5話 クラス会
本日の私の服装は、リボンのついた白の七分袖ニットプルオーバーと藍色の膝より少しだけ長い丈の、ベルト付きスカートである。少し大人びているが春らしいファッションといえるのではないだろうか。
……お前おしゃれとか気にするのかって?何を言っているのだ。今の私は華の女子高生である。おしゃれに気を遣うのは当然だろう。
それになんか女子高生というより大学生のような服装だって?
仕方ないだろう。私は高校1年生にして、可愛い系ではなくクール系の大人びた美人であり、身長も167センチと女子にしては非常に高く、足も長く、色白である。そのため、このように少々実年齢よりも高めの層に向けた服装の方が似合うのだ。前世が大学院生だったことが服装の趣味趣向にも多少なりとも影響を及ぼしているという可能性は否定しないが。
この服装が似合うことは母や店員さんのお墨付きである。乗せられただけかもしれないが、気にする必要はあるまい。実際に私の目から見て綺麗に着こなしているのは間違いないのだから。
また、私は基本的にこういう白を基調にした服や、落ち着いた色の服などを好むが、仮にピンクピンクした派手な服だろうと私の超スタイルと美貌で完璧に着こなして見せよう。いわゆる美人にしか許されない格好ってあるだろう?そういう服もそのうち着る予定だ。
と、私のファッション談義はこの辺にしておこう。正直もっと語りたいのだが、それより遥かに大切なことがある。
そう、今日は日曜日。クラス会当日である。
先日私が疑問に思ったことだが、なぜあまり活発でなさそうなメンバーで構成されている我がクラスにおいてクラス会などというものを開くことにしたのかというと、ただ級友との交流をしたいというだけでなく、私と秋山君それぞれの話をよりたくさん聞くことも主目的としてあるらしい。秋山君の野球、私の美貌と頭脳にみんな興味があるいうことだ。
優れた人のその分野における話を聞いてみたいという気持ちは非常によくわかる。仮に自分がその分野にあまり詳しくなかったとしても、相槌をたまにうち、簡単に質問しながら聞くだけで楽しいものなのだ。
……最初からそう言って普通に誘ってくれたらよかったのだが。
そのため、まずは部活で忙しい秋山君の空いている日時を聞き、その中から近い日程順に次は私に空いている日時を尋ねることで日程を決めることにしたのだという。
……その途中で、私に先日のいじわるをすることを思いついたのだそうだ。
本日の参加人数は40人。なんと一番近い日程だったにも関わらず参加率100%である。いつクラス会を開くことを決めたのかはわからないが、長くとも1週間で人数を集めたにしては凄い。
……もしかして、秋山君以外みんな暇なのだろうか。お前もだろう?とは言わないでほしい。
クラス会は学校近くのファミレスで行われる。お金をそこまで自由に使えない高校生の集まりとして実に妥当な場所の選択だろう。
「よーし全員集まったね! じゃあ行こうか!」
集合場所に到着し、先の発言の主であり私をクラス会に誘ってくれた人物でもある小林さんを先頭に進んでいく。
やはり中心は小林さんか。彼女がこれからクラスのまとめ役となっていくのだろうか。ありがたいことだ。
……私の服装を見たクラスメイトたちによる、私のあまりの美しさに対する驚き慄いた反応はないのかって?
それは創作物の見過ぎであろう。いくら私が美人でおしゃれでも、現実世界において、普通の人はそれでそこまで騒いだりなどしない。みんな私を綺麗だと思っていたとは思うのだが、反応としてはせいぜい女子数名が他の友人にもするように、
「北条さんの恰好かわいい~」
みたいな当然すぎることを言っただけだ。
まあ、集合場所までの電車に乗っていた際、見知らぬ人々の多くの視線を感じたり、
「とんでもない美人がいる」
というような話し声を耳にしながら窓の外を眺めていた、という出来事はあった。しかし、クラスメイト達は既に私のことを知っているのだし、全員既に私の友人なのだから必要以上に騒いだりはしないだろう。
先日のあれはその場のノリとか悪戯とかいうやつなのだ。
ファミレスにて、大きなテーブルの右側の中心に私、向かい側の列の左側の中心に秋山君が座り、各々が中心となって話をした。
秋山君のそれは知らないが、私の会話内容はたわいもないものだ。私は基本的に聞かれたことに答えていくというスタンスで会話を行った。
勉強の話、美貌についての話、ファッションの話、家事もできるといった話などなど。以前話した、弟にお弁当を作った時の話などもして時々笑いを作ったりもした。私は基本的にはクール系美人なのだが、ユーモアセンスも弁えているフレンドリー女子でもあるのだ。
……そろそろ信じてくれてもよいのではないだろうか?
定番である好みのタイプについても当然聞かれたが、そこで
「もう、それはいいでしょう?」
などと言って適当に誤魔化すという場を盛り下げることをせずに、なおかつ、
「じゃあ、○○君みたいな感じの人?」
みたいなことを言われることを避けるため、弟の特徴を出し、
「身近だと弟がそんな感じかもしれない。私は別に弟のことが好きなわけではないのだけれど……」
と先んじて言うことによって、うまく流しながらも、弟のこと、私がブラコンの疑惑、という食いつきの良さそうな話題を提供し、場を盛り上げつつ上手く乗り切るという機転を見事発揮した。
伊達に40年近く生きてはいないのだよ。ちなみにこの手法は中学生の頃から使っており、あらかじめ弟に許可を取っている手法であるので問題はない。
……そのせいで昔も今もいろいろな人にからかわれるが、同じ質問を繰り返されることを避けることができ、誰かとの関係の詮索を防ぐものになり得る手法でもあるのだし、必要経費だろう。私が本当にブラコンなわけでもないのだし。
ちなみに、例の彼は秋山君の隣にいたため、私の話が届いておらず、反応を見ることはできなかった。だからどうした?という話だが。
……私はツンデレでもないぞ。ツンデレなど現実世界に存在していたらただのヤバい奴でしかないだろう?
このように、ちやほやされたり、時にからかわれたり(それは不本意なことではあるのだが)しながら日々の生活を送っている現在、私は本当に周りの人間に恵まれ続けているな、と思う。
転生という幸運、前世含め幸せな生活を送り続けているということを考慮すると、正直自分より幸運な人間など存在しないのではないかとすら錯覚してしまう。
無論、私は苦労を知らないというわけではなく、前世における地獄の受験勉強漬け生活は人間の送る生活と呼べないような過酷なものであったし、今世において、既に乗り切ったことではあるが、転生による精神年齢の差異、性別の変化などを原因とした様々な状況における立ち振る舞いの困難さ等の問題がたくさんあった。
しかし、そんなもの私が享受している幸福を考えれば容易に吹き飛んでしまうと考えている。
まあ、流石に世界一幸福というのは大袈裟なのだろうが、少なくとも現在進行形で私は本当に恵まれており、それに対し感謝の念を送るしかないのは間違いないだろう。
そうしてクラス会は終了の時間を迎えた。そのあと私は女子トークに勤しみながら、女子高生としての日常を謳歌するために帰路に就いたのだった。