2話 入学式
今日から私が通う暁光学園はスポーツと学問両方に力を入れているという触れ込みの学校である。
特に硬式野球、男子バスケ、女子バレーにおいて日本最強と呼ばれているほどの強豪であるのだが、勉強面には力を入れているとはいえ、いわゆる超進学校には進学実績で数段以上劣る。
しかし、そんな高校に私は勉強にて特待生として入学した。
ついでに弟の勇人は来年野球にて特待生となることが決まっている。
なぜ前世で通っていたような超進学校に入らなかったのかというと、ぎりぎりだった前世と違い今世では大分余裕をもって帝国大学に入学することができそうで、なおかつ研究者として生きるつもりもないため、これ以上学力を伸ばす必要がないと考えたからである。
加えて、弟も来年から特待生とはいえ、弟の野球を存分にサポートするためにはお金が必要であり、私の分まで負担をかけるのは忍びない。そのため、特待制度のある暁光学園は私には非常に魅力的に見えた。
将来私にも稼いだお金をくれよ。勇人君。
……冗談である。
学力で全国のトップ争いをしている人たちと関われないのは非常に残念ではあるのだが、それは大学での楽しみとしておく。
また、なぜ研究者になるつもりがないのかというと、大学院において、大学院以後も研究者として生きていこうとする同期や先輩、教授方の学問への熱意を見て、自分はこれほどまでには学問に興味を持つことはできないと感じたからだ。加えて、彼らの生活は、本当に四六時中研究漬けで、いわゆるブラック企業の水準などはるかに超越しており、とてもじゃないが私に彼らのような生活は無理だ。
彼らは本当に凄い人たちで、尊敬しているが、私は民間企業でそれなりに仕事をしてそれなりの給料で生きていくつもりだ。
それはさておき、せっかくスポーツに優れた同級生と関われるので、かつて関わってきていた世界とまるで違う話を聞けることを楽しみにしている。前世からだが、私は分野を問わず凄い人と関わることが好きなのだ。前世でも今世でもそういう凄い人たちと関わることができ、本当に私は恵まれていると感じる。
私は勉強での特待生なのでスポーツに優れた人たちと同じクラスになることはないのだろうが、話す機会くらいはあるだろう。去年、弟を通してできた知り合いも一人いることだし。
電車を降りて学校に着き、広いグラウンドを横目に見ながら体育館に向かう。
「おい、もの凄い美人がいるぞ」
「なんだあれ。芸能人?あんな人いたっけ?」
「いや、芸能人でもあんな美人見たことない」
……早速多くの人たちの目を集めているのを感じる。
まあ無理もないだろう。私も逆の立場ならチラ見どころかじろじろ眺めてしまうだろうし。
私が美人すぎるのが悪い。
……お前を指しているんじゃなくて他の誰か美人な人を指しているんだろうと思うかもしれないが、信じてほしい。私は自分でも本当にこんな人間がいるのかと思ってしまうくらいの美人なのだ。
入学式は無難に終わった。
学園長は普通なことを言って退場。
生徒会長は意外にも女の人だった。この手の学校ではてっきり会長は男性がするものだと思っていたのだが偏見だったか。
生徒会長は美人さんだったが私ほどではなかった。よくいるクラスで1番か2番に可愛い娘という感じ。
……女性なので中学の時のように突然告白されることはなさそうだ。
ちなみに、新入生代表は私。まあ当然だろう。
……しつこいかもしれないが私はナルシストではない。できる限り客観的に判断し、事実を伝えているつもりだ。
母と別れ、教室へ向かう。
私の席を確認し、座りに行ったところ、見知った顔が私の席の近くにいた。
なぜ彼がここに?
「秋山君?」
秋山誠二。超中学生級の野球少年であり、世代最強選手と呼ばれている彼がなぜ私と同じクラスに?
スポーツ特待生は違うクラスなのでは?
「ああ、北条さんか。久しぶり。相変わらずだね」
……どういう意味だろうか?
まあ、いい。
「……久しぶり。なんでこのクラスに?」
「……ああ、僕たちも入学前に一応ということでテストを受けさせられてね。その結果だよ」
「…………」
つまり、その時のテストで進学クラスに入れるほど高得点だったからここにいるということか。
さらっと自慢してくるなこの人。他人のこと言えないけど。
それと、一瞬呆れたような眼で見られた気がした。気のせいだろうか?
秋山君とは去年、弟のU15の試合を応援しに行ったときに知り合った。彼がこの学校に来ることは知っていたし、そのうち話しに行こうと思ってはいたのだが、まさか同じクラスだとは。
「あれがあの秋山?野球もできてこのクラスに入るなんてすごいな」
「あの凄い美人って首席の人よね?近くで見ると本当に美人ね」
「というかあの2人知り合いなのか……」
「なんか近寄りがたい雰囲気が……」
「……北条さんってよく見ると胸も大きいんだ(ボソッ)」
……まあ私は美人だし、新入生代表挨拶をしたので目を集めるのはわかっていたが、秋山君はともかく私は決して近寄りがたい人間ではなく、むしろフレンドリーなのだと声を大にして主張したいところ。
そして最後の君、聞こえているぞ。
「僕は北条さんと違ってフレンドリーだから! みんなよろしく!」
「!?」
こいつ!? 先手を!?
「お、おう! よろしくな!」
「こっちこそよろしく! 秋山君にはぜひ野球の話を聞きたいと思っていたの!」
なぜかニヤリとしながらこちらを見てくる秋山君。
……………………。
「……北条さんってもしかしていじられキャラなのかな。かわいい」
……最後の君。ぼそっと言ったから聞こえていないと思っているのかもしれないけれど、しっかりと聞こえているぞ。