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8話 ゴールデンウィーク

 5月中間試験。


 高校生活初めての試験であり、我らが暁光学園において、それは4月末から5月初めの休みである、ゴールデンウィークの直後に行われる。


 なぜそんな日程で中間試験を行うのか。

 これはあくまで私の考えなのだが、我が暁光学園は、ご存知の通り学校そのものが進学校というわけではない。しかし、一部の生徒、つまり私たちが所属する進学クラスがあり、そこに所属する生徒が1週間の間、せいぜい宿題をするのみで他の時間に遊び続けた場合、他の進学校の生徒からの遅れが出てしまうことが考えられる。


 また、そもそも進学クラス以外の生徒はテストの成績など全く気にしておらず、どの道勉強をしないため、テストの時期はいつだろうと事実上関係ない。

 そのため、これは私たちに対してのみの、ゴールデンウィークの間に勉強をしておけという学校からのメッセージということなのだろう。

 図書館や自習室はゴールデンウィーク中でも使えるとのことであるし。


 いわゆる超進学校の場合はそういうことを気にせず、どのように勉強するのかを個人の裁量に任せてくれることが多いのだが、暁光学園は、たとえ進学クラスだろうとトップレベルに学力が高い生徒の集まりというわけではないため、仕方のないことだろう。

 全国で争うわけではない普通の学生は、休みの日にはまず遊ぶことを考えるものなのだろうから。




 先日の女子デートから約1週間経ち、4月最後の土曜日となった。つまり今日からはゴールデンウィークであり、テスト期間である。

 あれ以降私は特に変わったことは起こらない平穏な学校生活を送っていた。


 いつも同じことを言っていないかって?当然だろう。たかが1週間でそんなに何かが起きるはずがない。以前も言ったが、平穏な日常自体はむしろ望むところであるのだし。

 加えて、この手の学校にありがちなことだが、進学クラスの生徒は一部の例外を除いて部活に入ることが許されていない。そのため、みんな平日の基本的な生活は学校と家の往復によって構成されている。特別なことなどそうそう起きようがないのだ。

 ……放課後に友人たちと一緒に遊びに行くのは可能だろうって?確かにそうだが、私はまだそれをしたことはない。きっとみんな放課後は疲れているのだろうと思いたい。


 それはさておき、これから1週間何をして過ごそうか。ご存知の通り私は中間試験の範囲は既に学習し終えており、テスト勉強はせいぜい軽く範囲を確認するだけでよいため、現時点においてゴールデンウィークにすべきことが特にないのだ。

 また、弟には野球があり、親も基本的に家を空けることがほとんどである。私は家で1人くつろぐことも決して嫌いではないのだが、1週間ずっとそれでは流石に飽きるというもの。


 せっかくの女子高生生活初の1週間休み。別に特別何かがある必要はないのだが、全く何もしないというのも少しもったいない気がする。一人でどこかに出かけるか? 


 などと考え、とりあえず今日は学校の図書室で本でも読んで過ごすか、と結論付け、学校へと向かい、電車を降りて少し歩いていたところ、校舎から少々離れた位置にあるグラウンドの方向から気持ちのいい打球音が聞こえてきた。


 野球部の練習か。

 そういえば、せっかく日本最強の野球強豪校である暁光学園に入ったにもかかわらず今まで野球部がどのように部活動をしているのか一度も見たことがなかったな。


 どうせ暇なのだし、せっかくだから練習を少し見学させていただいたこうと思い、野球部の皆さんが練習しているグラウンドへと向かった。



 グラウンドには、ネットに向かって打撃練習を行っている部員たちと、以前弟関連で見たことのある監督の方とともに実戦形式での練習を行っている部員たちがいた。後者が上級生なのだろうか。

 それと、私以外にも既に見学をしている人がちらほらいた。学生の姿は私以外にはなかったのだが、大人の方々の姿が見える。あれがいわゆるスカウトの方々なのだろうか。流石にまだ少し時期が早すぎる気もするが。

 その辺りのことは、私は高校野球の世界に詳しくないのでよくわからないのだが、休日とはいえ、練習ですら注目を集めるのはさすが最強の高校といったところか。


 しかし、みんな凄い体格をしているな。遠目で見ているだけにもかかわらず、明らかに普通の学生とは体のできかたが違うのが分かる。それに打撃も投球も守備も全体的に凄く速く、ものすごい迫力を感じる。弟の応援にも行ったことがあるが、ここまでの迫力は感じなかった。これが生で見るトップレベルの高校生たちの野球ということか。



 しばらく練習を見ていたところ、級友である秋山君を発見した。彼はネットに向かって打撃練習を行っている組にいた。


 もし彼が私に気付くようなことがあれば、入学式の日の意趣返しとしてウインクの1つや手を振ったりでもして私の可愛さに動揺させてやろうかと一瞬だけ考えたが、真剣に練習する彼の姿を見たら、そんなこと冗談でも絶対にしてはいけないことだろうということはすぐに理解できた。

 それに、そもそも彼が私に気付いた様子は最後まで見られなかった。




 他に目もくれず、一心不乱に高い目標へと向かって部活動に励む野球部員たち。別にその姿に惚れたりするわけではないが、彼らの姿は非常に眩しく輝いて見える。

 彼らの歩んでいる道は私が今まで歩んできた道とは全く異なった道であるし、これからも、同じ学校に通う生徒や友人として関わることこそあるのだろうが、彼らと私の進む道が交わることは決してないのだろうと思う。

 それでも、今日この場で彼らのこのような姿を見てとても晴れやかな気持ちにさせてもらい、私は野球部の練習を見学して本当によかったなと感じた。




 しばらく見学させていただいたのち、野球部員たちの邪魔にならないよう心の中だけで頑張れとのエールを送り、この場を去ることにした。



 この後は、せっかくだから少々離れた場所で練習しているとはいえ、野球と同じく日本最強と名高い男子バスケや女子バレーも見に行くか。更に時間が余るようであれば他の部活も見学させてもらうとしよう。



 と、このようにひとしきり部活動を見学させていただいたあと、図書室へと向かい、部活動に励む学生たちによる気持ちのいい掛け声を聞きながら小説を1冊読み、帰宅準備をした。




 ゴールデンウィーク1日目。

 暇を心配していたが、終わってみると非常に有意義な時間を過ごすことができたな、と満足しながら帰路に就いた。


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