流れ星
どうして……どうしてこんなことになったんだ!
血まみれで、満身創痍の体を引きずるようにして、雨の中、冷たいコンクリートを這いつくばる。
身の毛がよだつような殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り返る。が、母さんだったものはいない。それは、あたりに街頭が一つしかなくてよく見えなかったからか、はたまた本当になにもいないのか。
「助かったのか……?」
一言で例えるならそう、黒い『化け物』だ。なぜこんなことになったか到底理解できるはずもなく、ただひたすらに恐怖心とかすかな安堵の感情しかない。そして僕は膝に手をあてて深呼吸し、興奮した体を落ち着かせる。が、その時、水たまりに映る化け物が僕の目の前に立ってこちらをのぞき込んでいるのが見える。そして奴はどす黒い腕を振り上げた。
少年からはとっくに安堵の表情はなくなり、死を覚悟した。
カチ……カチ……カチ……
勉強机の片隅で、教科書や参考書に埋もれた置き時計を針の動く音を手掛かりにして探し出し時間を確認する。
「もう……こんな時間かぁ」
時刻は午前三時をまわろうとしている。欠伸と伸びをしながら少年はふと窓の外をぼんやりと眺める。すると空から白い光を放ちながら瞬く間に何かが地球に降ってくるのが見える。
「UFO? いや流れ星か?だとしたら、願い事を。どうか無事に大学、合格しますように」
その時だった、キッチンの方からゴトンッ!!と大きな物音がした。
「泥棒?? いや母さんか?だとしたらどうしてこんな時間に……」
ビクビクしながら階段を降り、キッチンのほうに足を運ぶ。そこにはうずくまった母の姿が月明かりに照らされいた。
「母さん?どうしたの、こんなに夜遅くに。電気ぐらいつけたら?」
「・・・」
「母さん?どうしたの具合でも悪いの?救急車、呼んだほうがいい!?」
「アァ、ウッ……。怜……ごめんなさい。逃げて……!」
「どうしたの母さん?大丈夫?急に逃げてだなんて。それどうして誤って……」
ゴキッ……ボキボキボキボキッ!!!
僕は目を疑ったのと同時に、体が、本能が『逃げろ!』と僕を突き動かした。
一目散に玄関に向かい、靴も履かず飛び出した。冷たい。雨が降っているようだ。がそんな事お構いなしに走る、走る、派手に転んでも尚、走る。
「もう駄目だ」
と死を覚悟したときだった、水たまりに反射して、空から眩い光が僕の方へ降ってくるのが見えた。
「流れ星……?」
奴も驚き上を見上げる。その一瞬の隙をつき、奴と距離をとる。
流れ星が僕の方に降り注ぐ様は圧巻で、轟音を我が物にしている。もはやSF映画の隕石落下のワンシーンの様に見える。僕は超次元的な出来事で脳が理解でなかったのか、もしく徹夜明けのボロボロな体だったからなのか、はたまた、あの光に何故か安心してしまったのか、僕は少し気を失ってしまった。
意識が朦朧とする中、中性的な声が聞こえる。
「間に合ってよかったよ、死人は少ないほうがいいからね」
「あんた……は……??」
「マ~マ~、自己紹介は後ね。とりあえず君を安全なところに運びたいんだけどお家どこかな?」