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21話 海

 燦燦と輝く太陽。

 その光に照らされ青く輝く美しい海。



 視界には恋人たちの遊ぶ姿、パラソルの下でお話をしている女性たち、ビーチバレーに勤しむ複数の男女、元気に泳ぐ弟の勇人とその友人である田中君と吉川君の姿などが映る。








 そんな中、私は吉川君の8歳の妹である真希ちゃんと一緒に砂遊びをしていた。








 夏休みが始まった。


 これから9月初めまで1か月と10日程度の長い間休みが与えられたのだ。

 華の女子高生初の長期休暇。存分に満喫したいところだ。




 夏休みに何をしようかと考えていたところ、弟たちに一緒に海に行かないかと誘われた。


 吉川君が彼の母と妹と一緒に海に行く予定を立て、それに弟と田中君を誘ったのだとか。そこで、ついでに暇そうにしていた私も誘ってくれたのだ。

 こういったときに友人の姉を連れて行くことなどほとんどないのではと思うのだが、私は普段から彼らととても仲良くしているため、誘ってくれたのだろう。

 私は喜んで快諾した。こういったときに誘われるのはとても嬉しいものなのだ。




 海に行くことを楽しみにしながら準備をした。


 私はそうでもないとはいえ、海に行くことを嫌う女子は比較的多いと思う。

 別に泳ぐことが嫌というわけではない。準備が非常に面倒なのと体型への自信の問題だ。


 海パンと元気な体、あとは少々の遊具さえあればそれでいい男子諸君と違い、女子の海への準備とは非常に面倒なものなのだ。




 まずは体型についてだが、私は自らのスタイルに絶対の自信を持っているため問題ないのだが、そうでない女子の方が多いだろう。

 海に行く予定に合わせて食事を制限したりする女子もいるとのことだ。私には幸いなことにその必要が全くないが。

 単純に肌をさらすのが嫌という女子も大勢いるだろう。


 まあ、それらの場合は単純に肌をあまりさらさないような恰好をすればいいだけなので、嫌がる主な理由はこれから語る準備の面倒さの方だ。




 まずは日焼け止め。特に私のような日焼けすると肌が赤くなるタイプの人間は日焼けにとても気を付けなければならない。全身に塗る必要があるためとても面倒だ。


 水に入る場合、当然メイクも崩れる。そのため、メイクをし直す準備もしなければならない。私は元々ナチュラルメイクであり、海に浸かるつもりもないためそこはあまり気にしなくても大丈夫なのだが。


 そして、少々生々しい話となるが、ムダ毛処理や生理周期などを含めて多くのことを気にしなければならない。


 加えて言うと、日焼け止めは当然として、絆創膏や消毒液、帽子にサングラス、ビーチサンダルにレジャーシート、羽織るためのパーカーなどなど、女子には物質的に用意しなければならない物も多いのだ。




 海にいる女子のあでやかな姿はそういった涙ぐましい努力によって生み出されているのである。男子諸君はもう少しそれを考慮してくれてもいいのだぞ。

 ……まあ、あまり私に気を遣いすぎるのもそれはそれで嫌だが。彼らが元気に楽しむのがなにより望ましいことなのは間違いない。


 ただ、ほんの少しでいいから努力について言及してくれると女子はとても喜ぶものなのだ。

 ……我ながら本当に面倒なことだとは思うのだが、乙女心とはそういうものなのだよ。








 一番皆が知りたいであろう今日の私の水着はシンプルな白の三角ビキニである。シンプルで定番であるがゆえに最も着る人を選ぶと言ってしまっていい水着である。

 1年生の女子高生でこれを見事に着こなせる女子などそういないだろう。誤魔化しがあまり効かないため、少々言い方は悪いが体型のよくない人はあまり着るべきではない水着なのだ。

 普段少し邪魔な私の大きな胸を輝かせるいい機会である。


 いっそのこと色も黒にしてしまおうかと思ったのだが、今はまだこれでいいか、と思い直した。

 今回私の水着姿を見せる相手は年下の少年少女たちと奥様しかいない。だからそこまで気合を入れても仕方ないと思ったのだ。

 とはいえそこまで手を抜くこともしないが。




 私の水着姿をお披露目した際、



「姉ちゃん遅い!」


「……みんなもう揃っているのね。遅れてしまってごめんなさい」



 と、私の水着姿になどまったく興味のない弟はこんな反応だったが、吉川君の妹とお母さんは、



「お姉ちゃん綺麗~」


「あらあら、わかってたことだけど早紀ちゃんってほんとスタイルばっちりで綺麗ね~」



 と私を褒め称えてくれ、



「い、いえ、全然待ってないです。大丈夫です」


「そ、そうですそうです。大丈夫です」



 などと、もう私を見慣れているはずの田中君と吉川君は非常にどぎまぎした姿を見せてくれた。


 ふっふっふ……私の水着姿は中学生の少年たちには少々刺激が強すぎたかね?こんな可愛い娘の水着姿などそうそう見ることのできるものではないから、せいぜいこの幸福に感謝するのだな。


 私の胸にチラチラ目を向けてすぐ視線を逸らす姿がとても初心で可愛らしい。




 もうわかっていることだとは思うが、こういう時に私は特に嫌悪感を抱いたりはしない。

 そもそも分かった上でこんな水着を着ているわけだし、そんなことでいちいち嫌悪感を抱くほど私は初心な人間でもない。

 私はかつて男だったのでその気持ちが良くわかるというのもあるし。

 仕方のないやつだな、などと呆れたりはすることはあるが。





 その後すぐ弟たちは海で泳ぎ始め、私は水着の上からパーカーを羽織って、真希ちゃんと一緒に砂遊びに興じ始めた。





 先ほども少し触れたが、私は海に入るつもりはない。


 なぜかというと、海に入るとべとべとするとか化粧が落ちるとか日焼け止めの塗り直しが面倒というのもあるが、何よりもクラゲが嫌だからだ。

 今日はまだ7月なのだが、7月だとしてもクラゲは現れるものだし、この海水浴場ではクラゲ除けネットは設置されていない。

 そのため、ここはクラゲが少ない海水浴場との話ではあるのだが、決して海へと入りたくないのだ。


 気にしすぎだとわかってはいるのだが、前世において海でクラゲに刺されて以来、もう海には入らないと心に誓ったのだ。決して毒性の強いクラゲではなかったのだが、しばらくかゆみが止まらず、なぜ遊びに来たのに負傷しなければならないのか、と思ったのである。


 泳ぐならプールで泳げばいいし、海に入らずともビーチバレーや砂遊びなどでそれなりに楽しむことは出来る。ただ遊んでいる弟たちを見るだけでも楽しいものだし。





 そんな理由で私は真希ちゃんと一緒に砂場にて遊んでいたのだ。



 砂遊びをする場所についてだが、水を汲みに行くために海辺から遠すぎず、波で壊されないように近すぎない場所を選んだ。砂の色が濃い色から薄い色に変わっている絶妙な地点がベストだ。


 その場所で砂のお城を作ったり、某アニメキャラの顔を作ったりした。



「お~お姉ちゃんキャラ描くの上手いね!」


「ふふ、ありがとう、真希ちゃん」



 真希ちゃんは8歳。アニメキャラを描いてももうそこまで仰々しく喜んだりはしない年齢なのだが、単純に私が上手く描いていることを称賛してくれた。

 こういう小さい子供に称賛されるのもとても嬉しいものだ。




 その後、真希ちゃんを砂に埋めたりもした。安全には十分注意した上でだが。

 掘り返したとはちゃんと海水を汲んできて流してあげた。



 貝殻集めもした。

 綺麗な貝殻を見つけて真希ちゃんもとてもご機嫌な様子だ。喜んでもらえて私もとても嬉しい。





 前にも言ったように私は年下、特にこういう小さい子供にとても弱い。ものすごく甘やかしたくなるし、なんでも望みを叶えてあげたくなる。

 わがままなど言われた日には大いに喜んで従う。むしろどんどんわがままを言ってほしい。


 ……このままだと将来子供ができたときなど非常にまずいと思うのだが、私は子供の可愛さ、純粋さ、素直さにとても弱いのである。




 私は基本的に自分1人で何でもできるからか、他人に何かしてほしいとか甘えたいとかいう願望はまったくない。

 何かしたくなったら自分でした方が明らかに早く正確に事を成せる。むしろ、他人が何かしようとしてもそのあまりの遅さを見かねて自ら代わったりする。

 しかし、その分他人を甘やかしたい、甘えてほしいという願望はとても強い。

 ……我ながら完全にダメ人間製造機だと思うのだが、弟にはそれを抑えて接してきた結果、とてもしっかりした性格に育ったため、それが本人のために必要と思えば制御することもできるとは思う。……たぶん。




 ちなみに、こういうときにお約束のしつこいナンパというのは行われなかった。私に声を掛けようとしてきた男性も真希ちゃんを見て去っていった。いくら私が色白の超美人でスタイルもよく、胸も大きくても、流石に8歳の少女を連れている人間にナンパをする勇者はいないようだ。

 ……もしかしたら世の中にはそんな勇者もいるのかもしれないが、今日そんな人がいなくてよかった。


 現実には、本当にそんなことする人が実在するのか!?という感じの行動をする人が極稀に居たりするのだ。中学1年の入学式で突如告白してきた生徒会長がいい例だろうか。

 彼らは一体何を考えてそのような行動をとるのだろうか?それで相手からいい印象を持たれるはずないことなんて簡単にわかりそうなものだが。実に謎である。






 その後、真希ちゃんは彼女のお母さんの元へと戻り、私は弟たちと一緒にビーチバレーをすることにした。


 パーカーを脱いで試合に臨む。別に着たままでもよかったのだが、こういうのは気分の問題だ。



「姉ちゃん!」


 と言って弟は私にトスを上げる。


「……ふっ」


 と息を吐きながら私はスパイクを打つ。



 チーム分けは私と弟のペア、吉川君と田中君のペアである。


 これは身体能力を考慮した結果のチーム分けである。

 私も身体能力にはそれなりに自信があるのだが、流石に2年生時点で野球のU-15に選ばれる弟や、2年生時点でU-15に選ばれるほどではないものの、弟と普段一緒のチームでレギュラーとして活躍している田中君と吉川君たちにはとてもではないが敵わない。


 そのため、この中で一番身体能力の高い弟と一番低い私が組んだのだ。




 実に白熱した試合となった。田中君と吉川君が私には手加減をしてくれたのがその要因だっただろう。

 流石に彼らもスポーツでは手加減をしてくれるようだ。でなければずっと本気で私狙いをすればいいだけで、それでは試合にならないだろうから。



「あそこでバレーしてる人たち凄くない?」


「どっちのペアも滅茶苦茶上手い」


「あの女の子可愛い過ぎない?スタイルも滅茶苦茶いい」


「ペアの男の子もかなりかっこいい。あの中で一番上手いし」


「姉ちゃんとか言ってたから姉弟なのかな? 凄い姉弟ね」



 と、白熱した試合だったためかギャラリーの皆さんが大勢集まってきた。

 ふっ……私の雄姿をそこで見ているがいい。



「早紀お姉ちゃん頑張れ~!!」



 と、真希ちゃんの応援の声も聞こえる。兄の吉川君より私の方を応援してくれるとは。これはより頑張らねばなるまいな。

 ……吉川君の家での立ち位置が少し見えた気がするがまあいいだろう。頑張れお兄ちゃん。



 試合を終え、私たちは吉川君のお母さんと真希ちゃんの元へと戻った。



「4人とも凄かったわね~」


「みんな凄い! あたしもいつかあんな上手くなれるかな?」



 などと言って二人は私たちを褒め称えてくれた。

 ギャラリーの皆さんも私たちに拍手をし、称えてくれた。



 本当に楽しかった。田中君たちが私に気を遣ってくれたためだと分かってはいるのだが、それでもぜひまた彼らと一緒にビーチバレーをしたいものだ。





 その後、私たちは全員とても満足した表情をしながら吉川君と真希ちゃんのお母さんに連れられて帰宅した。

 先ほども言ったが本当に楽しかった。これからもぜひまた同じメンバーで遊びに行きたいものだ。


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