26話 ライバル関係
体育祭が終わり、10月も中盤となった。
10月中盤には以前にも言ったように生徒会選挙があった。
見知った会長さんがついに生徒会長を引退して新たな生徒会に引き継ぐのだ。
「そういえば、早紀ちゃんって中学校の時生徒会入ってたりした?」
と理央が聞いてきた。
……どうしてそう思ったのだろうか。
「いえ、入ってはいなかったのだけれど……どうしてそう思ったのかしら??」
「早紀ちゃんって絵にかいたような優等生だからね~。それにほら、早紀ちゃんって押しに弱いでしょ? だから早紀ちゃんが立候補することはないと思うけど、みんなに押し付けられたりしてたんじゃないかな~って」
「…………」
……確かに私は押しに弱いことは認める。決してよいことではないとわかってはいるのだが、強く頼まれると断りきれないことが多いのだ。
だが、多少の雑用ならともかく、流石に生徒会のような、了承しまうと今後の生活に大きく支障をきたしかねないものは断るぞ。私はそこまでお人好しというわけではないのだ。
それに、そもそも私は先生たちに生徒会に入るように頼まれたことは前世含め一度もない。友人たちに冗談半分で言われることは何度もあったが、流石にないと言っていた姿を先生たちも見ていたためだろう。
そう思いを込めて理央をジト目で軽く睨むと理央はいつものように笑いながら謝ってきた。
……これもいつものことだが、どう見ても本心で謝ってなどいない。いや、別に謝罪を求めているわけではないのだが。
……それはさておき、生徒会長の候補者たちの選抜は、立候補制である。どうしても立候補者がいない場合は先生が誰かに出馬することをお願いするそうなのだが、今年はそれをしなくて済んだようだ。生徒会長になりたい人が一定数いることはとてもいいことだと思う。
その有志は基本的に一般の生徒である。それはまあ仕方のないことだろう。スポーツ特待生や私のクラスのようないわゆる特進クラスに所属する生徒は会長の仕事をするほどの暇は基本的にはないのだから。一部の例外は居るには居るのだが、そういうのは極少数だろう。
……今回に限らず、普段から私は才能関連で少々残酷な話をしているという自覚はあるが、それは事実としてあることなのだ。
別に才能がないことが悪いわけではない。だが、ないよりある方がいいのは当然だし、ある人の方に私含め多数の人間の興味が向くのもまた当然だろう。
以前お金の話をした時も似たようなことを言ったが、それが事実なのだ。
私自身、そこまで際立った才能がある人間ではないため、常々それを自らにも言い聞かせている。
勉強ができなくなったらお前になどみんな興味ないのだ、と。
だから私はかつて勉強を他のすべてを捨ててまで頑張ったという面も大きいのだから。
まあ、今は勉強以外にも美貌という非常に大きな取り柄もあるのだが、それも油断すると簡単に失われるものだろうし。
それに、多人数から興味を持たれることなど無くとも一向に構わない人の方が多いこともわかっている。だが、以前にも言ったように私はそういうものを捨てることは出来ないし、その気も全くないのだ。
生徒会長に立候補した候補者は3人いた。その3人の中には夏祭りにて会った会長さん(まだ引継ぎが行われていないため会長はまだ彼女だ)の彼氏さんもいた。
あの人は2年生だったのか。
会長さんとはそれなりに長いこと付き合っている同い年のカップルのようなノリで付き合っているように見えたのだが、仲の良さにそういうのはそこまで関係ないといったところなのだろう。
生徒会選挙はいわゆる人気投票とほとんど同じような感じだと思う。
私はかつて選挙の票の管理をしたこともあるからそう思うのだ。
何度も言うように、私がかつてそう経験してきたからどこもそうなのだと断言することはできないが、これに関しては少なくとも暁光学園もそうであったように私には見えた。
そのため、肝心の候補者たちの演説についてだが、その候補者が学内で有名でない限りは、演説の内容よりも、選挙演説の際にインパクトのある演説やネタとして面白い演説をした人に票が集まりやすい傾向にあると思う。
笑いを取ったり声が大きかったりなどの方が演説内容より重要だったりしてしまうのだ。
あとは、見た目のいい人が候補者にいればその人に票が集まりやすいというのもあるだろうか。
それは選挙としてどうなんだ?と思うかもしれないが、それは仕方のないことだろう。良く知りもしない先輩の中から1人選ぶなどそれら以外の方法でどうやって行えばいいというのか。
演説の内容や公約で決めろと?会長なんて誰がなろうと大して変わらないことなどみんなもうわかっていることなのだというのに?そしてそもそも生徒会になど興味がない人の方が多いというのに?
これももうわかっていることだと思うが、私は綺麗事はあまり好きではない。綺麗事が必要な時もあることは知ってはいるが、今はその時ではないだろう?
それはさておき、結局会長には一人の男性の先輩が選ばれた。その人は会長さんの彼氏さんではなかった。
たしかあの人は今の生徒会での副会長さんだっただろうか。
その分既に知名度のアドバンテージがあったための選出ということなのだろう。
これから色々と大変だとは思うが頑張って欲しいものだ。
そういえば副会長含め生徒会役員はこれから1年生を含めた中から選挙とは違った方法で選ばれるとのことだが、どのようにして選ばれるのだろうか。新たな会長さんや先生に頼まれるのだろうか?
まあ、私には関係のない話ではあるが。
10月中盤には、実は9月から開催されていた高校野球秋季地方大会も終わった。
私のいる地方ではなんと我が暁光学園野球部が優勝した。
前にも言ったが全国屈指の激戦区で、猛者たちの厳しいマークの中こうして何回も優勝するとは流石といったところだろう。
秋山君も今井君もきっと新たな主力として活躍したのだろうな。
彼らはきっと部内でもライバルとして競い合う関係を築いているのだろう。私はそういうのはとても好きである。
これから開催される近畿大会でもいい成績を収め、是非とも次の春の甲子園の出場権を勝ち取って欲しいものだ。
近畿大会を勝ち抜くと明治神宮大会もある。そこまでずっと勝ち続けることはとても大変だと思うのだが、応援している。
それらの出来事を終え、そして10月も終盤を迎えた。
10月終盤の出来事といえばそう。ドラフト会議である。
我が校からプロ志望届を出したのはショートの先輩とエースの村田先輩の2人のみで、他の生徒は大学や社会人野球に進むのだそうだ。
いや、「のみ」などと表現したが同学年の同じ部活動に2人もドラフト候補がいるだけで十二分におかしいことである。
それに、暁光学園野球部の監督さんは、その選手がプロに指名されることを確信していなければプロ志望届を提出させないことで有名な監督だ。
そのため、その2人は野球部内でもプロに確実に指名されると確信された飛びぬけた逸材という事なのだろう。
ドラフト会議は午後5時から行われる。
先輩たちと先輩たちのクラスメイト、そして野球部諸君は校内に残ってドラフト結果を心待ちにするのだそうだ。
私たちクラスメイトでも野球部員でもない一般の生徒も学校に残ることは許されているのだが、一般の生徒は学校内ではテレビ中継を見ることができず、午後5時過ぎだと暗くて遠くからでは先輩たちの姿を見ることも難しいため、私は大急ぎで家に帰ってテレビ中継を見ることにした。
「第一巡選択希望選手……」
と、アナウンサーさんの声が響く。やはりドラフト会議のアナウンスと言ったらこの方だろう。
ドラフト1位指名が終わった。
例年のことだが、競合選手のくじ引きは自分のことではないのにもかかわらず実にドキドキするものだな。私は特に贔屓の球団があるわけでもないのに。
しかし、あの選手はあの球団に行くのか。これからどうなっていくのか楽しみだな。
……などと中継を見ながら私は勝手に考えていた。
このように素人がああでもないこうでもないという意味のない考えをすることもまたドラフトの醍醐味だろう。それが許されているからこそのテレビ中継なのだろうから。
ドラフト会議というのは、昔からそれそのものが一つの大きなコンテンツとして成立するほどのイベントなのだ。
選手の一生がくじにて左右されるということにはいろいろ意見もあるのかもしれないが、それはもう幾度となく繰り返されてきた議論だろうし、事情に詳しくない私がとやかく言うべきではないだろう。
そしてこれからは2巡目以降の選手の指名に入る。
これからはその年の順位の逆順に各球団が指名していくため、戦略を見ることのできる部分と言えるだろう。
ドラフトの華は1位指名であることは間違いないのだが、2位以降の指名もまた面白いものなのだ。
とはいえ2位以降の指名は地上波中継がされないこともあり、CS中継かネット中継を見なければならないのだが。
私はあらかじめPCを立ち上げておき、テレビ中継が終了してからはネット中継を視聴した。
「第二巡選択希望選手……東武。村田 昌平」
エースの村田先輩だ。
呼ばれた瞬間思わず私はPCの前で
「おおお!!!」
と声を出してしまった。
リビングで視聴していたため、一緒に見ていた母と弟に呆れた顔をされたが仕方ないだろう!
村田先輩が2巡目、しかも一番最初に指名されるとは……!!
村田さんは下馬評では3~4位相当と雑誌などで言われていたそうなので、これは大躍進と言ってしまっていいだろう。
ドラフト2巡目の1人目指名というのはドラフト1位と比較しても遜色ない評価と言ってしまう事の出来得る評価であるためだ。
私の興奮の冷めやらぬ中、2巡目の指名が続く。
ショートの先輩は2巡目の11人目に指名された。
まさかのドラフト2位が同じ学校の同期から2名である。これはとんでもないことと言えるのではないだろうか。
かつてドラフト1位が同じ高校から2人出たという話もとても有名な話ではあるのだが、そんなことはそうそう起こる話ではないだろうから。
先輩たち二人はこれから違う球団、しかも同じリーグにて敵として戦っていくのだろうが、それでも同じ高校の仲間だったことはきっと忘れないのだろう。そして、お互いの活躍に刺激され合ったりするのだろう。
ああ、彼らは本当に輝いているな。
プロで1軍となることは私などには到底想像もつかないような険しい道だとは思うのだが、彼らが1軍で戦う姿を見ることができたのならばそれほど嬉しいことはない。
彼らが1軍に昇格することがあれば、その1軍デビュー戦では私は絶対にチケットを購入して現地にて観戦する心づもりだ。
これからはニュースなどで彼らの動向を追わねば。
秋山君と今井君も2年後にはドラフト会議にて指名されるのだろうか。
現時点で世代の中で凄いと言われて騒がれていても、3年生まで順調に成長し、ドラフト指名候補とまでなることは、難しいという一言では決して語れないようなものだとは思うのだが、そうなってくれたら私もまことに勝手ながらとても嬉しい。
彼ら以外の野球部員も、これから成長してドラフト候補になるのかもしれない。暁光学園野球部に来るような球児は野球の才能と頂点で競うという覚悟を持って入ってくる生徒だと思うので、そうなっても全く不思議ではないだろう。
先輩たち含め野球部の彼らの行く末がどうなっていくのか……未来はわからないものではあるのだが、とてもワクワクしてしまうな。
そんな風に彼らのことをあれこれと勝手に考え、とてもウキウキしながら私は理央や春香にこの興奮を分かち合うためのメールをし、就寝した。




