!?誰だッ!出てこい!」
[ああ、そうね。そのままじゃ見えないよね。]
すると、声と同時に神夜達の前に、美しい女性が現れた。それは神々しくさえもあった。
[私の名はパンドラ。そなたたちに箱を送った者だ。]
「なに!?ならあの白い箱はあなたが…?」
[そうね。それと、あれは”白い箱”ではなく、パンドラの箱だ。]
「ねえ、もしかしてパンドラの箱ってあの希望だけが残っていたっていう…?」
[ええ、そうよ。ずっと昔に私が開けてしまったときは負のエネルギーが全部出ちゃってね。慌ててしめたら希望だけが残っちゃってね。これはこの世界が本当に危なくなった時に使おうと思ってたんだけど、どうやらもうその時みたいだからね。]
「!?…あの化け物のことですね?」
[いや、実はね、あれが来る前からこの世界には怪とか宇宙人とか、危ないやつらはいたの。それがいままでギリギリのところで抑えられてたのに、あれが来たせいでその均衡が崩れ、今この世界はかなり危険なの。]
「それでそのパンドラの箱とやらを出したってことか。だとすると、その奇跡とやらは敵に有効なのか?いやそれよりどういうものなんだ?」
[そうね。それを説明した方が早いわね。まず、パンドラの箱によってもたらされた奇跡は、その名の通り、人に奇跡の力を与えるの。どんな力が得られるのかは人によって違うし、人類全員に与えられるわけじゃない。]
「つまり、その能力であの化け物を殺せば良いってわけだな?」
[まあ、そうね。]
「それともう一つ質問だ。」
[ええどうぞ。]
「なぜ俺たちをここに?」
[ふふっ。そうね。簡単な事よ。あなたたちがグレイカルス、ああ、あなたたちが開けた黒い箱から出てきたあの化け物の名前ね。ついでに黒い箱はミドラの箱、やつが造った化け物どもはカルサイグって言うらしいわ。異世界の言葉だから意味まではしらないけど。まあ、それらにあなたたちが関わりすぎてたって事ね。]
「まあ、あの箱を開けた張本人だからな…。それが理由なら分かる。」
「ま、まあね….」
[それじゃあ、最後にあなたたちの能力についての説明をするわね。]
※※※
[よし、これで話す事はもうないわ。そろそろこの空間を保つのも無理そうだし、向こうに戻すわね。]
「ああ。いろいろと感謝する。それでは。」
「ありがとうございました!」
[バイバ~イ]
神夜達は現実の大地へと戻った。