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20話 夏祭り

 本日は夏祭りの日である。



 そう、夏祭り。


 好きな女の子と一緒に出掛けて、

 離れると危ないからなどと一見それらしいけど、よく考えると本当にそれらしいだけの理由を付けて手を繋いで屋台を回り、クラスメイトの姿を見つけた途端恥ずかしがって手を離したり、そしてまた手を繋ぎ合ったり、一緒にりんご飴や綿飴、たこ焼きを食べたり、金魚を全くすくえないその子をからかったり、ラムネを飲みにくいなどと言いながら楽しく飲んだり、変なお面を付けて一緒に笑い合ったり、花火が始まったとき一緒に見ながら、


「き、君のほうが綺麗だよ」


 などと全く似合わないセリフを噛みながら言ったせいで聞き取ってもらえず、


「ん? なんて?」


 とか言われたりする


 あの、夏祭りである。




 ……流石にいろいろどうかと思うって?私自身少しやりすぎたと反省している。少なくとも私が前世で当時の彼女とともに行った夏祭りでは特に変わったことなどなかったし、特に花火を見て~のくだりなど実際にやっている人たちを見たことがない。せいぜいネタとしてするくらいだろうか。もし本気でそのやりとりをする人たちを見かけたら是非とも教えてほしいものだ。

 まあ、普通に屋台のものを買って食べながら一緒に花火を見るだけでもそれなりに楽しいものだったので、夏祭りが実に青春らしいイベントであるということは否定しないが。




 それに、今回の夏祭りは彼氏がいないいつもの3人で回る予定だ。

 ……いや、別に夏祭りは恋人だけと回るものではないぞ。家族、友人と回ってもとても楽しいものなのだ。むしろ前世の私はそういったイベントに全く興味を持っておらず、当時の彼女に誘われたから回っただけだったので、そういったことの楽しさを理解した今の私のほうが夏祭りをよほど楽しむことができると思うし。

 実際、去年までは家族と共に参加していたのだが、非常に楽しかったのだ。



 今年も、単身赴任中の父も含めて家族4人で別の夏祭りに行く予定を立てている。弟の勇人もこういったときは恋人よりも家族を優先する。なんだかんだで弟も家族が大好きなのだ。私が弟の立場だったとしてもそうするだろうけど。


 家族で行く夏祭りもまた非常に楽しみであるのだが、今は目の前の友人たちとの夏祭りについて語りたい。






 と、そんなこんなで今日はいつもの私たち3人で学校の近くで行われる夏祭りに参加するわけだが、まずは最も大切なことと言っても過言ではないだろう本日私が着用する浴衣について、少し説明させてもらおう。

 ……以前言ったように、私はできれば服についてもっと語りたいのである。普段は極力抑えているのだ。




 まずは色について。

 完全に自慢なのだが、私は細身長身の足の長いスタイルばっちりのモデル体型であり、そして色白でお肌もすべすべなクール系の超美人である。

 そのためどんな色だろうと似合うのだが、私は白を基調とした淡い色の浴衣を選択した。

 私本来の好みの色は濃い藍色とかなのだし、そのような色を選んでも私はばっちり着こなせるのだが、浴衣を選ぶとき、なんとなくこの浴衣を着たいという気分になったのだ。

 私は普段そのように感情に任せて動くことはほとんどないのだが、服選びなのだからそういうのも悪くないと思ったのだ。


 次に柄などについて。

 私が来ている浴衣の柄は、私の女子にしては高い身長に合わせて大きめの柄で、青色をしている。そして帯の色は赤を選択した。

 白を基調とした下地に青の柄に赤の帯。実に涼しげな様相の浴衣となっている。

 正直かなり人を選ぶ組み合わせだと思うのだが、私は完璧に着こなすことができる。


 私の大きめの胸を押さえるためのサラシを巻いている。大きな胸というのは浴衣を着る際には不要なものなのだ。そのまま浴衣を着てしまうとずん胴体型に見えてしまう。


 今回に限らず普段生活する上で大きめの胸は邪魔なのだし、肩こりの要因となる。

 私ほど顔が整っていれば胸などよほど小さすぎなければ男性も気にしないだろうから、正直もう少し小さい方が良かったと思うのだが、あまり贅沢を言いすぎても仕方のないことだろう。


 それがわかっているからなのか、男子諸君には意外かもしれないが女性は胸の大きな女性というものにあまり憧れたりしないことの方が多い。顔が一番なのは当然として、どちらかというと胸よりスタイルの方を気にする女子の方が多いだろうと思う。

 無論、胸の大小を気にする女子もいることはいるのだろうが、もっと優先すべきことが多いと考えている女子のほうが多いだろう。

 胸の話はネタにしやすいのは間違いないが、本気で悩んでいる人が多いのならネタになったりしないのではないかとも思うのだ。


 さらに赤の巾着を持ち、下駄も黒のものを履くことでおしゃれさを演出する。


 補足だが、浴衣の着付けを私は1人で行うことができる。帯も私は自分で結ぶことができるし、髪を結わえるのも一人で可能だ。

 浴衣の着付けはおそらく男子諸君が考えている以上にとても面倒なことで、ここで手順を語ってしまうとかなり長くなってしまうようなことではあるのだが、これも女子の嗜みというやつだろう。高校1年生で一人にて全部完璧にできる人間は限られているだろうとは思うが。

 何度も言うように私は基本的に何でもできるスーパーウーマンなのだ。






 そうして浴衣を着て祭りの開催場所へと向かう。


 道中においていつも以上に人の目を集めている気がする。

 ……それは確かに私の錯覚なのかもしれない。だが、そう感じるほど気分が高揚しているということだ。いつもと違った格好をするというのはそれほど心躍らせるものなのだ。自分が物語の主人公になったような気分となるのだと言えばわかりやすいだろうか。だから少しくらいは浮かれていても許してほしい。





 いつものことながら、集合時刻まであと10分ほどあるにもかかわらず、着いたのは私が最後だった。

 きっと2人とも私以上にウキウキしていたのだろう。


 女子とは時間にルーズなものなのだという印象が前世の経験からついていたのだが、この2人は違うようだ。

 まあ、そういうのはあくまで傾向に過ぎず、個人で異なるのは当然だとはわかっている。それに、今まで自分がこういう経験をしてきたからみんなそうなのだと決めつけるのはある程度は仕方のないことだとはいえ、ナンセンスだとも分かっているつもりだ。文化祭の件などでこれまで散々思い知らされてきたことであるのだし。

 それを言ったらもはや何も言えなくなるのでは?と思うかもしれないが、何ごとも程度の問題だ。ほどほどの両立というのが重要なのだろう。





「早紀ちゃん凄い大人な感じの浴衣だね! 似合ってる!」


「この浴衣をここまで完璧に着こなすなんて流石早紀ちゃん」



 と、理央と春香は私を褒め称える。

 ふっふっふっ……もっと褒めるがよい褒めるがよい。



「くすっ、ありがとう。二人も可愛いよ」



 と私は返す。こういうお互いの褒め合いっこも女子デートのお約束の一つだろう。

 実際、彼女たちもそれぞれに合った浴衣を着ていてとても似合っている。私と比べるのは酷だとはいえ、2人とも十二分に可愛いと言えるだろう。





 3人で夏祭りを楽しみながら回る。

 今回の夏祭りは小規模のもので、大きな打ち上げ花火が上がることもないし、人が少ないわけではないのだが、そこまで混んでいるわけではない。


 こういう祭りも悪くないだろう。むしろ人が比較的少ない分自分たちの好きに楽しめるため、私はこういう小規模な祭りの方が好みだったりする。

 大規模なものが嫌いと言っているわけでは決してないし、私は別に人混みが嫌いというわけでもないのだが、こういうのも風情があっていいものだろう?





 そして、学校の近くで行われる祭りであるため、暁光学園の学生と思しき少年少女たちが多数見受けられる。

 みんなの視線をとても感じる。いつものことながら私はかなり注目を集めているようだ。

 文化祭のメイド喫茶にて私が有名になってしまったことも原因の一つだろう。



「あれって文化祭のときの美人メイド?」


「メイド姿も可愛かったけど浴衣姿凄すぎない?」


「絶世の美少女ってああいう娘のことを言うんだろうな……」


「……あの恰好でご主人様って言ってほしい」



 なんて声が聞こえる。

 ふっ……私の美貌とは本当に罪なものだな。その節はご来店ありがとうございました、ご主人様。



「早紀ちゃんってほんとどこ行ってもみんなの注目を集めるよね~流石」


「しょうがないよ。こんな可愛い娘いないからね。あたしたちがあの人たちの立場だったら絶対噂するもん」


 などと理央と春香からも再び称賛される。

 よせよせ、照れてしまうではないか。






 3人で一緒に綿あめを購入し、食べる。

 このようにして祭りの雰囲気を楽しむのは実にいいものだ。素材的に考えて値段はぼったくり間違いなしなのだが、少々高いお値段は場所や雰囲気に支払うものと考えればいいだろう。実際私は今とても幸せな気分になっているのだし。



 綿あめをゆっくり食べながら回っていたところ、一組の男女が私たちに話しかけてきた。女性の方は生徒会長さんだった。男性の方は文化祭の時も会長さんと一緒だったため、恐らく彼氏さんなのだろう。



「あなたたちって文化祭の時のメイドさんだよね!?」


「……はい。その節はありがとうございました、お嬢様。ご主人様も」


「「こんにちは」」



 と、私たちは会長さんたちに返す。彼氏さんは苦笑していた。文化祭の時も思ったが、2人は会長さんが引っ張っていくタイプの恋人関係なのだろう。



「入学式の時も思ったけど北条さんって本当に信じられないくらい可愛いよね! しかもめちゃくちゃ頭もいいんでしょ? 先生たちが『今年の1年生の主席は天才だ』って噂してたよ!」


「いえ、流石にそれほどでは……でもありがとうございます」


「そんなことないって! ねえねえ、北条さんってさ…………」




 などと言って会話は続く。


 会長さんが私目当てで話しかけてきたのは明確なので、理央と春香は私と会長さんの会話の間何も言わず黙っていた。それに不満を抱く様子も一切見られない。

 実にできた友人2人だと思う。

 多分こういうことができないと私と深い友人関係を築くことはできないだろう。これまでも何度も見られた光景であるし、それに劣等感や不満を感じるなら深い付き合いは難しいと思う。

 劣等感や不満を感じることが悪いわけでは決してないし、むしろそれが普通のことだと思う。実際中学の頃はそれが理由で私と距離を置く人たちも少なくなかった。

 けれど、理央と春香はそれをしっかりと理解しながらも私に付き合ってくれるのだ。


 いつもいつも思うのだが、私は本当に友人たちに恵まれているな。




 少し会長さんと会話をした後、



「じゃあ3人ともまた学校で会おうね!」


「強引でごめんな。いつもこんなんだけど、悪い人じゃないからどうかよろしく頼む」



 と、会長さんが別れの挨拶をした後に彼氏さんがフォローしてきた。

 実にいい関係だな。将来私に恋人ができたとしたらこういう感じの関係を築いてみるのもいいかもしれない。



「ふふ。いえ、お話していてとても楽しかったです。ありがとうございました」


「「ありがとうございました」」





 そのようにして2人と別れた後、3人で射的をして下手だと笑いあったり、リンゴ飴を食べたりして夏祭りを堪能した。

 実に青春らしいイベントだったな。一人で来ていたら間違いなくここまで楽しむことは出来ていなかっただろう。


 そんなことを考え、前世で誘ってくれた恋人、家族、そして何より今日一緒に回ってくれた理央と春香に感謝しながら帰路に就いた。


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