4話 談合
波乱というほどではないが、何もなかったわけでもない入学初日を迎えた後、1週間が経とうとしている。私は現在、実に平穏な日常を過ごしている。
本当か?と思われるかもしれないので、今の私の平穏な状況を説明させてもらおう。
現在、我がクラスでは担任の山田先生による数学の授業が行われている。
学年で一番上の進学クラスだから、何か特別なことをしているのではと思われるかもしれないが、そんなことは決してない。
先生が公式や問題の解説をし、重要なところを再確認するために、しばしば生徒を指名して答えさせる。そのため、授業を聞いていないと答えられず、恥ずかしい思いをする。
――といった実に一般的な形式で授業が行われている。
私が当てられることは決してないのだが。
……一応言っておくが、私は先生にいじめられているのではない。むしろ逆で、私が授業で扱う教材の内容を既に学びきっていることを早々に理解してくれた先生が、別の問題集を持ってきて、授業中の暇な時間に解くために私に貸してくれているのだ。
そのため、私は授業の内容を最初の少しの時間で簡単に確認した後は、先生のお話を聞かずに問題集に取り組んでいて、それは先生に認められているため、当てられないということだ。
まあ、私は授業を聞いていなくとも質問に答えることくらい容易であるし、先生が貸してくださった問題集のすべての問題を簡単に解くこともできるのだが、暇な時間を少しでもつぶせることはありがたい。
このように、才能にあふれる生徒に先生が授業中に少々特別な手助けを行うというのは別段珍しいことではない。私の前世でも中学生のころ同じようなことをしてもらっていたし、スポーツ特待生たちが授業中に寝ていても怒られないというエピソードは有名だろう。
我がクラス唯一のスポーツ特待生である秋山君も当然特別扱いを受けている。彼は授業中に寝るわけではないのだが(その時点で彼は凄いと私は思う)、宿題免除と早期退出許可を得ている。
宿題免除はわかるだろうから、早期退出許可について説明しよう。
秋山君以外のスポーツ特待生の諸君が所属しているクラス群では、基本的に1日の授業は午後2時に終了する。しかし、私たちの所属するクラス群では、1日の授業は午後4時に終了するのだ。
そのため、秋山君は午後2時過ぎに始まる部活動に送れずに参加するために、午後2時に退出することが許可されているということである。
それで授業に付いていけるのか?と思うかもしれないが、級友たちより短い授業時間で、なおかつ宿題もなくとも授業に付いていけるからこそ彼はこのクラスに所属しているのだ。
……少々脱線してしまった。話を戻そう。
このように無駄なことを考えながら問題集を解いていたら、数学の授業が終了の時間を迎えた。
この後は昼食の時間を挟んで英語、その後に秋山君が退出して現代文の授業がある。
このようにして約1週間繰り返されてきた日常を今日も送るのだ。
以前は、何も起きないとそれはそれでつまらないなどと私はのたまったが、それは極稀なものでいいし、この平穏な日常は決して悪いものではない。このまま謳歌させてもらおうと思い、お弁当を食べる準備をしていたところ、ある人物が近づいてきた。
……ちなみに、このお弁当は母が作ってくれたものだ。私の手作りを期待したのであれば申し訳ない。
私も作ろうと思えばお弁当程度容易に作ることができるのだが、母は私の分だけでなく、弟の分も作る必要があるため、わざわざ私が自分の分だけ作ってもあまり意味はないのだ。
……弟の分も作ったらどうだって?
単純にお弁当を作るのは面倒だし、以前弟の分も割と本気を出して作ってみたら、いろいろな人に散々からかわれた(なぜか弟にもからかわれた。姉の愛がどうのこうのと)。別にそれに怒っているというわけではないが、対応が面倒くさい。
……対応といってもせいぜいいつものようにジト目で軽く睨むくらいだが。流石に私はみんなと比べ精神年齢が倍以上あるので、そこまで目くじらを立てるつもりはない。……信じてほしい。
とはいえ、面倒なことに変わりはないため、必要がなければもう作るつもりはない。
……また話が脱線してしまった。決して私のせいではない。
近づいてきた人物は、このクラスで私の次に可愛い女子である小林さんだった。
以前説明した生徒会長さんと同じくらいの可愛さである。クラスで1番か2番かというやつだ。私がいる以上彼女がクラスで1番になることは絶対にないのだが。
「北条さん次の日曜日の夕方4時空いてる?」
「? ええ、空いているけれど……」
どうしたのだろう。これはまさか女子同士で休日に遊びに行こうという例のあれなのだろうか?
キャッキャしながらお洋服とか買うのだろうか?
……お前には似合わないなどと言うことなかれ。以前にも言ったが、私はあくまでこのようなことを考えているのだというだけであって、発言や行動はとても優しくて良い娘なのだ。更に、忘れているのかもしれないが、私は他に見ないほどの圧倒的美人であり、まさに私は理想の女子そのものと言える。つまり、女子会などは望むところなのである。
「よかった! クラス会を開こうと思っていたの!」
「クラス会???」
女子会ではないらしい。
しかし、どういうことだろう?このクラスはクラス会をこんな早々に開くほど活発なメンバーの集まりではなかった気がする。
それに、今日は金曜日。今からメンバーを集めるとなると来れない人の方が多いのではなかろうか。全員が参加する必要はないのだろうが、最初のクラス会なので、7割くらいは人を集めたほうがいいのではないのだろうか。
「みんな聞いた!? 日曜日クラス会開こうと思ったんだけど、北条さんが来てくれるんだって!!!」
「「「うおおーーー!!!!!」」」
「俺、北条さんが来るなら日曜の予定キャンセルしていくわ」
「私も!!」
「…………………」
……流石に今の状況がおかしいことぐらいはわかる。こんな図ったかのような会話が突然繰り広げられることがあるはずないだろう。みんなチラチラ私の方を見てくるし。見くびらないでほしいものだ。
そう思いを込めてジト目で小林さんを睨む。
「あはは……流石にばれちゃったか。ごめん北条さん。みんなで驚かせようと思って。でも、もし北条さんが来れないんだったらもちろんクラス会は中止するつもりだったから安心して!」
「…………………」
……何を安心しろというのだろうか。別にみんなが私の知らぬ間に談合していたことに対して、仲間外れにされると不安がっていたわけではないのだが。
「……北条さんのジト目やっぱりかわいい」
そして、君はぶれないな。聞こえているんだぞ、それ。
ちなみに、話のあとは小林さんと一緒にお弁当を食べながらガールズトークに勤しんだ。
……本当にできるんだぞ。信じていなかっただろう?