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6話 レースゲーム

 突然だが、レースゲームというものを遊んだことはあるだろうか?


 今、私が弟の勇人とその友人である田中君、吉川君の3人と一緒に我が家でプレイしているのは、世界的に人気のキャラクター達が各々自慢のマシンに乗って、道中に設置されているギミックやアイテムを駆使して一番早くゴールできるよう競い合うレースゲームである。


 私の前世から続いているシリーズものであり、レースゲームの中で最も有名で人気なゲームである。どれほど人気なのかというと、世界で1000万本近くの売り上げを記録し、このゲームを遊ぶためだけにゲーム機を購入する人も多いため、販売された当時、ゲームそのものだけでなくゲーム機すら売り切れになる店が多数あったほどである。


 そんな大人気ゲームにおいて、肝心の私の腕前はというと……


「あはははは! また姉ちゃんがビリだ!!」


「勇人のお姉さん本当にレース弱いですよね~」


「これで5連続ビリですよ? CPUにすら負けるなんて……ふふっ」


「………………」


 ……私は決してゲームそのものが苦手なのではない。RPGやシミュレーション、アクション、格闘ゲームなどはお手の物であるのだが、どうしてもレースゲームだけは何度プレイしても上手くならないのだ。

 前世において、実際の車の運転は得意だったのだが……


 それに少年たちよ、毎度のことだが、いくら私が下手っぴとはいえ少しはお姉さんを立てて手加減をするとかしてくれてもいいのではないだろうか。仮に君たちの好きな娘と一緒にゲームをする機会があったとして、そんな様子ではその娘に振り向いてもらえないぞ?




 本日は土曜日。先日行われたクラス会から約1週間経過した。


 今日は弟の所属する野球チームの練習が思いのほか早く終わったようで、午後2時頃に弟が友人でありチームメイトである田中君と吉川君を連れて我が家に帰ってきた。


 最初の方は3人で遊んでいたのだが、彼らは元気な野球少年。以前から彼らと仲よくしている私とも遊びたかったのか、それとも一人でいた私に気を遣ってくれたのか、一緒に遊ばないかと誘ってきてくれたのだ。

 そうして私も交え、4人でレースゲームに興じていたのである。


 現在の時刻は午後4時。育ち盛りの男子諸君にとっては少しお腹が空いてくる時間だろう。

 私はお菓子を持ってくるといって席を立った。


 現在母は外出しており、なおかつ私は我が家にどんなお菓子があったか覚えていなかったため、少しの間お菓子を探したのだが、4人で食べることのできるようなお菓子は見つからなかった。


 もしこの場にいるのが私と弟だけならば、家のすぐ近くにあるコンビニで適当に何か買うだけでいいのだが、流石に中学生の少年とはいえ、お客様にコンビニのおやつを出すというのは、姉としての沽券に関わるだろう。普通の姉ならそれでも別にいいのかもしれないが、私はもてなしにおいても完璧な美人で優しい姉なのだ。


 そのため、何か手軽に作れるお菓子はないかなと考えていたところ、ちょうどホットケーキミックスが目についたため、ホットケーキを作ることにした。

 3人に、お菓子を作ることにしたから少しの間私抜きで遊んでおくようにと伝え、調理に取り掛かった。



 まず最初にボールに卵と牛乳を入れてよくかき混ぜる。

 その後、ホットケーキミックスを加えて軽く混ぜる。ここは決して混ぜすぎるべからず。

 ……という風に、その後もごく一般的な手順に従ってホットケーキを完成させた。

 おやつとして出すただのホットケーキである。そこまで凝ったものを作る必要もあるまい。


「おー流石姉ちゃん。めちゃくちゃおいしい!」


「勇人のお姉さんは料理もお上手で本当に凄いですよね」


「まさしく理想の女性って感じです。尊敬します」


 ……正直ホットケーキなど普通に作るのであれば料理の中でも非常に簡単な部類であり、誰が作っても似たようなものになるとは思うのだが、それを言うのは野暮というものだろうし、尊敬されるのは単純に気分がいい。


 少年たちよ、その調子でもっとお姉さんを敬うのだよ。



 ホットケーキを食べ終えた後、再び私を交え、レースゲームを再開した。


 苦手ならば別のゲームをすればいいのでは?と思うかもしれないが、私は元来負けず嫌いなのだ。ここまで負けっぱなしでは終われない。

 加えて言うと、別のゲームをした場合、普通に遊んだら逆に私がほとんど勝利してしまうため、手加減をする必要が出てくる。


 これはあくまで私の持論でしかないのだが、友人などとゲームをするときは、自分が強すぎるため気を遣って手加減しなければならない状況になるよりは、むしろ自分が全力を出しても勝てないような状況になる方が楽しいと私は思う。


 ……そうすると逆に相手が私に気を遣って手加減をするという流れになりそうなものなのだが、なぜか私と一緒にゲームをする人たちは私に対してのみ手加減をしてくれないのだ。


 私はそれならそれで結構楽しむことができるので別に構わないが、私以外の人に対してはちゃんと手加減をしている姿を見る気がするのだが。


 ……私がみんなに遊ばれているだけだって?そんなはずないだろう。


 それに、このゲームはアイテム運の要素もあり、いいアイテムを引き続けることによって実力差を多少補う事ができる。

 そこまで運よくいいアイテムを引き続けることなど滅多にないのだが、1度だけその幸運が訪れ、私が1位を勝ち取るレースがあった。


 渾身のどや顔を作って少年たちを見つめる。


「そのどや顔むかつく! たまたま1回だけまぐれ勝ちしただけのくせに!」


 などと弟がのたまってくるが、何とでも言うがいい。運も実力のうちというだろう?それに、たったの1回といえど、勝ちは勝ちなのだ。

 ……こういうところが私だけ手加減してもらえない原因なのだろうか。


「お姉さんってたまに凄く子供っぽいところありますよね」


「こういう時は俺の8歳の妹と同じような感じですね。 ……ふふっ」


「………………」


 ……田中君も吉川君も2年ほど前に初めて私と会ったときは、私のあまりの美しさにどぎまぎする可愛らしい姿が見られたのだが、もうすっかり慣れてしまったらしい。打ち解けてくれたのは嬉しいことではあるのだけれど。


 このようにしてひとしきり遊んだところで、2人が帰宅する時間となった。



「お姉さん、今日はありがとうございました! 本当に楽しかったです!!」


「ホットケーキ美味しかったです! また一緒にゲームして遊びましょう!!」




 ……こういうことを元気な声で真っ直ぐな目をして言うから彼らは憎めないのだ。少年たちのこのような純粋さ、素直さは、周囲と乖離した精神年齢を持つ私からすれば非常に眩いものに見える。


 少年たちと言ってはいるが、彼らも弟も中学3年生のため、彼らが特別このように素直で真っ直ぐな性格をしているだけであるのかもしれない。だが、どちらにせよ、彼らと関わるといつもこのように暖かい気持ちにさせてもらえる。


 だからこそ、今日のように突然だとしても、遊びに来てくれたときはただの客としてだけではなく、感謝の気持ちを込めてもてなしをしてあげたり、一緒に遊んであげたりしたいと思っているのである。




 ……とはいえ、やはり悔しいものは悔しいので、田中君と吉川君が帰ったあとも、私は一人でレースゲームの特訓に勤しんだ。


 弟の友人たちから見た主人公:1歳しか違わないのに見た目が非常に大人らしく凄い美人で、基本的に物静かでおしとやかでありながら少し天然で、野球に詳しいわけではないものの理解はあり、苦手なゲームだろうと楽しそうに付き合ってくれて、からかっても本気で怒ったりせず、かつかわいいリアクションを返してくれて、料理上手で非常に優しく、よく穏やかな顔でこちらを見てきて、勉強も物凄くできるという現実離れしているほど理想のお姉さん


 発言と行動のみを他人目線で見ると本当に属性盛り盛りな主人公


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