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24話 猫耳

 夏休み終了まで残り1週間となってしまった。


 残り少ない夏休み。

 悔いというものは何をどうしても残ってしまうものなのかもしれないが、それでも出来得る限り楽しみ尽くしたいものだ。






 先日のお勉強会から数日経過した。




 本日私たちはいつもの3人で遊園地に遊びに行く。


 遊園地など数年ぶりであり、友人同士のみで行くことなど前世以来、つまり約15年ぶりのことであるため、とても楽しみである。


 女子同士で回る遊園地とはどのようなものなのだろうか。

 非常にワクワクしている。





 お前はともかく2人は試験勉強しなくていいのかって?

 ……無粋なことを言う奴である。まだ試験まで1週間あるのだ。今日が終わったら勉強に集中すればいいだけだろう。


 実際2人もそのように言っている。そのため、今日の遊園地は夏休みにおいて私たち3人の送る最後のイベントなのだ。だから多少は大目に見てくれてもいいだろう?忘れているのかもしれないが私たちはまだ1年生なのだし。





 遊園地のある場所は少々遠いため朝早くから出発するのだが、私は朝に強いタイプなので大丈夫だ。


 理央と春香は電車内で眠そうにしていたが、2人のそのような年相応の可愛らしい姿を眺めるのもまた楽しかった。以前にも言ったがこういうのもまた醍醐味の一つなのだろう。






 遊園地に到着し、最初に私たちはグッズ販売店に赴いた。



 普通そういうのは最後に来るのでは?と思うかもしれないが、最初に動物の耳がついた可愛らしいカチューシャを購入し、一緒に着けながらアトラクションを回ろうという提案が春香からあったのだ。

 実に女子高生らしい可愛い提案である。私も理央も二つ返事にて了承した。



 販売店には様々な可愛らしい装飾品が販売されていた。

 早速私たちは動物の耳がついたカチューシャを物色、購入し、3人でそれぞれ選んだものを着用した。

 私が購入したのは黒い猫の耳のついたカチューシャである。



「早紀ちゃんめっちゃ可愛い!! もう可愛い!!!!」


「うんうん! こんな可愛い娘実在するんだ! ってくらい可愛い!!」



 と、理央と春香がいつも以上のテンションで私の猫耳姿を褒め称えてくる。



「……もう。流石に言いすぎよ?」



 と、やたら興奮しながら2人が言ってくるので私もニヤケを抑えきれないながらも一応そのように指摘した。

 ニヤケを抑えきれないのは仕方ないだろう?口では二人にこんなこと言いながらも、私も二人に負けないほどこのシチュエーションに興奮していたのだ。


 当然、


「早紀ちゃんだってすっごく嬉しそうにしてるじゃん!」


 と言われてからかわれた。

 このやりとりすら非常に楽しい。



 その後、3人一緒に写真を撮り、私は自分で自分の猫耳姿を見た。

 自分で言うのもなんだが猫耳を付けた私の姿はとても可愛らしかった。


 ファンタジーであるような、もし本物の猫の耳とそっくりの耳が頭部ではなく、本当の耳の部分に生えている人間などいたら気持ち悪いどころかもはや恐怖の対象にしかならないだろうとは思うが、このように可愛く脚色した猫耳カチューシャを頭部に美人がつけると非常に可愛らしい姿ができるものなのだ。

 私は別に普段は動物の耳になど全く興味はない(というか現実の動物の耳を見る限りあれを可愛い物とは到底思えない)のだが、そんな私でも可愛く思うほどである。


 ……それにしても、まさかこの私が猫耳など着けて遊園地を女子3人で回ることになるとは。本当に人生とは何が起こるかわからないものである。



 その後、まずは時間が経つにつれて行列が長くなりそうなジェットコースターに乗ろうということで列に並んだ。


 列に並んでいる間、私を見て多くの人々が、


「あの娘めちゃめちゃ可愛くない?」


「猫耳がすごい似合ってて可愛い」


 などと語り合っているのを聞くのもまた楽しい。

 理央と春香は人々がそのように語っているのを聞いてなぜか誇らしげにしていた。




 順番が来て、ジェットコースターに乗り込む。

 じゃんけんに敗北した結果、私は理央と春香の後ろで見知らぬ中学生くらいの少年の隣に座ることとなった。


 私たちと同様にその少年もとてもワクワクした様子だった。理央と春香の隣に座れないことは少し残念だが、こういうとても微笑ましい姿を見せてくれる少年の隣というのは悪くない。




 ガタゴトと音を立ててゆっくりジェットコースターが昇っていく。この時間のハラハラ感は私は結構好きである。


 昇りきった直後、高速でコースターは急降下した。



「「「キャーーーーーー!!!!!!」」」



 と、ジェットコースターに乗る女子諸君が叫ぶ。

 理央と春香も叫んでいた。



 本当に怖いのであれば叫ぶことすらできないだろうから、叫ぶような人は本気で怖がってはいないのだという指摘は無粋だろう。こうしてみんな叫ぶのはその場のノリというやつなのだ。



 私は恥ずかしがって叫ばなかった。

 こういうところで叫べないようなところが私の欠点の一つなのだろうな。変なプライドの高さを捨てきれないというか。

 以前にも言ったようにそれを捨てる気はない。だが、楽しんでいる二人を見ていると、もし次の機会があれば叫んでみるのもいいかもしれない、と思った。その姿を知り合いに見られたらとても驚かれるだろうが。




 次は、これまた定番であり、この遊園地の名物であるお化け屋敷に行った。



 私は前世から今に至るまでお化け屋敷というものに対して恐怖を感じたことが一度もない。暗いしお化けたちが叫んでくるとはいえ、襲ってこないとわかりきっている作りものに恐怖を覚える方が難しいのでは、と思うのだが、どうやらそう感じない人も多いようで、特に女子にはお化け屋敷の出し物を本気で怖がる人がそれなりにいる。


 私たち3人の中だと理央がそうだった。

 春香も私同様なんてことない顔をしていたのだが、理央だけ本気で怖がっていた。お化け屋敷に入ることも渋々といった感じだった。

 先ほどと同じようにノリで怖がるフリをしているだけなのでは?と思うかもしれないが、これはノリではない。高校に入ってからよく理央と一緒にいるからわかる。理央は本気で怖がっている。


 お化けが出てきて


「「ワアアァァーーーー」」


 と脅かすたびに理央は


「…………!!!!?????」


 と、声にならない悲鳴を上げて私か春香のどちらかにしがみついてきた。



 怖がる理央の姿はとても可愛かった。


 春香は


「もう~そんな怖がらないで大丈夫だって」


 と少し呆れた様子で言い、私は


「ふふ、理央ったら可愛い」


 と言って微笑みながらお化け屋敷を回った。



 お化け屋敷から出た後、理央は少し涙目になっていたのが本当に可愛かった。

 ……しばらくはこれをネタにできそうだ。



 と、私はニヤニヤして性格の悪いことを考えながらも理央を励まし、次のアトラクションへと向かった。

 ここまで客を怖がらせることができてスタッフさんも鼻が高いだろう。この遊園地の名物アトラクションと言われているだけはあるな。


 理央は本気で恐怖していたので、からかうのはほどほどにするつもりではあるが。





「早紀ちゃ~ん! 春香~! 手振って~」


 と写真を撮るためにスマホを持ちながら理央が言ってくる。


 それに応えて私と春香はお馬さんの上から理央に向けて手を振った。



 そう。私と春香はメリーゴーランドに乗っていた。



 理央はお化け屋敷で負ったダメージを回復させるために一度休むのだそうだ。

 ……少しいじめ過ぎたか?だが、もうそこまでダメージは残っていないように見えるのだが、と当初私は思ったのだが、こうやって元気に外から声を掛けたり写真を撮ったりしている姿を見ると、これが目的だったのだろうな、と理解した。


 女子とは言い訳を求める生き物なのである。

 ……この場合は少し使い方が違う気もするが。



 しかし、メリーゴーランドなど最後に乗ったのはいつだっただろうか?前世で中学生の時乗った以来記憶がない。

 今世においては今日まで家族としか遊園地を訪れたことはなく、そして弟がこういう緩いアトラクションよりもジェットコースターなどの激しいアトラクションを好む傾向があったため、乗る機会がなかったのだと思う。


 思う?と疑問を持っただろうが、私は今に至るまでメリーゴーランドの存在すら忘れていたのである。

 先ほど乗ることにしたときようやく、ああそういえばそんなものもあったな、と思い出した程度だ。私はメリーゴーランドを特に好きでも嫌いでもなく、弟はこういうのは好みではないから、乗ることもずっとなかったためにすっかり存在を忘れてしまっていたのだ。


 とはいえ久しぶりのメリーゴーランド。こうしてはしゃぐ理央の姿を眺めながら春香とともに乗るのはとても楽しいものだな。

 などと当初の想像よりも格段に楽しむことができた。





 キャラクターのぬいぐるみを着たスタッフさんと写真撮影もした。

 いつも子供たちに夢を与えてくれるスタッフ、いやキャラクターさんとツーショットにて写真撮影できてとても嬉しい。


「いつもお疲れ様です。ありがとうございました」


 私は人気キャラクターさんにそう笑顔で言って会釈した後、次のアトラクションへと向かった。

 彼もしくは彼女は手を振って私たちを見送ってくれた。





 ゴーカートにも乗った。



 ふっ……私のドライビングテクニックを皆に見せつけてやろう


 私を見た少年たちから、


「あのお姉ちゃんすげえ!」


 などと言われて羨望を集めること間違いなしだな、などと思いながら乗っていたのだが、どうやら少年たちは自分の運転に夢中で私のドライビングテクニックになど興味はなかったようだ。

 かつて弟には私のテクニックを称賛されたものだったのだが。


 理央も春香もとてもあたふたしながらカートに乗っていたので、私のテクニックに注目する余裕はなかったようだ。



 こんなに張り切って乗ったのにギャラリーに見てもらえないのは少し寂しかったのだが、ゴーカートに夢中の少年たちとパパさんたち、四苦八苦する理央と春香の姿はとても微笑ましいものだったので、そのような姿を見ることができてよかった。



 私も運転しながらかつて少年だったころの気持ちを思い出してとても楽しかったことだし。






 そのようにしてアトラクションを楽しんだ後、最後に持ち帰り用の物品を購入するために、遊園地に来て最初にカチューシャを購入した場所であるグッズ販売所に戻った。

 家族へのお土産用も購入した。


 何を買ったかというと、まず父と母、そして私自身のために小さなキーホルダーを購入した。先ほど写真撮影してくれたスタッフさんが扮していたキャラクターのものである。この遊園地の代表キャラなので、大きく外れることはないはずだ。


 弟はもうキーホルダーなどで喜んだりはしないため、お土産としてお菓子を購入した。弟が好きそうなチョコクッキーである。色気よりも食い気の元気な野球少年である弟はこのお土産に喜ぶこと間違いなしだろう。


 理央と春香もそれぞれ家族に向けたお土産を購入していた。何を買うのかの話し合いもまた非常に楽しいものだった。






 そして、とても、非常に、極めて、もの凄く名残惜しいのだが、帰らなければならない時間となってしまった。

 楽しかったのだが、すべてのアトラクションを回るには流石に時間が足りなかった。そこがとても心残りであるのだが仕方あるまい。



 出口付近にて、


「今日とっても楽しかったね!」


 と理央がとても嬉しそうに私たちに言ってきた。


「そうだね。こんなに遊園地を楽しく回れたの小さい頃以来かも」


 と春香も言った。二人が満足してくれたようで私もとても嬉しい。当然私も今日の遊園地は非常に楽しかったため、


「ふふ、いつかまた3人で遊びに来ましょうね」


 と言った。本当に、是非またこの3人で遊園地に遊びに来たいものだ。次ジェットコースターに乗る機会があれば私も叫んでみようかな。




 などと考えながら帰りの電車に乗った。2人はすっかり遊び疲れてしまったようで電車内にてすぐに寝てしまった。

 私は寝ている2人をとても幸せな気持ちで微笑んで眺めながら電車でゆらゆら揺れていた。


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